27年前の1992年10月20日(米国現地時間10月19日)、AppleはMacintosh IIvx(以下Mac IIvx)をリリースしました。内蔵CD-ROMドライブを初めて搭載した最初のMacintoshで、しかも金属シャーシを採用した初めてのMacでもありました。そしてこのMac IIvxは、Macintosh IIシリーズの最後のモデルとなりました。そしてこのMac IIvxは、画期的であったにもかかわらず世界を席巻することができず、逆にAppleの歴史の中でも最悪の黒歴史を経験したのです。
Cult of Macの記事をベースに意訳を含め楽しく紹介していきたいと思います。
Mac IIvxはAppleの黒歴史。。
なぜAppleの歴史の中でも黒歴史なのか?というと、このMac IIvxは出荷開始から5ヶ月以内に、販売価格が2,949ドルから1,899ドルまで、なんと1050ドルも引き下げられ、大不評を買ったのです。この件はまた後ほど詳述します。
Mac IIvxは最初は内蔵CD-ROMを搭載する実験プロジェクトからスタート
内部開発コード名「Brazil(ブラジル)」と呼ばれたこのMac IIvxは、実は内蔵CD-ROMドライブ(ROMですから読み込みのみ。。そんな時代もあったのです)をMacに組み込む方法を調べるための研究プロジェクトとして始まったのが開発のきっかけと伝えられています。しかし、Appleの当時のCEOであるジョン・スカリー(John Sculley、スティーブ・ジョブズ追放後のCEO)がMacWorld Tokyoでこの機能を備えた将来のMacintoshについて説明するスピーチを行った後、Appleは本気で開発に取り組み、このMac IIvxをリリースさせたのです。
当時、少なくとも若いユーザーの観点からは、Mac IIvxは印象的なマシンのように見えました。特に、その時代では最先端だったCD-ROMというメディアによるマルチメディアソフトウェアを利用したゲームのためのコンピューターが必要な場合は。
実際、世界でコンピュータ用のコンシューマ向け初代の外付けCD-ROMドライブは、初代Macintoshリリース後1年後の1985年に発売されていました。そしてその3年後の1988年から、AppleもMac用のSCSIベースの外部CD-ROMドライブをAppleCDという名前で生産し、発売していたのです。
しかし、大多数のユーザーにとって、CD-ROMは非常に豪華な周辺機器としかとらえていませんでした。そのためCD-ROMドライブは、ほとんど家庭、オフィス、または学校のコンピューターに接続するようなものではありませんでした。
内蔵CD-ROMドライブだけじゃない
Mac IIvxは、初めて内蔵CDドライブを搭載したMacとして登場しました。そしてAppleは2008年1月にMacBook Airの発売から内蔵CD・DVDドライブデバイスを段階的に廃止し始めるまで、Macにはこの慣行は続きました。2012年にようやく、AppleはiMacからCD・DVDドライブを取り去り、Appleの製品から内蔵CD・DVDメディアドライブが消え去ることになりました。それももう7年も前の話なのですね。
このMac IIvxは、QuickTimeがMacで使えるようになったタイミングで登場しました。この簡単にビデオを再生できる機能は、その当時でも信じられないほど未来的なものでした。Mac IIvxには、ビデオデコードソフトウェアのより高速で堅牢なバージョンであるQuickTime 1.5がバンドルされています。これにより、ユーザーは毎秒30フレームで640 x 480のビデオを視聴することができました。
さらに、IIvxはサブモニターをサポートしていました。これにより、Macユーザーは、ドキュメント、ファイル、およびフォルダを2つの画面に展開することができ、デスクトップの作業領域を大幅に拡大できます。
そして、これらの画期的な機能は1992年にAppleによって実現されたのです!!
Mac IIvxが愛されなかった理由(わけ)
上記の素晴らしい機能をみれば、Mac IIvxはAppleの歴史の中でも最も愛された製品として名前を残したでしょう。しかし多くの人が、この製品を無視しただけではなく、英語で「IIvx-ed(不満になる、不機嫌になる)」という動詞が流行るくらいの不評を買ったのです。この製品名が悪い方面での動詞になったのはAppleの歴史の中でも空前絶後のことです。ではなぜこんなことになったのでしょうか?
その理由はいくつかありますが、まず1つ目は圧倒的なスペック不足にありました。Mac IIvxは16MHzバスで32MHz CPUを実行したため、3年前の1989年にリリースされたMac IIciよりも30%も速度定価しパフォーマンスが劣るという最悪の結果になったのです。更にMac IIciに32KBキャッシュを追加して拡張すると、なんとIIvxよりも60%高速になったのです。更に、Mac IIvxのシリアルポートが57.6kbitに速度が制限されていたため、シリアル接続やMIDIハードウェアとの接続で問題が発生しました。マルチメディアデバイスとしてデビューしたにもかかわらずです。
当時はもう3年も経ち老朽化していたMac IIciはまだまだ大人気でした。そしてより多くのユーザは、3年前のデバイスよりも低速で動作する新しいモデルを購入する代わりに、より古く、しばしば値引きされる老朽化したIIciの方を選択したのです。気持ちはわかりますね。現在に置き換えてみれば、最新のiPhone 11 Proが3年前のiPhone 7よりも動きが遅かったら、、誰もが買わないのは目に見えています。
更に他の仕様に関しては、IIvxは4MBのRAM、80MBのハードドライブ、3つのNuBusスロット、アクセラレータスロット、512KのビデオRAM(VRAM)を誇っていただけに、CPUの遅さとシリアルポートの通信速度の遅さが最大の欠点になってしまったのです。
そしてそれよりも更に大きな問題は、非常に強力なMacintosh Centris 650が直後に登場したことでした。これは、IIvxが出荷されてからたった4か月後に登場し、しかもIIvxよりも250ドルも安く、最低価格が2,700ドルだったのです。
結局Appleは、Mac IIvxをエントリーレベルのCentrisモデルとして再配置しました(しかしCentrisの名前は付いていませんが)。同社はそこで、IIvxの価格を1,899ドルに引き下げました。発売開始時にこぞってIIvxを購入するために駆けつけた、本当の意味でのアーリーアダプターのAppleファン達は、わずか4か月で1,000ドル以上を騙されたことになり、大変物議を醸しました。そう、これが黒歴史になったのです。
そういえば10年ちょっと前、初代iPhone(iPhone 2G)も実は途中で200ドルの値下げをして顰蹙を買い、慌ててスティーブ・ジョブズが200ドル高い値段で買ったユーザに100ドルのAppleギフトカードを配ることを発表してなだめたという黒歴史があったのを覚えている人はいるでしょうか?しかしMac IIvxはその価格差は1,050ドルです。初代iPhoneの比ではありませんでした。Mac IIvxの値下げ騒動は、Appleの歴史で最も大きな黒歴史と呼んでいいレベルかもしれません。
Mac IIvxはAppleの長所と短所を詰め込んだデバイスだった
Macintosh IIvxはそんなわけで、Appleの長所と短所を一気に詰め込んだようなデバイスだったといえるのではないでしょうか。
長所としては、Mac IIvxは非常に印象的なマシンでした。ほとんどのPC所有者が当時使用していたMS-DOSを実行しているベージュ色のプラスチック製のシャーシの周りをコミカルに踊ったのです。IIvxはAppleのSystem 7 OSで動作し、CD-ROMテクノロジーを人々の家庭に持ち込むのに役立ちました。
反面、その紛らわしいネーミングは、初代Macintoshが出荷されてからAppleの製品ラインが10年以内にいかに複雑難解になったかを当時再び強調するものとなりました。AppleはMac IIvxを市場に投入しましたが、数か月以内にそれを冗長化、突然の値下げが最初に購入したアーリーアダプターのAppleファン達を激怒させた、という事実は、90年代初頭のAppleの混乱する企業文化をよく表した出来事だったといえるかもしれません。
ジョン・スカリー、ギル・アメリオCEOを経てスティーブ・ジョブズがAppleに復帰してからは、かなり製品ラインがシンプルになりましたが、その後の現在のティム・クックCEO時代では特に最近のiPadあたりがちょっと複雑な感じになりかけているような気がするのは私だけでしょうか。。
記事は以上です。
(記事情報元:Cult of Mac)