11月11日にAppleから発表になった、Apple独自チップ(SoC)、Appleシリコンこと「M1」チップ搭載Macシリーズ3機種。従来のIntelプロセッサと比べてCPUにおいては2.8〜3.5倍、GPUにおいては5倍速いという顕著な性能アップにもかかわらず、バッテリー駆動時間は倍近くなるなど、非常に注目が集まっています。
しかしこれまでのIntelのプロセッサと異なり、Apple独自のARMチップである「M1」チップ搭載のMacシリーズには、通常時やターボブースト時のクロック数などは表記されていません。全てが「M1」チップと各コア数が書いてあるだけです。一見全く同じそうに見える「M1」チップですが、価格の異なるMacBook AirやMacBook Pro 13インチモデル及びMac miniで使用されているのに、全く同じものなのでしょうか?
冷却ファンと冷却システムの有無
まず、MacBook AirとMacBook Pro 13インチモデル及びMac miniの大きな違いは何でしょう?それは冷却ファンの有無です。MacBook ProやMac miniには冷却ファンを含む「アクティブ冷却システム」が搭載されていますが、MacBook Airは今回の「M1」チップモデルからかつての無印MacBookのようにファンレスになりました。
Appleは都合よく「M1」チップは電力効率が非常に優れていることを強調していましたが、いくら電力効率が優れていたとしても、ワークロードが高くなれば当然「M1」チップのプロセッサは発熱することは、疑いの余地のない事実です。そしてそこで上がった熱は抑えないと、プロセッサを高熱で溶かして破壊が導かれます。熱を抑える方法は、プロセッサ速度を抑えて熱の発生を抑えるか、或いは冷却をするか、その2択しかありません。そしてファンレスのMacBook Airはその2択のうち前者を選択するしかないのです。
それに対して、MacBook Pro 13インチモデルとMac miniはアクティブ冷却システムがあるため後者の選択ができ、「M1」チップのピークパフォーマンスを引き出すことができるといえそうです。MacBook Airはその点、やはり「M1」チップの最高のパフォーマンスを引き出すのは難しいといえましょう。
MacBook Air下位モデルのM1チップのGPUコア数に違いが
Appleは今回の「One more thing」発表イベントで、MacBook AirのGPUコア数を「”最大で”8つ」という言い方をしていました。実はMacBook Airのエントリーモデル(=下位モデル、999ドルから)には、7つのGPUコアしかないのです。
実はこれ、Appleは以前iPad Proで似たようなことを行っている手法だったりします。例えば2018年のiPad Proに搭載されたA12XにはGPUは7コアしかありませんでしたが、2020年のiPadに搭載されたA12ZのGPUは8コアとなっていたのです。
M1チップの製造上、どうしても出てくる低品質スペック品をMacBook Airに回している可能性
実際、M1チップというSoC(System on Chip、システムオンチップ)の製造は困難を極めます。親指の爪ほどもないような面積のチップに、160億個ものトランジスタを詰め込んでいるわけですから、とんでもないレベルのものづくりなわけです。
そんなレベルの複雑且つ困難な製品を製造するための「完璧なプロセス」というものは世界中どこを探しても存在しないため、実際の製造過程では求められている製品仕様を100%満たさない製品も常に出てきてしまうのです。そしてチップメーカー(Appleの場合はTSMC)は、これらの製品仕様を満たさない製品を廃棄することなく、低スペックの製品向けに使用しています。実際このようなことはもう何十年も続いている伝統があるのです。
例えばあのWindows全盛期のIntelの名チップ「Pentium」の60MHzバージョンは、実は本来66MHz向けに製造されたもので、製造過程で出てくる仕様を満たさないものに対して動作クロックを「カット(ビニングともいう)」して出荷されていたものなのです。
というわけで、MacBook Airはもともとファンレスであって熱効率が悪いのは最初から分かっていて製品の要求仕様が高くないため、同じ製造プロセスで作られていても製品仕様を100%満足していない「M1」チップが選択されている可能性が十分にあると考えてよさそうです。AppleはMacBook AirとMacBook Pro、そしてMac miniのパフォーマンスの最低要求基準を持っているはずですが、その基準は明らかになっていません。ただ、やはりMacBook Airがファンレスであることを考えれば、AirとPro、そしてMac miniとの間にはパフォーマンスの要求基準に一定の差があることは想像に難くないですね。
そして上記のMacBook Airの下位モデルに搭載されるGPUが7コアで動作する「M1」チップも、もともとわざわざAppleが「7コアGPUのM1チップ」として単独で製造を計画・指示したものではなく、全てGPU 8コアを製造する目標で製造されたものの、8つのコアを信頼性の高い方法で全て動作させることができない「M1」チップのために、コアを1つ無効にすることで安定性を保たせたという可能性が十分にあるのです。
実際のところは多くの人が実際に使用したり、ベンチマークをとってみないとわからない
とはいえ、まずは実際に多くのユーザによって「M1」チップ搭載のMacシリーズが使用され、その使用感がレポートされたり、或いはベンチマークテストを実行してスコアを比べてみないと、上記のM1チップの違いがどのくらいのものなのかはわからないともいえそうです。
実際にAppleは既にiPhoneやiPadのようなファンレスの製品に搭載されているAシリーズチップで販売時には世界一のベンチマークスコアをたたき出していて実績があるわけですし、Appleの公式の発表通りとすれば、M1チップは大幅な進化を遂げたようです。恐らく多くの分野において、現行のIntelのチップを搭載した他のラップトップPCに比べても遥かに凌駕するパフォーマンスを発揮するのは間違いありません。
というわけで、新しいMacBook Air M1搭載モデルを買った人も、そこまで悲観的になる必要はないと思われます。
記事は以上です。
(記事情報元:idropnews)