iPhone 7シリーズに付属しているLightning-3.5mmヘッドホンジャックアダプタには、実はかなりのテクノロジーが秘められていることを知っていただろうか?
iPhone 7発売前から噂になっていた【Lightning-3.5mmヘッドホンジャック変換アダプタ】
iPhone 7がリリースされるかなり前から、3.5mmヘッドホンジャック(イヤホンジャック)は廃止されるという噂は流れていて、その代わりにLightningコネクタが音声出力ポートになるとされ、その情報は各業界の議論を呼んでいた。果たしてiPhone 7が9月8日の新製品発表スペシャルイベントで発表され、その噂は正しかったことが証明されたのだが、一部の人は、このヘッドホンジャックは廃止すべきではないとしており、また一部の人はこのAppleの果断な行動を支持するとしていて賛否両論だ。
しかし今はもう是非を議論する段階ではない。実際にiPhone 7シリーズからヘッドホンジャックは消えてしまったからだ。では、このことによってAppleはどのような新しいUXを生み出そうとしたのだろうか。
iPhone 7付属のLightning-3.5mmヘッドホンジャック変換アダプタ、価格は安いがすごい奴
Appleは3.5mmを前世紀(20世紀)の古い技術と考えたのかもしれないが、しかしこれまでの習慣もあって、まだまだ多くのユーザがこのテクノロジーを淘汰する準備ができていなかったようだ。つまり、まだまだこの3.5mmヘッドホンジャックにイヤホンなどを差し込んで聴いているユーザが多いということだ。特に日常的に使うデバイスでこのよく使用されている差し込み口が廃止されるというのは災難以外の何者でもない。もし突然この3.5mmヘッドホンジャックが廃止されたら、ユーザはこれまで持っていたイヤホンやヘッドホンを突然使えなくなるだけではなく、アダプタを更に買うという余計な出費まで強いられることになってしまうのだ。
そのような突然の変化の衝撃を和らげるために、Appleが出したソリューションは、ご存じの通り3.5mmヘッドホンジャックを利用するユーザのために【Lightning-3.5mmヘッドホンジャックアダプタ】を添付するというものだった。iPhone 7シリーズを購入すると漏れなく1つそれがついてくる。なお、単独で買うこともできる。オンラインApple Storeでもたった900円だ。この価格は、他の”かなり”高いApple製品に比べてずいぶんと良心的に感じるのではないだろうか(AppleにはApp Storeを除いて三桁円の製品なんて殆どない)。
しかし価格は安いが、この製品には全ての必要な要素が整っていて、非常に多くのテクノロジーが込められていて、実に奥深い製品なのだ。
アダプタのLightning側には神秘的な集積回路とチップが
まずはこのアダプタのX線透視図を見てみよう。この画像はCreative Electronによるものだ。
当然のことながら、このアダプタの片方は3.5mmの差し込み口で、もう片方はLightningのコネクタだ。3.5mmの差し込み口側にはこれといって特に掘り下げるようなことはないが、Lightningコネクタ側は大変面白い構造となっている。というのも、神秘的な集積回路がこのコネクタ側の殆どの面積を占拠しているからだ。
アナログ・デジタル変換チップも特注か
iFixitがこのアダプタの分解と解説を行っている。Lightning側のコネクタには、集積回路上に”338S00140 A0SM1624 TW”と型番の刻印の入ったチップがあるのが見える。しかしこれがAppleの部品管理コードであること以外に、iFixitは更に多くの解説をしていない。
実はiPhone 7発売前にサプライチェーンはこの製品の画像をリークしており、このアダプタのコードと一致する。338S00140/A0SM1624/TWのうち、TWは”台湾(Taiwan)”を指すとみられ、これはこのアダプタのサプライヤーが台湾のシーラス・ロジック(Cirrus Logic、凌雲邏輯、親会社はアメリカ)であることを示している。
なぜAppleがこのような集積回路をわざわざ設計したのかについてはよくわかっていないが、少なくともデジタルからアナログに変換するDACと、そしてそれに対応するアナログからデジタルに変換するADC、その上アンプが搭載されているのは間違いないだろうと推測できる。
なぜ間違いないと断定できるかというと、ヘッドホンやイヤホンのようなオーディオ機器はアナログ信号がないと正しく動作しないからだ。しかし一般のアナログヘッドホンやイヤホンと異なり、AppleのLightningコネクタはデジタルコネクタだ。つまり、デジタルとアナログの変換アダプタをはこの2者の間の”橋渡し”をすることになる。また、このチップにはデジタルをアナログに変換するだけではなく、イヤホン・ヘッドホン側のマイクから入力されたアナログ信号をデジタルに変換し、Lightningコネクタに通すための逆変換機能も当然搭載されていると考えられるのだ。
アナログ・デジタル変換チップはiPhone 7本体側にも搭載されている
iPhone 6sとそれ以前の機種では、デジタル→アナログ変換器DACとアナログ→デジタル変換器ADC機能は内部で処理されていた。iPhone 6sまではiPhone本体にあった3.5mmヘッドホンジャックから出入りするアナログ信号は、ロジックボード上のチップによってコントロールされていた。それが特注のApple/シーラス・ロジックによるチップで、その部品コードは338S00105だった。
実はiPhone 7シリーズのロジックボード上にも同じチップが搭載されている。これはiPhone 7シリーズ上に搭載されているマイク及びスピーカーがやはりアナログ信号を使っているため、デジタルへの変換が必要となるからだ。
小さくても問題なく性能を発揮
AppleがiPhone上の3.5mmヘッドホンジャックを廃止することが確定し、変換アダプタを提供することが確定した時、この小さなアダプタに、デジタル←→アナログ変換器とアンプまで全部入っていて、ちゃんとしたサウンドが出せるのだろうか、という不安を抱かなかっただろうか。
これはiPhone 7のロジックボード上のサウンドチップと、アダプタ上のチップの大きさの対比画像だ。ただ、この大きさの比較は実は少々不公平だ、というのも、この大小のチップの役割は単にデジタルとアナログの変換器というだけではないからだ。例えば、大きい方の、ロジックボード上のチップには、マルチメディア信号のcodecも内蔵しており、アンプは内蔵されていない(なぜならiPhone 7のロジックボードのその他の位置に3つアンプがあるからだ。ということで、このチップの中に入れるとは考えにくい)。
アダプタで音質は多少劣るが普通の人間の耳では聞き取れないレベル
iPhone 7がリリースされた後、ドイツのコンピュータテクノロジー雑誌c’tもAppleのこのアダプタに対して音質テストを行っている。またiPhone 6sとiPad Airのヘッドホン/イヤホンジャックから出力される音質との比較も行っている。
そして結果は上の表の通りだ。データを見ればわかるとおり、一部の状況下ではこのアダプタの結果は理想的なものではなかった。例えばiPhone 6s上で非圧縮の16bit音声ファイルを再生した時に、アクティブな範囲のヘッドホンジャックは99.1dBから97.3dBに落ちている。しかし忘れてはいけないのは、この数字はCDを再生した時の最大理論値よりも大きいことだ(CDの場合は96dB)。つまりもしあなたの聴力が犬などの動物のように優れて敏感で、そしてあなたの周囲が非常に静かで、使っているヘッドフォンが非常にいいものであれば、あなたはこれがiPhone上の3.5mmヘッドホンジャックから直接出力されたものなのか、またはアダプタを通じて出力されたものなのかが聞き分けられるだろう。
しかし総合的にいえば、このアダプタの性能は多くの人の予想を超えるもので、このような小さな製品にここまで優れた機能を盛り込むとは、やはりApple(またはその製造委託先)のエンジニアはやはりすごいということになる。
ただしアダプタの不具合も報告されている
ただ、一部のユーザからはLightning-3.5mm変換アダプタは時々接触不良の現象が起こるという不具合が報告されている。そして頭が痛いのは、この接触不良によって爆音が出たり、左右どちらか或いは両方の音が聞こえなくなったりするという。しかも発生頻度は4回につき1回発生するという。使用した人はそんな状況になったことはあるだろうか?
またアダプタの3.5mm側に、ヘッドホンやイヤホンの差し込み口を差し込んだ際に非常に固く感じ、きつくて抜けにくいという欠点もあり、これはこれまでのiPhoneではなかったことで、他のスマートフォンや携帯電話とも比較にならないところでもある。
さて、iPhone 7シリーズを購入してこのアダプタをご利用の方は、どんな風にこのアダプタを評価しているだろうか?
記事は以上。
(記事情報元:iFixit)