新しい世代のAppleファンにとっては、もしかしたら”Lisa(リサ)”という名前にはあまり意義を見いだせないかもしれません。ですが、Apple社やその前身のApple Computer社にとっては、”Lisa”はその歴史とは切っても切れない関係です。
Lisaは1983年にAppleからリリースされた初めての先進的な操作性のGUIを搭載したパーソナルコンピュータの名前です。Apple Computerによる公式発表ではLisaは”Local Integrated Software Architecture”の略とされていましたが、その名称の由来はLisaのプロジェクトリーダーであるジョン・カウチの娘だとされていました。しかし、後にカウチの証言によりスティーブ・ジョブズの娘からとられたことが明かされたのです。
もしその当時Lisaに搭載されていたLisa OSを体験したいと思ったら、これまではものすごい高い値段を払ってかつてのLisaの生き残りの”骨董品”を手に入れなければなりませんでした。しかし来年からはそんなことをしなくてもよさそうです。
かつてのApple ComputerのSenior Software Engineerであり、現在はComputer History Museumのソフトウェアキュレーターを務めるAl Kossow氏が、Apple製デスクトップコンピュータ「Apple Lisa」のソースコードを既にDisk Image Chefを使って修復したのち、UNIX改行への変換とPascalタブ向けにスペースが変換され、そして現在Appleがレビュー(審査)中とのことです。そしてこのレビューが通れば、Computer History Museumが2018年に全ての人に向けて公開するということです。実に、35年ぶりにそのソースコードが公開されることになります。
このことは、ブロガーのMike Maginnis氏(@6502lane)が、2017年12月25日(米国時間)にTwitterで以下のようにAl Kossow氏のコメントを引用した形でツイートしたことで判明しました。
This was announced on the LisaList. Pretty exciting if you’re a fan of the Apple Lisa. pic.twitter.com/EkUZihq4Gq
— Mike Maginnis (@6502lane) 2017年12月24日
Appleの歴史をよく知っている人にとっては、Apple(当時のApple Comuter)とマイクロソフト(Microsoft)、そしてゼロックス(Xerox)の3社におけるGUI操作システムを巡る衝突については熟知していることと思います。ゼロックスが世界に先駆けてマウスを使ったGUI(Graphical User Interface)を開発しましたが、それを自社製品として積極的にリリースすることはありませんでした。Appleは当時、スティーブ・ジョブズ自らゼロックスのパロアルト研究所を訪れ、Apple IIの成功から、一株10ドルという上場前のApple株を10万株渡すことを条件に、3日間AppleのエンジニアがゼロックスのGUIを学ぶ機会を得ました。そしてそこで学び得たものを体現したパーソナルコンピュータが、Lisaだったのです。また、Apple Computerはゼロックスのパロアルト研究所からもエンジニアを数名引き抜いています。
Lisaは当時世界でも他に並ぶ者がないほど先進的なものでした。なぜなら、当時はGUI、そしてマウスでの操作するオペレーティングシステムそのものが非常に新しい概念だったのです。しかし、Lisaは高すぎました。10,000ドルという価格は現在でも安くないのに、当時は1983年でした。現在の価値にすると24,000ドル、日本円では約270万円もするパーソナルコンピュータだったのです(今ではiMac Proの最低スペックの50万円という価格でさえ高すぎるといわれる時代です)。
もちろん、その価格だけが原因というわけではありませんが、商業的にはLisaは失敗してしまいました。Lisaはその1年後には、スティーブ・ジョブズによる偏屈なこだわりによってLisa独自仕様で搭載されたもののトラブル続きだった5.25インチフロッピーディスク(Twiggy Drive)を、当時のMacintoshと同じSONYの3.5インチフロッピーディスクドライブに置き換え、またハードディスクドライブを内蔵したタイプのLisa2が後継機として登場します。1984年当時のApple ComputerにはMacintosh 128K、Macintosh 512K、そしてLisa2/10という3種類のパーソナルコンピュータのラインナップがあり、その迷走ぶりが伺えます(まるで今のiPadのラインナップのようです)。
そのLisaの失敗から始まった度重なる行為のせいで、ジョブズは自分が引き入れたジョン・スカリー(John Sculley)を始め他の全てのApple Computerの取締役達との関係が悪くなり、自ら創ったApple Computerから追われることになります。やがてLisaのGUIはMacintoshに引き継がれ、そしてそのGUIはビル・ゲイツ(Bill Gates)率いるマイクロソフトのWindowsにパクられていくわけですが。。
商業的な結果はどうであれ、Lisaは世界で初めてのGUIを搭載して市場に投入されたパーソナルコンピュータであり、その意義は非常に大きなものです。そしてそれを実現したLisaのオペレーティングシステム、Lisa OSも同じく非常に重要な意味を持っています。Lisa OSのソースコードがもし公開されれば、我々は35年ぶりにとうとうLisaのハードウェアを買わなくても、その搭載OSを体験することができるようになったのです。
昔からのAppleファンで、特にギークにとってはたまらないチャンスではないでしょうか。
なお、こちらはYoutubeに公開されている、ケビン・コスナーによる1983年のLisaの広告です。
また英語ですがLisaの紹介ムービーはこちらです。
Lisaの誕生した経緯、失敗した要因、そしてその後についても最も詳しく、そして最も納得できる説明をしているサイトはやはりApple/Macテクノロジー研究所のこちらの記事でしょう(Lisaはスティーブ・ジョブズによって、本物の娘だけではなく、その名前を冠した製品さえ拒絶された、という見方には非常に共感を覚えます)。ぜひご参照ください。
記事は以上です。
(記事情報元:9to5Mac)