昨日午後、中国のネット企業最大手の1つ、チャットアプリQQやWeChat(微信)で有名なテンセント(腾讯)の代表取締役でCEOのポニー・マー(马化腾)が、テンセント株1億株を現在ファンド募集中の公益慈善基金に寄付するとし、各公益慈善組織やプロジェクトを通して、主に中国大陸の医療・教育・環境保護と、世界中の最先端テクノロジーと基礎学科の探索をサポートすると発表した。以下は中国のメディアiFanrの記事の翻訳だ(一部日本の読者にわかりやすいように意訳や説明を追加している)。
香港株式市場に上場しているテンセント・ホールディングス(腾讯控股)の金曜日の大引けの株価は165.3香港ドルで、1億株の価値は165億3000万香港ドル(約2,324億6500万円)となり、ここ数年のネット企業の個人名義では最大の慈善事業への支援金額となる。
テンセントの慈善事業はずっと前から始まっていた。2007年6月、テンセント社は中国のネット企業の第一人者として、中国民政部(中華人民共和国民政部、日本の総務省にあたる)において、全国的な公募基金会、テンセント基金会(腾讯基金会)を設立した。テンセントの公益慈善基金会の最初の基金額は2000万人民元(現在のレートで約3億3,684万円)で、テンセント社が寄付している。
(Photo by The Next Web)
国外の多くのテック企業のトップと同様、ポニー・マー本人も慈善事業の分野では遜色のない寄付をしている。2012年から2013年に、個人の寄付額を羅列したフォーブスの”中国慈善家ランキング”でそれぞれ11位から6位となった(6位の時は1.41億人民元、約23億7,480万円)。それ以外にも、ポニー・マーは中国愛佑慈善基金会の副理事長、ジェット・リー(リー・リンチェイ、李连杰)が設立した壹基金理事の理事、そして大自然保護協会の中国理事などの役職もつとめている。
10年の公益の実践と探索を通じて、日に日に、非常に長期間における高効率なシステムの企画とスキームの構築と、財産を社会に還元していく必要性を痛感しております。専門家グループを通じて公益活動の管理効率を高め、私自身も更に多くの精力をテンセントの戦略、商品のUX、そして更に長い目で見た公益事前活動の企画に注いでいきたいと思っています。
今回人民元に換算すると137億元を寄付することになったポニー・マーだが、彼の個人総資産の800億人民元(1兆3,472億円)からみれば全財産の17.13%となり、これは決して小さい数字ではない。この100億元を超える巨額の寄付は、いったいどのように利用されるのだろうか?テンセントとしては現在公募をしている公益慈善基金の将来に投入されるプロジェクトを通じて主に中国大陸に向けて使うとしており、また実際の需要に合わせて中国国内に具体的な実行プロジェクト専用の基金会を新たに設立することも計画しているとし、専門家グループによる評価とアドバイスによって、よりふさわしい公益慈善組織やプロジェクトに振り分けられるとしている。
中国の慈善事業はまだ立ち上がったばかりだ。ポニー・マーのこの巨額の寄付がどのように運用されるべきかについては、国外のテック企業の有名人のやり方から学ぶ点が多いだろう。
2000年1月、マイクロソフト(Microsoft)のトップだったビル・ゲイツ(Bill Gates)が設立したウイリアム・ゲイツ基金会(William Gates Foundation)は、正式に合併してビル&メリンダ基金会(Bill & Melinda Gates Foundation)となった。この基金会の代表はマイクロソフトの共同創業者の1人、ビル・ゲイツとその妻で、主な寄付先はヘルスケアと医療分野となっている。
(Photo by Wikipedia)
ビル&メリンダ基金会の公式Websiteによると、同会の従業員は現在1116人で、アメリカの本部に1つ事務所がある以外にも、イギリスのロンドン、インドのニューデリー、中国の北京にも3つの海外事務所が存在する。設立以来2012年12月31日まで、この基金会が寄付した金額の総額は261億ドル(現在のレートで約2兆8,468億円)にのぼる。
この基金会はビル・ゲイツとその妻メリンダ・ゲイツが個人の財産で世界を変えた成果というだけではなく、彼らの人生の中で最大の事業であったことは間違いないだろう。
そしてもう一人の誰でも知っている大物。。マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)がいる。ザッカーバーグはまだ31歳という若い身でありながら、Facebookの恐るべき実力と、個人の財力を使って、かなり早い時期から慈善事業界に身を投じている。
5年前、ザッカーバーグはオールアウト・ドネーション(特定範囲内で個人財産を全て寄付する)を宣言し、自らの殆どの資産を投げ出して慈善に投じている。そして去年自分の女の子が誕生した時に、ザッカーバーグは自身のFacebook株の99%(約450億ドル、約4兆9051億ドル)を全て慈善機構に寄付すると宣言した。
ポニー・マーやビル・ゲイツと違い、ザッカーバーグはFacebookや彼自身の個人名を使って基金会を設立することはなかった。もしかしたら彼はまだ自分のインターネット事業をこれからも見ていかなければならないと感じたからなのか、またはアメリカの慈善事業の環境が非常に透明で信用に足るものであったからなのかわからないが、少なくとも、ザッカーバーグが供出した資金は将来的に無数の人達に幸福をもたらすことは間違いないだろう。
ザッカーバーグが供出した資金は450億ドルと試算されるが、実際に慈善機構が動き出したら、本当の意味で人助けに使用される資金はこの金額に止まらないだろう。
テンセントはこれまでの急速な成長の中で、一部のネガティブな評価も受けたことがあった。しかし一人の経営者として、ポニー・マーのこれまでの多くの決断と施策はテンセントと自らを強大にするものであったのは間違いない。今回1億株の供出をしたこの44歳の、一代で中国最大のネット企業を築いたアントレプレナーは、確実に一歩一歩成熟の道を進んでいるといえるだろう。
さて、テンセントのポニーが大胆に自己資産を慈善事業に投入した今、アリババ(Alibaba、阿里巴巴)のジャック・マー(马云)やバイドゥ(Baidu、百度)のロビン・リー(李彦宏)、シャオミ(xiaomi、小米)のレイ・ジュン(雷军)などネット業界の寵児達も、こぞって自らの資産を寄付すると言い出すのだろうか?
もしそうなったとしたら、中国の慈善事業は史上初の最も輝かしい段階を迎えるかもしれない。
画蛇添足 One more thing…
中国の慈善事業については、これまでの四川大地震の時の寄付の大半が汚職官僚や慈善事業団体幹部の懐に入ったというのは中国の一般市民にも周知の事実であり、その仕組みは全く透明ではない。ポニー・マーの寄付が無駄にならないように、その仕組みから変えていく必要があるかもしれない。資金の流れの透明性を高めるためにも、テンセントの得意なITのインフラや仕組みが役に立ってくるかもしれない。
中国では四川大地震の時に企業や著名人達がこぞって「私はいくら寄付した!」という金額を競って発表するのが流行り、もはやメンツでいやいや寄付していたところもあったようだ。行列して募金箱にお金を入れる写真を捏造して批判された企業もあった。
そんなことをするよりも、ネットの力を使って透明性を高めた上で、このような事業にこれだけの寄付をし、そしてこのような成果を上げたという結果を発表するようにした方がいいのではないかという感じがする。本来はそれは慈善事業団体の仕事なのだが。。そこが私腹を肥やしているため仕方がないのだ。
ちなみにAppleのティム・クックCEOも昨年3月に、自らの財産(保有するApple株)の殆どを寄付することを発表している。クックCEOが当時保有していたApple普通株を金額に換算すると約1億2000万ドル(当時のレートで約143億円)となる。さらに同氏はアップルの制限付き株式も保有しており、この価値を同様に計算すると、最大でおよそ6億6500万ドル(当時のレートで約792億円)となっている。ポニー・マーの寄付額が約2,324億6500万円と考えると、ポニー・マーの寄付額がどれほど大きいかがわかるだろう。
但し重要なのは先ほど書いたように、どのように運用され、きちんと必要な人のところに届くか、ということであろう。
記事は以上。
(記事情報元:iFanr)