もしあなたが、殆ど昇進の機会がなく、売っても売らなくても給与はあがらず、バイトから社員、または一般社員からマネージャークラスへの昇進チャンスもほぼない職場で長年働いていたら、、きっと不満も溜まってくるだろう。
坪効率(面積あたりの売上高)が世界一高いといわれている、Appleの直営小売店【Apple Store】。世界中のApple Storeには客が溢れ、店員も忙しく動き回っているのはApple Storeを訪れた人ならよく知っているだろう。ただ、忙しくても給与が比較的高いことから、Apple Storeは多くの若者にとって憧れの職場でもある。
イギリスのApple Storeの従業員が内部事情を暴露し不満を吐露
しかしApple Storeが本当に憧れの理想の職場かというとそれはまたちょっと別の話。憧れは憧れとして、やはり中の人からは何らかの不満が溢れてくるものだ。
先日、とあるイギリスのApple Storeの従業員がApple Storeに関する内部事情を吐露し、その内部の人事ポリシーがあまりに「融通が利かない」制度であることに不満を漏らしているという。
誓約書にサイン、違反した場合は起訴される
まずApple Storeでは、従業員は正式に就業する前に、誓約書にサインをさせられる。その誓約書には、あらゆる公共の場所でApple Storeに関することを話してはならない、そしてApple Storeのユニフォーム(あのTシャツやポロシャツだ)を着てその写真をネットにアップしてはならない、などが定められている。そしてもし違反した場合はAppleに起訴されてしまうという。
昇進の機会なし、成果報酬もなし
そして最も従業員として辛いのは、Apple Storeでは基本的に従業員には昇進の機会が与えられないということだ。その上従業員の給与はその従業員がどれだけ商品を売ったかということには一切関係ない。つまり成果報酬ではないということで、昇進に関する公平な評価基準を与えられていないというわけだ。
更に、一般的にApple Storeには5〜8人のマネージャークラスのスタッフがいるが、だいたいそのうちの1人くらいしか店員から昇格した人はおらず、それ以外の人はAppleの別の部門から異動してきてマネージャーになった人ばかりだという。Apple Storeで何年も働いても、相変わらず最低レベルの従業員と同じ扱いだという人もいるという。そしてもう1点、Appleはアルバイトを正社員採用することはないというのも従業員の モチベーションを奪っているようだ。
Apple Storeの給与ではApple製品さえ買えない?
イギリスでは、Apple Storeの時給は1時間8ポンド(約1,300円)。しかし成果報酬がなければ、イギリスでこの時給では全くApple製品を買うことはできないという。一般店員よりもジーニアスバー(Genius Bar)のジーニアスの方が給与水準は高いが、その代わりプレッシャーは大きく、常にクレーマーの応対をせねばならず、時には客の暴力による死というリスクを背負わなければならないという。
画蛇添足 One more thing…
上記はあくまでもイギリスの例で、日本などその他の国ではどのようになっているかわからない。しかしもしこの基準が世界共通なのであれば、先進国や失業率の高い国、或いは他に就業機会のない国ではこのようなやり方でもApple Storeにしがみつく従業員はいるかもしれないが、発展途上国で成果報酬が当たり前の国ではこのやり方では全く従業員が定着せず、質の安定は難しいだろう(だから中国や香港ではApple Storeの従業員のレベルが高くないのか。。と思ってしまったりする)。
Apple Storeの従業員に成果報酬がない理由は「必要としている製品を必要としている客にのみ売る」というポリシーがあるからだという。マクドナルドの「ポテトやチキンナゲットもいかがですか?」とは違うのであろう。成果報酬を与えると押し売りをしたり、高いものを売りつけようとしたり、不正をしたりする傾向があるから、ということで敢えてAppleも導入していないのだろう。売上至上主義だった小売担当ジョン・ブロウェット(John Browett)上級副社長がわずか6ヶ月で免職させられたように、お客の目の前、Apple Storeでは敢えてティム・クック(Tim Cook)CEOがもたらした利益至上主義(製造サイドへの過酷なまでの厳しい要求を見れば明らか)のイメージを表に出さないようにしているのだろう。
実際そんな利益至上主義な売り方をしなくても、製品自体がすさまじい利益率になるような価格設定をしていることと、Apple全体の利益の半分以上を稼ぎ出すiPhoneの大半は実はApple Storeではなくキャリア経由で売れているので、Apple Storeではそんなに頑張って売らなくても、企業文化や製品の魅力を十分に伝えられればいいという位置づけなのだろう。
ただ、Appleは世界で最も市場価値のある会社に返り咲き、その保有する現金は2000億ドル(約22兆円)を超える超金満会社だが、その企業文化を体現しお客様の目の前に立って接客するという”縁の下の力持ち”なのは彼らだということをAppleも忘れてはならないと思う。
身内を幸せにできないで、どうやってお客様を幸せにするというのだろう。
とはいえ、Appleも慈善事業を行う企業ではない。一方的に従業員の目から見ては不公平だ。上記にもあるとおり、「5〜8人のマネージャーの内、1人は店員から昇格した人」という事実があるように、非常に狭き門ではあるものの昇格・昇進の機会が全くないわけではない。しかもApple Storeのマネージャークラスには、Appleのクパチーノ本社での研修という機会も与えられるという。そして他のマネージャーのApple社員というのも、これまた凄まじく難しいといわれている入社試験、つまり非常に狭き門をくぐり抜けてAppleに入社し生き残った、いわば努力家のスーパーエリート達だ。
やはり世の中そう簡単に美味しい仕事にありつけるわけではないのだ。
なお、Appleの従業員によるApple企業文化の紹介はこちらの記事にまとめているのでご参考まで。
記事は以上。
(記事情報元:Business Insider, WeiPhone)