中国大陸製造業がAppleサプライヤーの地位を台湾から奪取、しかしその先は?

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テクノロジー王国の栄光を欲しいままにしていた台湾のメーカーも、最近は中国大陸のメーカーに少しずつ世界最大のテクノロジー帝国Appleからの受注を奪われ始めている。

以下は中国のメディアWeiPhoneの記事の翻訳だ。

凋落する台湾テック業界とますます発展を続ける中国大陸のテック企業、明暗が分かれる

今年6月、1年に1度のComputex 2015が台湾の台北にて行われた。このアジア最大の3Cサプライチェーン専門の展示会は、数十年来”台湾の光”として誇りをもたれていた。これまで世界中から多くの電子機器・ITメーカーの注目を集めていた。しかし今年の会場は非常に閑散とし、特に見るべきものもなく、その落ち込みようは隠しようがなかった。その後、台湾テック業界とメディアはこの展示会について討論と反省を行い、最終的には大陸のサプライチェーンの発展によるものだった、という結論に至った。その中でも台湾のメディアに最も多く討論されたのはAppleのサプライチェーンにますます多くの中国大陸サプライヤーが出現しているということだった。確かに中国大陸サプライヤーの発展によってもともと台湾メーカーのものだった受注のシェアが奪われ、Appleの一部の電子部品の購買対象は台湾から”一路西へ”移動し中国大陸に流れているのは間違いがない。

しかしこんなことは以前からわかっていたことで、台湾でもこの現象を危ぶむ声が以前からあった。しかし今回のComputex 2015ではっきりと敗戦色が現れ、台湾内では血相を変える人たちも現れているようだ。

台湾は未だ優勢だが、分野によっては中国大陸にシェアを奪われている

20世紀の70年代、台湾のエレクトロニクス産業は成長を続けていた。小さい金型工場から始まり、その後超強大なエレクトロニクス製造業の帝国を築き上げたホンハイグループ(Honhai、鴻海、iPhone等Apple製品のメイン組立委託先として有名なフォックスコン=Foxconn、富士康はこのホンハイグループの1つ)や、全世界のウェハーOEM受託先としてこれまた世界で名を馳せているTSMC(台積電)の2つは、台湾の企業の中でも世界レベルのエレクトロニクスサプライチェーンの中で非常に重要な位置を占めている。

現在でも台湾がエレクトロニクス・サイエンステクノロジーの領域で優勢なのは疑う余地のない事実だ。しかし中国大陸の製造能力が上昇してきたことで、中国大陸と台湾の両岸関係はこれまでの垂直の購買者とサプライヤーの関係から水平競争関係に変わってきており、既に多くの中国大陸メーカーがAppleの世界サプライチェーンの中に直接組み込まれ、一定の地位を築いてきている。その中でも特にオーディオ関連部品、プリント基板、バッテリー、シャーシや外形ASSY、そして組立の5大領域において中国大陸の優勢が目立ってきている。

Appleサプライチェーンの中で急増する中国大陸企業、台湾企業は停滞

Appleのオフィシャルサイトの「サプライヤー責任」のページにあるサプライチェーンマップによれば、2014年には120社の793ものデザイン・製造工場が新たにAppleのサプライヤーに組み込まれた。そのうち、約半数近い351が中国大陸メーカーで、台湾はたったの42しかなかった。2014年に中国大陸のメーカーは20社が新たにAppleのサプライヤーとなり、そのうちAppleにバッテリー等部品のみを支給している中国大陸のメーカーは2011年の8から16に倍増している。それに比べ、台湾のAppleのサプライチェーンリストに載っているメーカーは2013年から2014年にかけて1社しか増加しておらず、双鴻・定潁・金像電と未上場の太乙の4社は激しい競争を繰り広げているうちに黯然とAppleのサプライヤーリストから外されてしまった。

以下は台湾企業と中国大陸企業がAppleのサプライチェーンの中でお互いに殺し合うという血なまぐさい戦いが垣間見えるいい例かもしれない。

これまでずっと、AppleのタッチパネルはF-TPK、群創、シャープ(SHARP)、勝華等台湾と日本のディスプレイメーカーが支給していた。しかし2014年から後は、中国の欧菲光がAppleのサプライヤーとなり、iPhone6シリーズにタッチパネルを支給したのは記憶に新しい。欧菲光はAppleのサプライヤーとなるために台湾宸鴻と白熱した競争を繰り広げ、台湾宸鴻からAppleの受注をもぎとっただけではなく、台湾に研究開発センターを設立し、更に台湾の二次サプライヤーレベルのタッチパネルディスプレイ工場を買収する動きを見せており、台湾宸鴻はますます状況が悪くなっているのだ。

もう1つの例として、中国大陸広東省深圳の瑞声科技は世界盛大のオーディオ部品メーカーとして2013年にAppleのサプライチェーンに組み込まれ、台湾の競争相手だった美律からAppleの受注を奪った。2015年、瑞声科技の第一四半期の純利益は9.56億人民元(約189億円)となり、対照的に同四半期の美律の純利益はたったの1,308.46万人民元(約2億5893万円)となり、両社の市場規模の差は明暗がはっきりし、その差はますます開いていくばかりだ。

2014年、Appleのサプライチェーンの中で増加した中国大陸の20社の中で、金龍機電(金龙机电)と欣旺達(欣旺达)はiPhone6にバイブレーション用モーターを支給しており、環旭電子(环旭电子)はWi-Fiモジュールを支給、立訊精密(立讯精密)はデータケーブル、超声電子(超声电子)参加の超声印制板公司はロジックボードを支給している。更に、最近上場したばかりのプリント基板製造メーカーの依頓電子(依顿电子)や宏益玻璃等の数社の中国大陸メーカーはAppleの一級サプライヤーに名を連ねており、あらゆる分野で台湾のエレクトロニクス業界に衝撃を与えている。ますます奪われていく受注を前に、台湾メーカーはなすすべもなくただもどかしい気持ちを抱えるしかない状況だ。

Appleにとって中国大陸は最重要製造拠点であり、市場でもある

そしてこの先、この競争はますます激しくなり、その結果は残酷だ。Appleの部品サプライヤーは間断なく台湾から”一路西へ”大陸へと変化しており、それは現在もなお発生している事実で、しかも将来的にもこの傾向は続く。その背後には、台湾自身の主観的な原因もあれば、その他にもいくつかの要素が絡んでいる。

既に広く知られているように、現在中国市場は既に米国に本社を持つAppleの最大の海外市場となっている。iPhone6とiPhone6 Plusをリリースすることで、Appleは中国国内のハイエンド携帯市場をあっという間に席巻した。今年5月、CEOのティム・クック(Tim Cook)が中国大陸を訪れたが、これがクックがスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)からAppleのCEOを引き継いでから約4年の間で6回目の訪中となったことは特筆に値する。中国大陸のAppleに対する意義は、最重要製造基地であると同時に、米国外で世界最大の市場でもあるのだ。

Tim_Cook_in_Chinese_Factory_May_2015

もちろん、無視してはならないのは中国大陸の製造業のレベルも全体的に上がってきているということだ。

中国大陸企業も将来的には楽観はできない、サプライチェーンの最底辺の現状から脱することができるか?

では、将来中国大陸のメーカーはAppleのサプライチェーンの中で、いや全世界のサプライチェーンの中で、いったいどのような地位を占めるようになるのだろうか?

この問題を議論する前に、まずは現実を見てみよう。中国大陸メーカーのAppleのサプライチェーンでの役割は、少々恥ずかしいレベルであると言わざるを得ない。中国大陸メーカーの数は多くなってきたものの、多くは明らかにサプライチェーンの最底辺に参加しているに過ぎず、技術的な要求が最も低く労働集約型の組立が必要な部分を担当し、製造しているのはいくらでも代わりがいる分野のものばかりだ。とあるマーケティングリサーチ機構の研究調査報告によれば、iPhone1台の売上げのうち、Appleは58.5%の利益をとり、中国大陸の労働者はたったの1.8%しか得られないという。iPadも大して変わらず2%だ。中国大陸企業のAppleのサプライヤーでの立ち位置は、そのまま中国の製造業の国際的なイメージの縮図となっているといえるだろう。

そんなわけで、いくらどれだけ中国大陸の多くの企業がAppleのサプライチェーンの中に押し入ったとしても、現在のままでは、中国の製造業は世界の産業チェーンの中で弱者から抜け出すことはできないのは明らかだ。Appleが国際的にも超一流の企業として、単に安価だという理由で中国のメーカーの技術やサービスを重視するわけではなくなった時、初めて台湾から奪った地位が本当の意味を持つことになるだろう。

画蛇添足 One more thing…

上記の記事は中国のニュースでありながら、なかなか自国の痛いところ、核心を突いていると思う。しかしもっと大事なことを忘れている。私も10年以上メーカー勤務で中国の製造業・購買に携わった者として、中国の製造業の発展をその目と肌で感じてきた正直な感想をいわせてもらえば、中国大陸のメーカーの質と技術は明らかにあがってきているのは間違いない。そして中国の外に移管しようがないほど、上流から下流まで環境が整っているのだ。ただ、多くの中国大陸企業の経営者は短期的な視点しか持っておらず、技術は外から買ってくるもの、ひいては盗んでくればいいという意識が強く、手っ取り早く儲けになることしかやりたがらないところが多いのも事実だ。そして農村部からの安い労働力を頼りに労働集約型のマネジメントをしていたところが多い。フォックスコンなどはその最たる例だろう。しかし今や中国の平均年収や最低賃金はうなぎ登りとなっており、その安価な労働力という優勢は失われつつある。

労働集約型から抜け出し、高度で代替不能な技術を身につけた企業が、これからAppleの力を借りて世界の中でも大きな存在感を持つメーカーとなっていくだろう。もしかしたら勢い余ってAppleを抜いてしまうかもしれない。そう、Appleなど欧米巨大メーカーのサプライチェーンの中での立ち位置など気にせず、全く別の巨大なアジア中心のサプライチェーンを作り上げ、世界中のメーカーをサプライヤーにしてしまうメーカーが誕生する可能性だってあるだろう。シャオミ(xiaomi、小米)などはその最先端ではないだろうか。

なんといっても、シャオミももともとはソフトウェアメーカーで、ネットIT企業出身だ。今後中国ではメーカー主導ではなく、テンセント(Tencent、騰訊)やアリババ(Alibaba、阿里巴巴)、バイドゥ(Baidu、百度)といった名だたる中国のネットIT企業が豊富な資金力で世界中のメーカーをコントロールしていくようになるかもしれない。

記事は以上。

(記事情報元:WeiPhone

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