Appleの動画配信サービス【Apple TV】(かつてのApple TV+)が、また値上げされました。米国では月額12.99ドルから14.99ドルへ、年額は99ドルから119ドルへ。あわせてセット割のApple One個人プランも19.95ドルから21.95ドルに上がっています。対象は米国・ブラジル・チリ・メキシコの4ヶ国で、日本は今回対象外です。2019年のサービス開始から数えて4回目の値上げで、月額はついに開始時の3倍になりました。

今回の値上げの中身
- 動画のApple TV: 月額12.99ドル → 14.99ドル、年額99ドル → 119ドル
- Apple One個人プラン: 19.95ドル → 21.95ドル。動画の値上げに連動した形
- Apple Oneのファミリーとプレミアは今回据え置き。こちらは先月、Apple Musicの値上げと一緒に上がったばかりです
- 対象は米国・ブラジル・チリ・メキシコのみ。新規はただちに新価格、既存の加入者には更新日の約1ヶ月前にメールで通知
7年で3倍という曲線

こうして並べると、はっきりした意図が見えます。4.99ドルという開始時の値段は、デバイスを買えば1年無料が付いてくる、事実上の「おまけ」の値付けでした。それが番組資産の蓄積とともに段階的に引き上げられ、いまや他の大手動画サービスと同じ「ちゃんとした値段」になった。米国のフォーラムでは「4.99ドルだった頃を覚えているか」という嘆きと、「これではケーブルテレビの料金だ」という声が上位に来ています。
ちょうど同じ週に、Apple TVは他局で放送済みのヒット作『Small Prophets』の全世界配信権を買い取りました。自社制作以外の既存ヒット作を買うのはサービス開始以来初のことです。オリジナル一本足からカタログの拡充へ、つまり「上がった会費に見合う棚を作る」方向へ舵を切っている。値上げと同時に品揃えを買いに行く、分かりやすい動きです。
決算とリーク報道で裏を取る
ではなぜ、値上げがあったのでしょう?コスト上昇についての原因として、「製作費が原因だろう」という当たりを、数字で確かめておきます。Appleは動画のApple TV単体の収支を開示していませんが、手がかりは2つあります。ひとつは決算です。2025年9月期のForm 10-Kによれば、サービス部門全体は売上1,092億ドル、粗利率75.4%。ハードウェア部門(同36.8%)の倍の利益率を持つ、文句なしの稼ぎ頭です。もうひとつはリーク報道。The Informationが2025年3月に伝えたところでは、動画のApple TVは加入者約4,500万人に対して年間10億ドル超の赤字で、Appleのサブスクで唯一の不採算サービス。しかも年間の番組製作費は約45億ドルと、当時のクックCEOらの指示で前年から5億ドルほど削られた後の数字でした。
つまり裏を取ると、話は少しねじれます。「製作費が上がり続けるから会費に転嫁」という単純な絵ではないのです。Appleはすでに製作費を絞った。それでも年10億ドルの赤字が残った。コスト側の蛇口を締めても埋まらないなら、残る蛇口は単価です。
2ドルの値上げは、年10億ドルの赤字とほぼ同額
ここで今回の値上げ幅を掛け算してみます。月2ドル × 12ヶ月 × 加入者4,500万人 = 年10.8億ドル。報じられている年間赤字(10億ドル超)と、ほぼぴったり重なります。もちろん今回の値上げは4ヶ国だけですし、バンドル経由や年額プランの加入者からは満額取れませんから、実際の増収はこれより小さい。それでも桁と狙いは読み取れます。今回の2ドルは、製作費インフレの転嫁というより、動画事業を赤字部門から損益トントンへ持っていくために逆算された数字ではないか。私はそう見ています。
タイミングも符合します。9月1日のCEO交代を目前に、この数週間でVision Pro関連の人員整理、Mapsへの広告導入、Musicの値上げ、そして今回の動画の値上げと、採算の悪い場所への手当てが立て続けに打たれてきました。新経営陣に「全サービス黒字」の帳簿を渡すための帳尻合わせが、静かに進んでいるように見えます。
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ではAIが製作費を安くしたら?
そのうえで、ここからは勘ぐりです。業界全体で見れば製作費のインフレは本物で、配信各社が俳優と大作企画を奪い合った結果、ドラマ1話あたりの製作費はこの数年で桁が変わりました。その前提を崩しうるのが生成AIの現場投入です。VFXの下請け工程、吹き替えと字幕、背景美術、脚本の下書き。製作費の内訳の多くは人手のかかる工程で、そこがAIで縮み始めれば、同じ45億ドルで作れる番組の本数が増え、赤字の構造そのものが軽くなる。2023年にハリウッドが長期ストライキまでやって争った論点のひとつがAI利用だったのは、現場が同じ未来を見ているからでしょう。
では製作費が下がれば会費も下がるのか。ここは意地悪に見ておきます。技術でコストが下がったとき、その分が素直に値下げに回った例はこの業界にはほとんどありません。浮いた金は利益率と次の大作に回るのが常で、「AIで安くなったので値下げします」は期待しない方がいい。恩恵があるとすれば、値上げのペースが鈍るという地味な形でしょう。もうひとつ、AI製の中身には表示の問題もついて回ります。Apple自身がApple Musicで「Made With AI」ラベルを始めたばかりで、映像でも同じ議論は避けられません。安く作った番組が「AIっぽさ」で客に見抜かれるようでは本末転倒。コストを下げつつ、それを悟らせない。この綱渡りが、配信各社の次の数年の見どころだと思います。
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サービス部門は、いま値上げで数字を作っている
背景も見ておきます。Appleのサービス部門は成長の柱ですが、その中身は楽観一色ではありません。App Storeの稼ぎ頭であるモバイルゲームには逆風が吹き、Apple自身が決算説明で認めています。今月はApple Mapsに消せない広告が入り、Apple Musicが上がり、そして今回の動画の値上げ。新しい客を増やすのではなく、今いる客からの単価を上げる局面に入っているのがよく分かります。
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日本は1,200円のまま。ただし米国との差は開く一方
日本のApple TVは、今日(2026年8月29日)時点でApple公式サイトを確認したところ月額1,200円のままです。米国の14.99ドルは今の相場でおよそ2,200円ですから、日本は米国のほぼ半額ということになります。円安の間はこの「ねじれ」が放置されがちですが、過去の例ではある日突然まとめて調整が来ます。いずれ日本にも順番が回ってくると見ておいた方がよい、と個人的には思います。
中国から見ると、この値段は別世界
ここからは中国在住者としての話です。そもそも動画のApple TVは中国本土では提供されていません。中国で動画サブスクといえばテンセントビデオや愛奇芸(iQIYI)で、標準会員は月25元、日本円で520円ほど。米国のApple TVの4分の1です。
ただし、安いのには安いなりの構造があります。会員なのに一部作品は追加課金、上位会員の上にさらに上位会員。中国のネットではこれを「マトリョーシカ会員」と揶揄する言葉まで定着しました。表の会費を安く見せて、中で細かく取るのが中国式。会費そのものを堂々と上げていくのが米国式。どちらの財布が痛むかは、実のところいい勝負です。。
記事は以上です。
(記事情報元:MacRumors、MacRumors(Apple One)、日本の価格はApple公式サイトで確認。Apple TV+の収支と製作費はVarietyが伝えたThe Informationの報道(2025年3月)、サービス部門の売上と粗利率はAppleのForm 10-K(2025年9月期))
※記事中の画像はイメージです。
