iPhone6とApple Watch回顧:ジョブズの遺産とクックのランニングシューズ

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デバイスのデザインが美しいとか醜いとか、そういったことは誰もが何とでも言えることだ。

しかしデベロッパーのやることとなると敷居が一段と高くなる。6月のWWDCの時、Appleから新しいハードウェアは何1つ発表されなかったが、招待客達は非常に満足したと答えていた。Appleのエコシステムは更に完成度を高め、よりオープンとなった。更にSwiftという開発コードも発表され、OS XとiOSとの連動など、多くの人を感動に導いたからだ。

恐らく事前にあまりに多くの情報が漏れすぎて、それらがあまりに詳細に伝えられすぎたためか、昨日未明に2種類の新型iPhoneが発表されたときの人々の反応は「おっ!」「・・・噂と全く一緒だね」というものだった。そしてApple Watchが発表された時の人々の反応は「えっ!」「・・・スイスの時計業界に迷惑をかけるんじゃなかったっけ?」というものだったのではないか。

スティーブ・ジョブズの遺産

昨年9月のiPhone5sの発表イベントを振り返ってみると、まず先進的で便利な指紋識別システム”Touch ID”、そして世界初の64ビットで動くスマートフォンに未来を感じ、そしてM7コプロセッサという新しいチップも搭載されたことが話題を呼んだ。これらの1つ1つの進歩は決して小さくはない。iPhone5sの外観には目立った変化がなく、ディスプレイ解像度も変わらず、カメラ画素数もiPhone5と同じだとツッコミを入れる人も一部にはいたが、iPhone5sの価値はやはり人々から認められたのだった。

昨日発表されたiPhone6とiPhone6 Plusのリリースの最大の焦点は「Bigger」であり、そして「Bigger than Bigger」ということだった。その言葉からわかるように、今回の2種類のiPhone6とiPhone6 Plusは進化ではあったがイノベーションではなかった。ハードウェアのアップグレードの結果は既に他の大多数のAndroid携帯とそれほど大きな差はなく、5.5インチのiPhone6 Plusでは、1,080ピクセルのディスプレイがようやくやってきたといえるが、iPhone 6は326ppiに留まっている。A8チップは第2世代64ビットとはうたっているものの、A7チップのA6チップからのアップグレードと比べるととても大躍進とはいえないものだった。

多くのメディアは、今回のiPhone6がそれほどイノベーティブではないにしても、市場では最高の携帯電話であることは間違いないと評価しているようだ。確かに、ディスプレイ表示、全体の質感、システムがとてもスムーズであること、高度な製造工程など、iPhone6と6 Plusは確かに業界最高水準を誇っている。しかし既に競争相手の陣営の進化によって、このようなハードウェアでの優勢は既にそれほど明らかなものではなくなってきており、肝心のサイズに関してもある意味劣勢でもあったりする。

もしかしたらある人は今年のWWDCの時、いや、もっと敏感な人は初代iPhoneが発表されたときに、iPhoneがこれほど高度に完成しているのは、iPhoneのハードウェアではなくiOSとその背後の全てのエコシステムにあることに気づいていたことだろう。

iPhone6とiPhone6 Plusが享受しているのは、実はAppleのバックにあるエコシステムの”ボーナス”であり、この財産は十分すぎるほど巨大で、iPhoneが最も最先端のハードウェアではなくてもそれを支えられるほどのものとなっている。

Steve-Jobs_iPhone4

ここで思い出したいのが、2007年、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)が取り出した、非常に価格が高く、コピー&ペーストもできないくらい機能が欠如していて、アプリも標準アプリ以外には存在しなかった初代iPhone(iPhone 2G)だ。そんなものでさえ、当時は業界を5年も先取りするといわれたのだ。

当時のBlackBerry(ブラックベリー)やNokia(ノキア)のユーザは、キーボードもなく、2日とバッテリーが持たず、3Gも使えない携帯などすぐに墓場に行ってしまうに違いない、とiPhoneを罵ったものだ。が、現在のiPhoneの競争相手はとっくにBlackBerryでもNokiaでもなくなっているのは周知の事実だ。

初代iPhoneがリリースされ、ライバルのAndroidが出現した頃、こんな論調があった。「解像度がより高く、ディスプレイがより大きく、CPUがより速い、、これらはテクノロジーの進化によるものだ。正直このような進化は中国のローカルメーカーでさえ達成できてしまうことだ。機能やアプリだって、Androidが遅かれ早かれiPhoneを抜く日が来るかもしれない。」

2014年、上記で言われていたことは半分くらいは実現されてしまった。とはいえiPhoneの販売数量は毎年のように増え、Appleの企業価値は最高値を記録し続けている。OS XやiPhone OS(現在のiOS)の原形を作ったコアチームは、数十年の発展とそれらを融合したコアテクノロジーを持っている。これこそがAppleの核心的な競争力で、またこれこそがスティーブ・ジョブズがAppleに残した最も貴重な遺産であり、そしてiPhoneが生まれながらに持つ”天賦の才能”だったのだ。

新たなスタートラインに立った、ティム・クックとそのランニングシューズ

“モノのインターネット化”や”ウェアラブルデバイス”は、ジョブズが予見できなかった分野かもしれない。正確にいえば、その価値は高く将来の展望は明るいと長い間評価されながら、現在に至ってもまだそれらの実力が十分に発揮されていないといえるだろう。

apple-watch

昨日あのApple Watchが発表されたとき、iPhone6とは違ってほぼスペックや外観に関して無知だったはずの人々が、これまでの新製品発表の時の反応のような、歓喜したり、感動したり、ひいては驚くような反応を見せることがなかったのが印象的だった。

本来Appleは多くの人の期待を浴びながら、これまでのAndroid Wearシリーズが圧倒的に見劣りするような製品を、昨日華々しくリリースするはずだった。しかし実際発表されたApple Watchは、これまで販売されている全てのスマートウォッチと比べても突出した外観上の特徴がなく、Moto 360が出たときのあの驚きに遠く及ばないどころか、同じように四角い形のASUSのZenWatchの方が外観面では優れているのではないかと思わせるようなものだった。

記念すべき”初代”の製品として、Apple Watchは確かに様々な機能を大量に備えてはいるのだが、どれも”キラーコンテンツ”といえるものではない。また多くの機能に目新しさがなく、Android Wearのスマートウォッチと重複するものが多い。UI上では確かにAndroid Wearとの違いがあったものの、あのごちゃごちゃと蛙の卵のように密集したアイコンのUIは人々にあまり愉快な感覚を与えなかったようだ。ハードウェア機能としても、Apple Watchのリューズは何か妥協のようなものを感じ、少なくとも全くイノベーティブではなかった。

Apple Watchがウェアラブルデバイス業界に与える意義は、とてもiPhoneが携帯業界に与えた意義と並べて語ることはできない。なぜならApple Watchはその本体にこれまでの業界の常識を破壊するような素晴らしいものどころか、模範的で業界の標準となるようなものさえ備えていないからだ。既に販売されている競合製品と比べると、Apple Watchは平均レベルの普通の製品に過ぎないようにみえてしまう。

MacのOS XやiOSは、全てのUIの基礎はアイコンによって成り立っており、これはAppleが数十年に渡って培ってきた領域だ。しかしスマートウォッチのディスプレイのサイズ制限は、明らかにこの本来Appleが優勢であるはずのアイコンUIに、その本領を発揮させていない。地の利がないのだ。

そんな状況でもApple Watchはやはり売れるだろう。しかしその販売力を支えるのはAppleのブランド力であり、その製品の魅力ではないということが既に容易に想像できる。Appleがウェアラブルデバイス業界に入ってきたことは業界にとってはよいことで、競争相手の企業にとっても市場をひっくり返すような力がないApple Watchの進出はむしろ歓迎だといえるだろう。

ところで昨日の発表会にはバイオテクノロジーの業界からも多くの企業の代表が招待されており、彼らの大多数はコンシューマーエレクトロニクス産業ではなく、バイオ医薬品や遺伝子テクノロジー方面の学者や専門家であり、彼らはバイオテクノロジーの発展はクラウドコンピューティングやビッグデータ等のITテクノロジーとますます密接な関係になってきたという共通認識は持っている。しかしまだそれは企業同士の協力レベルに収まっているのが現状だ。このようなバイオテクノロジーとITの融合はまだ一般には広まっていないが、将来的には進んでいくのは間違いないだろう。

Android Wearであろうと、Apple Watchであろうと、もしヘルスケアアプリを突破口と考えているのであれば、上記のバイオテクノロジーとITの融合が必須で、間違いなく使える機能を形成することが重要だ。なぜならヘルスケア市場というのは膨大な規模をもっている潜在市場だからだ。

ファッショナブルな外観と優れた機能の両立ができれば、前者はファッションメディアによって人々を感化できる。では後者は?これについてはこれからも着実に研究発展をしていく必要があるということを、昨日発表されたApple Watchが証明したといえるだろう。

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スティーブ・ジョブズが死んでから正式に立ち上がったのがApple Watchのプロジェクトだ。ジョブズの後を継いだティム・クックにとっては、この製品が自身のAppleのCEOとしての存在の意義を示す大事なものになるはずだ。が、昨日の結果を見れば、Apple Watchは現在他のスマートウォッチと同じスタートラインに立った形となってしまった。

誰が先にゴールに辿り着けるのか?それには履いているランニングシューズが光り輝いているかどうかは一切関係ない。天賦の才能を持ち、最も科学的に、そして最も苦しい訓練をこなした者が、一番先にゴールするだろう。

記事は以上。

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