記事公開現在、最後のiOS脱獄(ジェイルブレイク、Jailbreak)ツールがリリースされてから既に347日、つまり1年近くが経過しようとしています。
そんな停滞感が漂う脱獄界隈では、iOS脱獄ツール開発の先駆者達が、次々と「iPhoneのクラッキングに依存したり希望を持つべきではない」という意見を表明しています。
脱獄版App Storeと呼ばれ、標準脱獄アプリ/Tweakインストーラとなった【Cydia(シディア)】の開発者でCydiaの父と呼ばれる、間違いなくiOS脱獄で第一人者として敬愛され、脱獄界のネ申ともいえる@Saurik(Jay Freeman)でさえも、iOS 10が脱獄できるようになったとしても(実際iOS 10.2までは脱獄可能ですが)、脱獄はすべきではないと警告しています。
脱獄は、公式に死んだのです。
MotherboardがiPhone脱獄に関して発表した文章では、Nicholas Allegra、Jay Freeman 及び Michael Wangなどの脱獄界の先駆者達が、iPhoneユーザのために「Appleの壁に囲まれた庭(Apple’s walled garden)」に侵入するために尽くしたあらゆる努力について語られています。
Nicholas Allegra氏は、「私はiOS脱獄は基本的にもう死んでいると思っています」と語っています。次々に現れる新しい世代のハッカー達が、iOS脱獄を盛り上げようと脱獄界隈に参加してきてはいますが、最近最も勢いがあり希望が寄せられていたLuca Todescoも既に脱獄ツールの開発を諦めることをTwitterで宣言してしまいました(但し理由としては”愚かな脱獄コミュニティ”との付き合いはもうたくさん、ということのようですが)。
PSA: I will stop all public iOS research after I drop that 10.2 thing. The idiocy of the jailbreak community is too much to handle for me.
— qwertyoruiop (@qwertyoruiopz) 2017年1月22日
脱獄の誕生と、脱獄が存在しつづけた理由とは
そもそも、脱獄の誕生と存在理由は、ちょうど10年前のiPhone販売時期に遡ります。当時、特に初代iPhoneの時代はApp Storeがまだなく、サードパーティ製アプリは皆無でした。ゲームさえ1つもなかったのです。そこでNicholas Allegraなど脱獄デベロッパと呼ばれるハッカー達が、iPhoneの可能性を究極に引き出したのです。なぜなら、脱獄をすることでAppleが許していなかったサードパーティ製脱獄アプリや脱獄Tweakをインストールすることができるようになったからです。
前出のCydiaの父こと@Saurik(Jay Freeman)も、Motherboardの取材に対して「最後にあなたは何が得られましたか?」と語ります。「以前は、(脱獄によって実現する)キラーアプリがiPhoneを所有する理由になり得ました。しかし今は脱獄しても、ほんの少しの改善くらいしかできません」。
「脱獄は死んだ」その理由とは
@Saurikは、脱獄が死んだ理由を以下の4つとしています。
- Appleのセキュリティ保護性能があがり、脱獄がどんどん難しくなっているため
- もしハッカーがセキュリティホールを見つけたら、それで100万ドル稼ぐことができるようになった(Apple公式のセキュリティホール発見奨励と報奨制度の確立による)ため。
- 大多数の最も優秀な脱獄デベロッパ達が、既に非常に収入が高いセキュリティ関連の仕事を始めているため。
- あなたがiPhoneをクラックしたら、あなたもそのセキュリティ脆弱性に晒されることになる
@Saurikは更に、こう語っています。「これ(脱獄)は既にデス・スパイラルに入っています。脱獄について悩んでいる人はどんどん少なくなり、人々が脱獄を選択する理由も、そして実際に脱獄を選択する人もどんどん少なくなっています。これはiOS脱獄ツールやアプリ・脱獄Tweakを開発する脱獄デベロッパ達のやる気を削ぎ、その人数を減らしています。このようにして、脱獄はゆっくり死んでいくのです」
小龍的にはこう思った
私自身も初代iPhone(iPhone 2G)の時代から脱獄をして、当時できなかったコピー&ペースト機能を実現したり、諸言語キーボードを使えるようにしたりしていたことを思い出します。また、そもそも当時初代iPhoneは基本的にアメリカのキャリアAT&T版のものしかなく、脱獄してSIMロック解除をしないと、他の国では使えないのでした。当時中国で初代iPhoneを使うには、脱獄が必須だったのです。
しかし実際、WWDC17で発表されたiOS 11において、ほぼ脱獄による「キラー機能」はiOSネイティヴで実装されてしまった感があります。もう殆ど脱獄する理由はないのかもしれません。私自身もiOS 10で既にメインで使っているiPhone 7 Plusでは脱獄をしていません(サブで使っているiOS 9のiPhone SEのみ、脱獄を維持しています。個人的にはまだSpringtomizeのようなSpringboardのカスタマイズなどはまだ価値があると思っていますが)。
とはいえ、iPhoneとiOSの歴史は実は脱獄なしには語れないところがあります。光があれば影もまたある、影がないと光もない、ともいえるでしょう。脱獄があったからこそ、Appleの標準iOSにはない便利に使える機能が実現し、Appleはその人気脱獄アプリやTweakを研究すれば、人々がiOSに欲しがっている”足りない機能”を簡単に見つけることができ、そしてそれを次のiOSに組み込んでいったのです。またiOSのセキュリティやプライバシー保護性能が他のスマートフォン用OS(Android)に比べ高いのも、やはり脱獄による挑戦があったためといえましょう。
ただ、@Saurikが指摘していることも事実です。もう脱獄はツールを提供する側もそれを利用するユーザ側も人数が減少するという完全なるバッドスパイラルになっていて、このままよほど便利な機能(所謂脱獄キラーアプリ)でも登場しない限り、脱獄は本当に一部のマニアだけが好き好んでやることになるか消滅してしまうでしょう。
ただ、脱獄の先駆者達は期待するなとはいいながら、中国のセキュリティチームが最近、次世代iOSのiOS 11(ベータ2)の脱獄に成功していたりします(脱獄ツールがリリースされるかはわかりませんが)。今後は欧米が中心だった脱獄の先駆者から、中国のハッカー達に脱獄の主導権が渡っていくのかもしれません。
記事は以上です。
(記事情報元:Cult of Mac)