AppleはAR/VRデバイスの開発を行っているというのは長年の噂ではありますが、そのAR/VRデバイスの開発において、Apple Technology Development Groupの幹部であるマイク・ロックウェル(Mike Rockwell)氏と、昨年Appleを退職したかつてあのスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)がもっとも信頼していたといわれるAppleのデザイン部門のトップ、ジョニー・アイブ(Jony Ive)元CDOが衝突していたことを、ブルームバーグ(Bloomberg)が伝えています。
Appleの内部事情に詳しいブルームバーグのマーク・ガーマン(Mark Gurman)は、AppleのAR/VRデバイスの開発の開始は2015年後半に遡るとしています。Appleは、Apple Watch以来のこの主要かつ完全な新製品を目指したプロジェクトに取り組むために、最大1,000人のエンジニアを投入したということです。しかし、AR/VRデバイスプロジェクトはその方向性について社内で意見の相違があったということです。
Apple社はARデバイスとVRデバイスの2つのデバイスの開発に取り組んでいて、VRデバイスの方はコードネームが「N301」と呼ばれるプロジェクトで、AR画像や動画をオーバーレイし、ゲームやその他のVRコンテンツに使用できるヘッドセットで、「最高の形でVRとARを組み合わせる」というデバイスです。そしてARデバイスはコードネーム「N421」と呼ばれていて、こちらはARのみを使用した軽量のメガネ型デバイスということです。
「N301(VRデバイス)は当初、ウェアラブル製品ではこれまでになかったグラフィックスと処理速度を備えた超強力なシステムになるように設計されました。そのため処理能力は非常に高度なものになり、結果大量の熱を発生させることになったため、このテクノロジーは洗練されたヘッドセットに詰め込むことはできませんでした。代わりに、ロックウェルのチームは、ワイヤレス信号でヘッドセットに接続する、小さなMacに似たプロトタイプ形式の固定ハブを販売することを計画しました。ロックウェルの初期のバージョンでは、ヘッドセットは、それほど強力ではない独立モードで動作することもできました。」
しかし、このアイデアに対してあのジョニー・アイブ元CDOが同意しなかったというのです。アイブは恐らく「本体が動作するために別個の固定デバイスを必要とするヘッドセット」というアイデアが気に入らなかったでしょう。アイブの考えは「すべての技術をウェアラブルデバイス内部に組み込んで、それ自体で機能するもの」というものでした。このリーダー同士の考えの衝突によるプロジェクトの進行の停止は何ヶ月も続いたということです。そして、ティム・クック(Tim Cook)CEOは最終的にはアイブ元CDOの味方についたということです。
AR/VRデバイスは現在、いわゆるスカンクワークス・プロジェクト(skunkworks project、主に急進的な革新を目的として研究および開発される、比較的小規模で緩やかに構造化されたグループによって構成されるプロジェクト)としてAppleで開発が進行中ということです。チームメンバーは、Apple本社のApple Parkがあるクパチーノ(Cupertino)の北隣のサニーベール(Sunnyvail)市にあるオフィスに勤務していて「異常な程の独立を享受している」と推測されています。
この幹部同士の衝突を生んだVRデバイスは、「超高解像度画面」と「映画用スピーカーシステム」を兼ね備えています。プロトタイプは、ほとんどがファブリックボディの小さいOculus Questヘッドセットのように見えるということです。AppleはこのVRデバイスプラットフォーム用に独自のApp Storeを計画しているといい、またこのデバイスにもSiriが搭載されるということですが、Appleはまだ販売価格を決めていないようです。
ブルームバーグはAppleが来年頃に最初のヘッドセットを発表し、2022年にこのVRデバイスをリリースすることができるとしています。一方、AppleのARメガネ型デバイス「Apple Glass」は「2023年までに」またはそれより早くリリースされるとしています。このマーク・ガーマン氏の予測は、最近リーカーとして非常に活躍しているジョン・プロッサー(Jon Prosser)氏のレポートとはまったく対照的で、プロッサー氏は5月20日に、来年には販売される可能性があると主張しています。
現段階では噂に過ぎないため、AppleのAR/VRデバイスがいつリリースされるかどうかは定かではありませんが、いずれにせよAppleはどちらのデバイスについても動いているのは間違いないようです。ジョニー・アイブが昨年退職し、後継者としてAppleのデザイナーのトップに立っているアラン・ダイ(Alan Dye)がマイク・ロックウェル氏と対立しているのかどうかは今のところわかりませんが、アラン・ダイ氏の発言力は、あの数々の成功したプロダクトを生み出してきた古参で、CDOという地位にいたジョニー・アイブに劣るのは間違いないでしょう。
テクノロジーの進化によって、より高性能で発熱が少ないメカニズムが開発されるのは間違いなく、しかもAppleは独自設計のプロセッサを採用しているため、他社よりもフレキシブルに、更に早く高性能なVRデバイスを開発できる可能性があります。
ただ、実際にどのように使用されるのか。。それらのユーザ経験も含めて、Appleはアピールしていかなくてはならないと思います。ティム・クックCEO時代になって、実際に全く新しい新製品として登場したハードウェアは、まだApple Watchのみといえます。AR/VRデバイスは正にAppleにとって、新境地を築くデバイスになるかもしれません。とはいえ、当然iPhone/iPadなどのiOS系や、MacのmacOS、Apple WatchのwatchOSなどとも親和性が高くなるのは間違いなさそうです。
記事は以上です。
(記事情報元:Bloomberg)