Apple、世界最大手電源管理チップメーカー・ダイアログ社から6億米ドルで技術とエンジニアを自社に引き入れ

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昨日、Appleと長らく協力関係にあるパワーコントローラチップのサプライヤー、ダイアログ・セミコンダクター(Dialog Semiconductor)社が英国ロンドンで、Appleと6億米ドル(約672億円)の取引が成立したことを発表しました。その取引とは、パワーコントロール技術の特許移譲と、一部の資産の移動、そして300名のR&DエンジニアをAppleに送り込む、という内容です。

Apple、従来の購買先である世界最大手パワーコントローラー製造チップメーカーと取引

dialog-semiconductor

Appleのパワーコントローラチップはこれまでずっとダイアログ・セミコンダクター社に発注されていて、Appleにとってもダイアログ社にとってもおんぶに抱っこの関係だったといえます。ダイアログ社は世界最大のパワーコントローラチップの製造メーカーで、スマートフォンやIoTデバイス向けにサービスを提供しています。今年前半に、Appleがパワーコントローラチップを自社開発しているという情報が流れてから、ダイアログ社の株価は暴落していましたが、今回の発表でまた株価が急騰しています。

Appleとダイアログ社の取引の内容詳細

なお、この取引はまだ公正取引委員会の批准待ちで、2019年の前半に完了するとみられています。Appleは先に半分の3億米ドルを支払い、その後2019〜2021年の3年間に購入する予定の製品に対して3億ドルを前払いする予定ということです。なお、Appleがダイアログ社から購入するのは、パワーコントローラ、サウンドサブシステム、充電とその他の混合シグナルICの開発と製品となります。Appleに向けて300人のエンジニアが出向することになりますが、この人数はダイアログ社にとっては全社の16%にあたります。Appleは更に、ダイアログ社のイタリアと英国及びドイツの一部の設備も譲り受けることになります。

これにより、Appleは既にApple製品に精通しているシニアエンジニアチームを得ることができ、更に自社の技術部門もヨーロッパ全体から多くのチップR&D(研究開発)のサポートを受けることができるようになります。

Apple、自社での開発を諦めてダイアログ社と提携か。パワーコントローラは非常に重要な部品

昨年末から、Appleが自社でパワーコントローラチップの開発をしているという情報がメディアに出てきています。例えばiPhoneの充電やバッテリー寿命やエネルギー消費の管理が自社でできるようになり、現在iPhoneに採用されているダイアログ社のバッテリーコントローラ集積回路を置き換えられるようになるというものでした。

自社で電源コントローラチップを開発できるようになると、AppleのAシリーズ(iPhone/iPad)やSシリーズ(Apple Watch)、Wシリーズ(ワイヤレスチップ、AirPodsなどに搭載)などと更に整合性がとれるようになり、更にAppleはGPUまで内製化しようとしており、これらの電源管理ができるようになることで、コストを下げることができるだけではなく、エネルギー効率を上げることで、将来のVRヘッドセットやARメガネなどの開発にも役に立つとみられています。

スマートフォンに限らず、全ての電子デバイスには電源が必要です。しかしそれぞれの異なったシステムには、それぞれ異なった電源の仕様と要求があるのは容易に想像できるところでしょう。電子システムが最良の性能を発揮するには、最適化された電源管理が必要で、パワーコントローラチップ及び非常に少ない電子部品によってそれが実現します。つまり、パワーコントローラチップを進化させることは、デバイス全体の性能を引き上げるための欠かせない手段なのです。

電子デバイスシステムの中で、電気エネルギーの交換や分配、そして検査測定等を行うのがパワーコントローラチップで、主にCPUに供給する電源の振幅を識別し、相応の矩形波を発生させ、回路に最適な電源の供給を行う役割を担っています。

Appleは”バッテリーゲート”での反省から内製化を検討か

昨年発生した、Appleを巡るスキャンダルの”バッテリーゲート(Batterygate)”はまだ皆さんの記憶に新しいところだと思います。Appleは公式にはiOS 11.3からiPhoneにピークパフォーマンス性能制限を導入する理由として、自動的に電源が落ちるのを防ぐためとしていて、その自動的に電源が落ちてしまうのはリチウムバッテリーの使用寿命による客観的要素によるものだと主張していますが、多くの人は、バッテリーパフォーマンスにおいて非常に重要な役割を果たすパワーコントローラがうまく働いていなかったこと、つまりAppleの設計ミスが上記の突然のiPhone電源シャットダウンを招いていたのではないかと考えています。

iPhone等の電子デバイスの急速な性能アップで電源管理に対する要求はますます厳しくなる

iPhoneのハードウェア性能がますます上がってくるにつれ、CPUとGPUは大幅にスピードアップし、そしてデバイス内部のモジュールはますます複雑化してきています。そのため、電源に対する要求は更に多く複雑化したものになってきています。パワーコントローラチップもそれに従って、更に高い集積度・パワー密度・耐電圧・耐電流性能や放熱性能が求められているのです。

モジュール化はパワーコントローラチップテクノロジーの中でも最強の趨勢となっていて、モジュール化することで設計の複雑性を下げ、基板上のスペースの節約につながり、またシステムの長期信頼性を増す上にシステムコストの削減にもつながり、そのメリットは明らかです。モジュール化の趨勢は、基板上の他のチップの集積化にも繋がっていて、パワーコントローラICとメインコントローラチップの間での通信や監視制御等の機能の集積化も日増しに高まっています。

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恐らく、Appleはこのような性能アップによるパワーコントローラチップの発展需要に基づいて、自社でパワーコントローラチップの研究開発を立ち上げたものと思われます。もちろん、昨年ぶちあがった自社のスキャンダル、”バッテリーゲート”の解決も視野に入っているのでしょう。

Appleは電源管理系の特許も取得

これまでの報道によれば、Appleは少なくとも8項目のバッテリー寿命に関する特許を取得していて、その中にはスマートフォン用プロセッサの各部分を最も少ない電力で効率的に動作させることを確保するための方法も含まれています。つまり、メインプロセッサの中でも、使用していない部分のプロセッサはオフにして、スリープ機能を使って効率的に動作させるというわけです。というわけで、Apple自身のパワーコントローラチップは、リリースされた時点では最も先進的なものになるとみられ、将来のiPhoneのバッテリー持続時間も従来に比べ明らかに向上することが期待されます。

もちろん、上記のような素晴らしいパワーコントローラチップが、ダイアログ社との提携によってAppleで本当に自社開発されたら、”バッテリーゲート”のような恥ずかしいスキャンダルは今後発生しないことでしょう。

小龍のひとりごと:大人の事情があったのでは

ただ、個人的に穿った見方をすれば、Appleは”バッテリーゲート”の責任をダイアログ社に押しつけようとして、ダイアログ社の抵抗か反対に遭ったかするなどして、そこで自社開発に乗り出したことをメディアにそれとなく流し、そしてダイアログ社の株価が下がってピンチになったところに巧妙につけ込んで、安い価格で最大限の協力を引き出したのではないか、とも読めます。

本来は完全に買収したかったところかもしれませんし、Appleの財力があればそんなことは恐らく簡単なことですが、Appleは本職はデバイスメーカーなので、そこまではやらなかったか、または大人の事情があったのかもしれません。。

記事は以上です。

(記事情報元:9to5Mac

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