Appleによる取締役の引き抜きが、インテルの5Gモデムからの撤退の原因だった?

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当ブログでも何度かお伝えしている、Appleとインテル(Intel)、そしてクアルコム(Qualcomm)を巡る、将来のiPhoneに搭載される5G通信用ベースバンドモデムチップ(以下モデムチップ)の取引に関する駆け引きは、先週からまるでドラマのような急展開をみせています。しかし実はその舞台裏では、それぞれの会社の様々な思惑が入り乱れ、策略が張り巡らされていたようです。The Telegraphの新たなレポートによると、Appleは今年初めになんとインテルの上級取締役で、5Gモデムチップの開発責任者を引き抜いていたことがわかりました。

5G-powered-by-Intel
幻と消えたインテルの5G。。その原因はAppleだったわけですね!

漏洩(リーク)した電子メールを引用したこのレポートによると、Appleは2月にインテルからUmashankar Thyagarajan氏を引き抜いたということです。Thyagarajan氏はまた、彼のLinkedInプロファイルをインテルから「Appleのチップアーキテクチャ」を変更していることから、その裏付けがとれています。

▼Umashankar Thyagarajan氏のLinkedInのトッププロフィール。確かに「Architecture at Apple」になっています。

Umashankar Thyagarajan LinkedIn

▼Umashankar Thyagarajan氏のLinkedInでの職歴。確かに、インテルに2019年2月まで在籍し、同じ2月から現在まで3ヶ月、Appleで働いていることがわかります。そしてインテルでの最後の職歴が、Senior Director, Project Engineer 5G(シニアディレクター=上級取締役、5Gプロジェクトエンジニア)となっています。

Umashankar Thyagarajan LinkedIn

The Telegraphが引用したリークされた電子メールの中で、インテルの経営者Messay Amerga氏とAbhay Joshi氏は、Thyagarajan氏が2018年のiPhoneで使用されているインテルモデムチップの開発において重要な役割を果たしていたことを説明しています。さらに、この2人の幹部は、Thyagarajan氏が将来のiPhone向けの5Gチップとして開発されていたXMM 8160 5Gモデムチップのプロジェクトエンジニアであったことを認めているのです。

Thyagarajan氏は、モバイルプラットフォームアーキテクチャに関連したさまざまな役割を果たしながら、7年以上にわたってインテルで働いていました。過去3年半の間、Thyagarajan氏はインテルの5Gプロジェクトエンジニアリング担当シニアディレクターでした。一昨日の当ブログ記事では、Appleは昨年夏頃からインテルのスマートフォンモデム事業の買収を検討していたことをお伝えしましたが、最終的にこの協議は中断していたのです。その代わり、Appleは重要な人物を引き抜いていた、ということになります。

Thyagaraja氏がインテルを離職したことで、インテルの5Gモデムへの取り組みは後退しました。2月の離職後間もなく、インテルが5Gモデムチップの開発期限を守ることが困難になったため、Appleがインテルのタイムラインに疑問を呈したことは当ブログでもお伝えした通りです。

最終的に、インテルは先週、5Gモデムチップ開発からの撤退を発表しました。モデムチップ事業そのものの収益が見込めなかったたのが原因としていましたが、その発表は同日、Appleがクアルコムとの世界規模での全面和解に至った発表の数時間後でした。インテルのスワンCEOは、インテルの動きはAppleとクアルコムとの和解によって促されたと述べていましたが、それには上記のような、Appleによる重要人物の引き抜きによって開発がうまく行かなくなってしまったという裏の事情があったということですね(もちろん、不採算事業はさっさと切り捨てたいという就任直後のスワンCEOやその取り巻きの個人的な意向も十分あったと思われます)。

Thyagarajan氏の離脱がインテルの5Gスマートフォンモデムへの取り組みの挫折を招き、そしてAppleとクアルコムとの和解をもたらしました。更に、Appleは自社でのモデムチップ開発の取り組みを急速に拡大しているといわれています。Thyagarajan氏が加わることで、Appleのその動きはますます加速していることでしょう。しかしそれにもかかわらず、やはり先行者のクアルコムとの技術的な差は大きく、Appleが自社で開発したモデムチップをiPhoneに搭載できるようになるのは数年先ではないかとみられています。

Appleはクアルコムと係争中はクアルコムを切り、インテルと手を結びながら、実は用意周到に5Gチップをできるだけインテルからは購入せず、また今後自社開発ができるように5Gのトップのエンジニアをインテルから引き抜く、という策略を実行に移していたわけですね。もちろん、Appleはインテルのモデムチップ事業の一部を買収しても屁でもないくらいありあまる現金があるからできる技でもあるのですが。。その点でもトップの人を一人引き抜くだけでインテルの5Gモデムチップからの撤退を決めさせたわけで、随分と節約ができたわけですね。やはりAppleはとてつもないビジネス巧者だといわざるを得ませんね。

記事は以上です。

(記事情報元: The Telegraph via 9to5Mac

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