FBIが調査していた中国籍のAppleの元従業員、Xiaolang Zhang容疑者が、Appleから商業的機密情報を盗み出し、自動運転自動車に関する極秘のロードマップなどを自分のノートPCにダウンロードして保存し、そして米国から中国行きの航空券を買って帰国しようとしたところを空港で検察によって逮捕されました。
起訴状で判明、容疑者はAppleのプロジェクト・タイタンで働いていた
Bloombergの報道によると、このことはノースカロライナ州の地方裁判所に提出された起訴状からわかったということです。2015年12月にXiaolang Zhang容疑者はAppleに採用され、既に公然の秘密となっている同社の自動運転電気自動車のプロジェクト”タイタン(Titan)”(現在は既にプロジェクトが凍結されていると噂されています)で働いていたとのことで、当時は自動運転自動車のソフトウェアとハードウェアを担当していました。
Zhang容疑者の行動の証拠はAppleが抑えていた
起訴状によると、AppleはZhang容疑者が辞職する前に同社の秘密データに大量にアクセスしていて、4月28日にはApple Parkを訪れていたとしています。当時Zhang容疑者は産休をとっていたはずで、その時点で既にApple内部の規定に違反しています。
更にApple社内のセキュリティカメラの映像によれば、Zhang容疑者は4月28日の夜9時14分にAppleの自動運転自動車のソフトウェアとハードウェア実験室に入っていたことがわかっています。サーバのアクセスログでも、その時間に機密データベースに大量のアクセスがあったことが示されていて、Zhang容疑者はパソコンとキーボード、ケーブルと1つの大きな紙袋を持ってそそくさと現場を離れたということです。
そしてこれらの疑わしい行動と十分な証拠を把握した後、Appleのセキュリティ担当弁護士が5月1日にAppleのHR部門に連絡し、Zhang容疑者をAppleに呼び戻して面談をすることにしたのです。
Zhang容疑者は最初は行為を認めず、更に言い訳も
Zhang容疑者はそこで、Appleで仕事をしている間に、中国国内の小鹏汽车公司(小鵬、Xiao Peng)に転職しようとしていたことを明らかにしました。小鵬汽車は、自動運転技術に特化した、中国のベンチャー企業です。Zhang容疑者はAppleに就職する前に知的財産契約にサインしており、雇用される時にも秘密保持に関する教育も強制的に受けさせられていました。しかしZhang容疑者は明らかにこの知的財産契約に違反したことになります。今年6月下旬のFBIによる聴取の際に、Zhang容疑者は機密情報を盗んだことを認めています。
実はZhang容疑者は最初は自分が休暇期間中にApple Parkに入ったことを認めず、また同社の資産を盗んだこともないとしていました。しかしAppleが社内のビデオ映像とアクセスログなどの証拠を握っていることを伝えたところ、Zhang容疑者は休暇期間中にApple Parkに入ったこと、そしてその休暇期間中にデータベースの中からデータを盗み出したことを認めています。更に、Zhang容疑者は休暇に入る前にも、実験室から2つの基板と1台のLinuxサーバを盗み出したことも認めました。
Zhang容疑者は自分がそのようなことをやったのは、Appleの新しい部門での仕事で必要だったからと主張しました。休暇前に、Zhang容疑者は独立した研究部門に異動することを上司と相談していましたが、結局新しい部門には行っていませんでした。また彼は更に、それらのデータをダウンロードしたのは、彼がプラットフォームに興味があり、今後独立した研究ができるようにしたかったためと言い訳をしていました。
帰国して逃亡しようとしたところを空港でお縄に
そして7月7日、FBIの調査官が、Zhang容疑者が当日1人で中国に帰国する海南航空の航空券を買っていることをつきとめ、FBIはサンノゼ空港で彼の帰国(逃亡)の阻止に成功、そして商業機密窃盗罪の容疑でZhang容疑者を逮捕しました。起訴状には、Zhang容疑者の犯罪は既に”重罪”に値する、と書かれています。
容疑者は10年の監獄行きと2775万円の罰金を科せられる可能性も
Zhang容疑者は、10年の収監と25万ドル(約2,775万円)の罰金を科せられる可能性があります。Appleのスポークスマンはメールで、「Appleは我々の知的財産の保護を非常に重視しています。この件について当局と協力し、全ての可能性をもって、関連する行為にとって責任をとることを確保していきます」と書いています。
容疑者の転職先、小鵬汽車はこの件に一切関与していないと回答
小鵬汽車は既にこの件についてコメントを発表しており、Zhang容疑者は転職の際に知的財産に関わる合法的な文書にサインしていたとし、小鵬汽車にいかなる敏感で違法な情報を渡していないとしています。小鵬汽車はこの従業員(Zhang容疑者)の機密の窃盗については全く知らず、どんな形においてもこの事には関与しておらず、同社は既にZhang容疑者のパソコンや事務用品に封をし、調査に積極的に協力するとしています。
小鵬汽車は一切認めていませんが、Zhang容疑者が前職がAppleであったこと、またProject Titanで働いていたのを知っていたことは間違いなく(そうでなければ小鵬汽車がZhang容疑者を中途で雇う理由がありません)、Zhang容疑者が会社の指示でやっていた、或いはZhang容疑者が転職の際の”土産”としてこれらのデータを転職先の小鵬汽車に渡そうとしていたか、或いは既に渡している可能性は十分あると私個人は思います。
小鵬汽車がベンチャー企業で、自動運転技術というかなりホットな分野で競合他社と熾烈な競争に晒されていてそれらを出し抜く必要があることから、Appleなどの大会社から研究データを盗んでしまおうと考えていても不思議ではないからです。
中国籍の人間がアメリカで起こした事件、米中貿易戦争が勃発する中で最悪のタイミングだったかも
今回知的財産に関してはまだまだ意識が非常に薄い中国企業と、そんな環境で育った中国籍の人間が起こしたということもあり、中国に住んでいて正直中国や中国人の悪口は書きたくないのですが、ああやっぱり中国企業や中国人がやった事件か、と思われてしまうのが哀しいところです。折しも米中間で貿易摩擦どころか貿易戦争が勃発しているところでこの事件がアメリカで大々的に報じられると、ますます中国に対する警戒感や嫌悪感が増してしまうのではないかと心配しています。
しかし当然Zhang容疑者が産業スパイだった可能性は捨てきれません。もちろん中国人だけが産業スパイをするわけではなく、どの国でもある程度はやることだとは思いますが、今回は随分タイミングが悪いニュースになってしまった気がします。FBIまで動いていますし、社会的な影響が大きいため、裁判官もそのあたりのことを考慮に入れた判決を下すかもしれません。Zhang容疑者が最終的に裁判でどう裁かれるのか、そしてそれによっては小鵬汽車の評判にも繋がっていくのは間違いないので、私は個人的にこのニュースからは目が離せません。何か進展がありましたら、当ブログでもお伝えしていきたいと思います。
Appleはこの件で期せずして自動運転技術の研究開発を公式に認めることに
しかし、このことによってAppleは、期せずして自動運転技術のソフトウェアもハードウェアも社内で研究していたことを公式に認めることになります。秘密主義を貫くAppleと、ティム・クック(Tim Cook)CEOとしては頭の痛い問題ではないでしょうか。
記事は以上です。
(記事情報元:Bloomberg)