少々遅くなったが、先週話題になったiPhone 6s/6s Plusがメーカーによって2種類のA9チップが搭載されていることがわかっているので、その違いと判別方法をまとめてみた。
iPhone 6s/6s Plusには2種類のA9チップがある
韓国SAMSUNG製のA9チップの型番はAPL0898で、RAMはSAMSUNGの2GB LPDDR4 RAMが使われていることがわかっている。また台湾TSMCのA9チップの型番はAPL1022で、RAMはハイニクスの2GB LPDDR4 RAMが使われている。
この2種類のチップは型番だけではなく、APL0898の方はSAMSUNGの14nm FinFETプロセスが採用され、APL1022はTSMCの16nm FinFETプロセスが採用されているという違いがある。
Chipworksによると、以下の図のようになっているという。
Chipworksが公開した上記の図によれば、右側のTSMCの16nm版のA9チップは、左側のSAMSUNGの14nm版のA9チップより面積が大きくなっている。この2種類のバージョンのA9チップは、実際の通常の使用上において、またベンチマークテストの結果の差も大きくなく、実感できるほどのものではないという。
A9チップには何が含まれているのか?
Appleは毎回新型iPhoneがリリースされるとそのプロセッサについてあまり細かい説明をしないのが慣例となっている。そんなわけで、Chipworksのような専門家がA9チップを分解して内部を分析しているのが役に立つのだ。
Chipworksによれば、14nm版(SAMSUNG版)のA9チップが例に出されている。この図では、はっきりとA9チップの詳細を見ることができる。この小さいチップの中に、デュアルコアのCPU、6コアのGPUと2つのSRAM、そしてコプロセッサのM9が搭載されていることがみてとれる。
A9チップのCPU性能:シングルコアが強力
A9チップは一つ前のA8チップと一部が似ており、CPUはデュアルコアのままとなっている。しかしAppleのプロセッサはシングルコアでももともと非常に強力な性能を誇っており、今回のA9チップは更にその強さが際立っている。
Geekbench 3によるベンチマークテストによれば、A9チップの動作クロックは1.83GHz(Apple公式では非公開の数字)で、一世代前のA8チップの1.4GHzに比べかなり向上している。最終的なベンチマークテストの数字は、シングルコアが2526点、マルチコアが4404点となっている。そのシングルコアの性能は歴代iOSデバイスの中で明らかに圧倒的な性能を誇っている。マルチコアの性能は、iPad Air 2に搭載されているトライコア(3コア)のA8Xチップに少し劣り、2位となっている。もし他社のチップと比べた場合、Exynos 7420はシングルコアが1520点、マルチコアが5478点となっており、Snapdragon 810はシングルコアが1331、マルチコアが4294点となっている。この数字を見れば、A9チップのCPUのシングルコアの強力さがわかるのではないだろうか。
以前記事にも書いたとおり、このベンチマーク結果を新しい12インチ Retina MacBookと比較すると面白い。Daring Fireballが面白い比較をしており、1.1GHzのMacBook(デュアルコアのCore M-5Y31プロセッサ搭載)で同様のGeekbench 3を走らせると、シングルコアが2295点、デュアルコアが4464点となっている。この点では、Appleが発表イベントでコンピュータを凌駕する性能という言い方は広告法に違反しないといえるだろう。ただし、AppleのAシリーズプロセッサはGeekbenchのテストではこれまで常にいいポイントを示しているため、テストとの相性がいいのかもしれない。そんなわけで、Core Mプロセッサとの単純なGeekbenchでの性能比較をすることについてはもう少し理性的に読んだ方がいいかもしれない。
A9チップのGPU性能:現状トップクラス、最強レベル
A9チップのGPUは6コアになっており、Appleの御用GPUサプライヤーのImagination Technologiesの製品ラインを見てみると、このGPUはかなりの確率で去年のA8Xに搭載されて異彩を放っていたPower VR GX6650か、またはその上のPower VR GT7600ではないかとみられている。A9チップに搭載されているGPUの具体的な型番については、以下のGFXBenchの結果から推し量るしかない。
A9チップのグラフィックプロセッサのベンチマークテスト結果は、様々なテスト項目で非常に優秀な成績をおさめている。昨年のグラフィック性能トップだったTegra K1を搭載したShield Tabletと比較すると、A9チップのGPUはほぼ全てのテスト項目でTegra K1を凌駕していることがわかる。
まとめ
A9チップは典型的なAppleのプロセッサの風格を保っているといえる。
CPUでは大きめのコアという路線を崩さず、コア数も他社の8コアや10コアなどに比べれば少ないが、シングルコアでの性能はぬきんでており、それがデュアルになることで性能は一流を保っている。SAMSUNGとTSMCの2社によるOEMとはいえ、この2社のプロセッサは実際の通常使用ではその違いは体感できない。ただ、当ブログでも書いたとおり、Javascriptによる動画という重い処理の実行を1時間行った場合、TSMCのチップの方がバッテリーの減りが少ないという結果が出ており、TSMCの方が全体的に省エネの可能性がある。
GPUに関しては、これもAppleの長く続く優勢のひとつで、A9チップのGPUによるグラフィック性能は大変優れており、記事更新現在、iPhone 6s/6s Plus以外のスマートフォンでTegra X1と戦える性能の製品はほとんどない。
まとめれば、AppleのA9チップはExynos 7420の次世代製品やSnapdragon 820が普及する前段階では、マーケットにおける最強のSoCだということがいえるだろう。
あなたのiPhone 6s/6s PlusのA9チップのメーカーの判定方法
すでに色々なところに出回っている情報ではあるが、一応おさらいということで。A9 Identifier(CPU Identifier)というアプリを使うのだが、App Storeから入れるわけではないので要注意。不安な人はやらない方がいいかもしれない。
- iPhone 6s/6s Plus上のSafariで、http://demo.hiraku.tw/CPUIdentifier/ にアクセスし、Installをタップする。
- 出てきたウインドウでインストールをタップすると、バックグラウンドでインストールが始まる。
- 設定>一般>プロファイルで、Shenzhen…から始まるこのCPU Identifierのプロファイルを”信頼”する。
- iPhone上のデスクトップ(Springboard)に追加されたA9 Identifierアイコンをタップする。
私のiPhone 6s Plus 香港版SIMフリー 128GB ローズゴールドモデル2台(家族用含む)は、両方ともTSMCだった。
記事更新時点のiPhone 6s/6s PlusのA9チップメーカー、TSMCとSAMSUNGのシェア比較
上記のA9 Identifierでは、このアプリを使ってA9チップメーカーのチェックをしたデータを集め、その数値を公開している。シェア記事更新時点では、iPhone 6s/6s PlusのA9トータルでのTSMCとSAMSUNGの比率はほぼ50:50で拮抗している(若干TSMCが多い)。
iPhone 6sとiPhone 6s Plusの機種別比較では、iPhone 6sではSAMSUNGが59%とTSMCを少し上回っており、逆にiPhone 6s PlusはTSMCが70%近いシェアとなっている。合計と矛盾するような気もするが、サンプル母数がわからないのでなんともいえない。恐らくiPhone 6sの方が沢山売れているのだろうと予想される。
記事は以上。
(記事情報元:iFanr)