36年前の1983年1月1日(日本時間1月2日)、Apple ComputerよりパーソナルコンピュータのApple IIeがリリースされました。このApple IIeはApple IIの中でも3世代目のモデルで、その翌年にはあの初代Macintosh、つまり現在のMacの始祖といえるパーソナルコンピュータがリリースされます。このApple IIeは非常に売れ行きがよく、Apple IIの寿命を非常に長く延ばしたことで、Apple IIシリーズの成功を証明したマシンとなりました。と同時に、市場がAppleの思惑通りに動かず、Apple IIを延々とリリースし続けることで新製品の売れ行きに影響し、結果的にAppleを後にピンチへと追い込むきっかけにもなってしまったともいえるかもしれません。
実は全く計画されていなかったApple IIe
Apple IIeは、1世代前のApple II Plusに置き換わる形でリリースされますが、もともとAppleはApple IIを廃止し、Apple IIIの製品ラインに移行しようとしていました。しかしその目論見は失敗に終わります。その辺りのことは当ブログでも詳しく解説しています。
ともかく、AppleはApple IIIの主にエンジニアリングによる商業的な失敗により、Apple IIが長い間延命されることになります。結局90年代までApple IIの派生モデルを製造・販売するなど、Appleは熱狂的なファンに支えられ、ヒット商品の長期間のアップデートを余儀なくさせられます。
Apple IIeは、ローコスト(廉価版)Apple IIとも呼ばれ、筐体の肉厚を減らすなどのコストダウンがはかられましたが、逆に機能としては充実し、拡張スロットが更に追加され、80行のテキストモードのサポート、64KBのRAM搭載(128KBに拡張可能)、そして初めて英語の小文字を扱うことができるようになったマシンでもありました。
また、Apple IIeではこれまで基板上の部品数が100個以上だったのをたったの31個に減少させていました。これもコストダウンにつながり、Appleに巨万の富をもたらします。なんと、製造コストの3倍もの価格で売れたからです(当時の販売価格は1台$1,395米ドルでした)。
▼Apple IIeの当時のCM。子供の教育にもApple IIe。Appleの広告のセンスの良さは昔からですね。
商業的な成功が、Appleに致命的なダメージをもたらす
Apple IIeはリリース直後から非常に好意的に受けいれられました。当時のByte MagazineもApple IIeのことを、”Apple IIに全ての拡張機能が追加され、バラエティ溢れたエキサイティングな新機能と容量がほんの少しの金額の追加で購入可能になる”とべた褒めしていたほどです。
Apple IIeは市場からも熱烈に歓迎されました。1983年5月の1ヶ月で、その販売台数は60000台から70000台となり、これは前世代のApple II Plusの倍以上の数字だったのです。そしてその翌年の1984年にApple IIcが登場するまで、Apple IIeはベストセラーとなります。同じ月にリリースされたLisaとApple IIIは失敗の一途を辿り、初代Macintoshは鮮烈なデビューを飾ったものの、ビッグヒットには至っていませんでした。そしてApple IIeはその売上げを積み重ね、Appleの中での勝者の地位を不動のものとします。
Apple IIeの大ヒットに比べ、失敗作となったApple IIIは、その高めに設定された価格もさることながら、スティーブ・ジョブズの無駄に偏執なこだわりによって放熱性が著しく損なわれ、ハードウェア的な不具合が頻発していました。熱暴走するだけではなく、基板から部品が溶け落ちるようなことさえあったといいます。また故意にApple IIとはソフトウェア的な互換性を低く設定され、これまでのApple IIのヒットの要因となった便利なソフトウェアが使えず、外部の評判が非常に悪いスタートになったのが災いします。Lisaについても確かに初めてGUIとマウスを搭載した先進的なコンピュータではありましたが、価格が高すぎて一般人には高嶺の花でした。
それらに比べ、Apple IIeはこれまでのリソースを利用できる上にローコスト版で価格が手頃だったことから、その大ヒットが続いたのではないかと思われます。しかし、結局Appleが狙っていた新しいプロダクトが売れなかったことから、その責任を追及される形でスティーブ・ジョブズはAppleを追われます。そしてジョブズがAppleのNeXT社買収という形で復帰するまで、Appleは長い低迷期に入るのです。そう考えると、Appleに繁栄をもたらしたApple IIが、逆に長く売れすぎて結果的にAppleにダメージを与えてしまったといえるのかもしれません。
Apple IIも、初代Apple Iと同様、Apple共同創業者の一人、スティーブ・ウォズニアック(Steve Wozniak)の一人の手によって設計され作られたものです。そして便利なソフトウェアも同様でした。そう考えれば、やはり希代の天才の作品はすごかったのだといわざるを得ません。ちなみに、Apple IIeに搭載されていたCPUは1.02MHzの6502チップで、これは初代Apple Iや初代Apple IIと同じものです。数年経っても同じものが使われているとは、当時はCPUの進化のスピードはそれほど速くなかったんですね(その後、Apple IIeはマイナーチェンジモデルがリリースされ、65C02チップに切り替わります)。
なお、Apple IIeについてのマニアックな解説はぜひ以下のホームページやブログもご覧ください(日本語ソースです)。
記事は以上です。
(記事情報元:Cult of Mac)