スティーブ・ジョブズの4回目の命日に捧ぐ:巧妙で見事な交渉術とは

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敬愛するスティーブ・ジョブズの4回目の命日から2日経った。様々なエピソードがネットに溢れる中、中国のメディアiFanrで紹介されているこんなエピソードはいかがだろうか。正に今、アメリカ大統領選挙に立候補している前hp(ヒューレット・パッカード)CEO、カーリー・フィオリーナ(Carly Fiorina)とスティーブ・ジョブズの関係についてだ。ジョブズの正に計算し尽くされた交渉と計略に、背筋が凍るような思いがするかもしれない。

ああ、もちろん、スティーブ・ジョブズの亡霊の話じゃないからご心配なく。

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10月2日、前hpCEO、カーリー・フィオリーナが、アメリカ大統領選挙の演説でこんなエピソードを明かした。

私がhpの取締役会によって解雇されたとき、Appleの創業者のスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)から電話があって、彼は私を慰めてこう言ったのよ。「会社から解雇されるなんてどうってことはないさ。この世の終わりだなんて思わないことだね、だって僕も解雇されてるからね。しかも、2度も。」

テック業界から大統領に立候補した人にとって、既にこの世を去っているあの偉人からこのような特別待遇があったということを多くの人に知らしめたのは、あくまでもテック業界に興味を持つ人達からの票を集めるのが目的なのは間違いない。なぜなら現在、彼女の古巣だったhpよりも、Appleの方がよほどテック業界に影響力を持っているのだから。

この演説を聞いた後、Medium.comのBackchannelの編集長のSteven Levyは上記の内容に不満を漏らした。彼はMedium上でかなりの切れ味鋭い文を載せ、ジョブズがフィオリーナに慰めの電話をかけた原因となった背景について分析している(文中では彼自身の政治的立場についても触れている)。

フィオリーナ前CEOは、演説の中でジョブズがあたかも自分の親友のように語っていて、彼女が不愉快なことがあるとジョブズが気にして電話をして慰めてくれたことになっていたが、Levy氏が知っている事実はそんなに簡単なことではなく、彼の描写によれば、その電話は単にAppleとhpとの間の悶着事件における最後の一声にすぎなかったという。

hpとAppleのコラボ:hp版iPodを覚えているか?

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Appleは2001年に音楽プレイヤー【iPod】をリリースした。「あなたの音楽を全部ポケットに入れて持ち歩こう」というキャッチコピーと共に。

リリースされてから数年、この小さなデジタルデバイスは、世界中の大部分の人達の音楽の聴き方の習慣を変えてしまった。iPodの販売台数が日に日に伸びていった時期に、スティーブ・ジョブズは当時hpのCEOだったカーリー・フィオリーナに、以下のような提携話を持ちかけたのだ。

hpが自社の販売するPCにiTunesをプリインストールする代わりに、Appleはhpのために特別な独占的に販売可能なhpのマークを入れたiPodを提供する。

これは当時のフィオリーナCEOにとっては大変魅力的な、所謂「コラボ提携話」だった。なぜならAppleは当時はそれほど多くの直営小売店を持っていなかったし、絶対多数の人がAppleのオフィシャルサイトでないとiPodが買えなかったからだ。それに対してhpの小売店は世界中に無数にあった。フィオリーナCEOはこのコラボに非常に自信を持っていた。もし自社の名前を冠したiPodがバカ売れしたら、hpのブランドのイメージアップと販売利益アップの一石二鳥となるし、自社のPCにiTunesをプリインストールすることは、彼女にとっては簡単で特に何か対価を支払うようなものでもなかったからだ。

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というわけで、この【hp版スペシャルiPodコラボ提携】はこれで決まり、そして始まった。

hpの大誤算、iPodコラボでhpは大損

しかしフィオリーナCEOがこのhp版iPodコラボによって一石二鳥となるということをわくわくして待っている間に、事態は彼女が思っていた以上に目まぐるしく変化した。

まずは自社の名前を冠したiPodが簡単に見分けがつくように、彼女はジョブズにブルーのiPodを生産するようにお願いしたが、ジョブズの回答は「We’ll see(考えておくよ)」と、とても冷たいものだったのだ。これは明らかにhpの誤算で、詰めが甘かった。そして提携が結ばれて7ヶ月後にhp版iPodがリリースされたのだが、通常版と異なるのは単にAppleとiPodのロゴの下に小さくhpのロゴマークが刷られているという点だけだったのだ。

この”hpスペシャルバージョンiPod”は、hpが期待する効果には全く至らなかったことはいうまでもない。

iPod_hp

まあこれはいいとして、フィオリーナCEOはまだその頃、hpは販売においては優位性があると考えていた。しかしhpとAppleが提携に合意した後の数ヶ月の間に、Appleの直営小売店(Apple Store)の数が増加し、ユーザは気軽に実店舗に行って自分の好きなiPodを選ぶことができるようになってしまっていたため、hpの優位性はなくなってしまっていたのだ。

しかしもっと悲惨な事実が待ち受けていたのだった。

最悪だったのは、hp版のiPodがリリースされてから間もなく、Appleが次世代の新しいiPodをリリースしたことだった。そしてhpの新機種に関する自社モデル権限については契約書に入っていなかったため、結局hpは世界中の小売店で旧型機種のiPodを売らなければならなくなった。そう、時代遅れの、淘汰されたデバイスをだ。誰がhpまで行ってそんなiPodを買おうと思うだろう?

そんなわけで、hpが発表したAppleとのコラボ提携での実績は目を覆うばかりのものだった。hpが販売したiPodの数量は、最高の時でも全てのiPodの販売数量の5%にも満たなかったのだ。

巧妙なジョブズ、実はWin-Winになり得ない提携だった

実は当時ジョブズがフィオリーナと提携を結んだ理由は非常に簡単だった。その頃、一般的にユーザはPCのプレインストールソフトウェアを使用するという傾向があったため、プレインストールソフトウェアは絶大な価値を持っていたのだ。もしAppleがhpに直接iTunesをプレインストールするよう持ちかけ、その権利を”買って”いたら、数億ドル(約数百億円)もの資金が必要となったはずだった。そこでジョブズはこのような「リソースの交換」という手段で、iTunesを100万台を超えるhpのPCにプレインストールさせることに成功し、そして同時に当時の大部分の競争相手の抹殺に成功したのだった。

つまりhpとAppleのスペシャルiPodの取引において、hpは自社が販売した全てのPCがAppleの為に価値を創り出したが、逆にhpにとってこの可哀想なhp版iPodは、フィオリーナCEOのhpの取締役会での印象に悪影響を及ぼしてしまった。もちろんこのAppleとのiPodコラボがフィオリーナCEOが解雇された主な原因となったわけではないが、彼女のただでさえ暗い過去の上に”更に顔に泥を塗る”事件であったのは間違いないだろう。

そんなわけで、hpの取締役会でフィオリーナCEOの解雇が決まった後、ジョブズは彼女に電話をかけ、「解雇なんてどうってことないのさ」と慰問をした、というのが真相だろう。

さて、このことはジョブズが最初から故意に狙ってやっていたことだろうか?Appleの内部の人はこう語っているという。

We knew we were snowing them the entire time!(私たちは最初から最後までこれがペテンだって知ってたよ!)

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ジョブズもうっしっし、と天国で微笑んでいるだろうか

画蛇添足 One more thing…

今は亡き、偉大で敬愛するジョブズに捧ぐ記事。いかがだっただろうか。今の生真面目なティム・クックCEOに率いられたAppleでは、こんな面白いことは起こらないかもしれない。

記事は以上。

(記事情報元:iFanr

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