世界最高の株式時価総額を持つ会社は、言わずと知れたApple Inc.(アップル・インコーポレーテッド)だ。そんな世界最強の会社を率いている人達のことが、世界中から注目を集めるのは必至だ。しかし表によく登場してくるCEOやシニア・ヴァイス・プレジデント以外にも、Appleにはあまり表に出てこない取締役会がある。それをとりまとめる人物、いわばAppleの本当のトップ、チェアマン(Chairman)について書いてみた。
Appleのよく知られている表のリーダー達
Appleを率いるリーダーとして、同社の共同創業者で前会長・前CEOの故スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)やスティーブ・ウォズニアック(Steve Wozniak、ウォズ、Woz)、スティーブ・ジョブズが去った後にAppleのCEOとなったジョン・スカリー(John Sculley)、ギル・アメリオ(Gil Amelio)、現CEOのティム・クック(Tim Cook)などはよく知られた人物だ。
またCDOのジョニー・アイブ(Jony Ive、Jonathan Ive)、リテールとオンラインアップルストア担当アンジェラ・アーレンツ(Angela Ahrendts)、ワールドワイドマーケティング担当のフィル・シラー(Phil Schiller、Phillip W. Schiller)、インターネット・ソフトウェアサービス担当のエディ・キュー(Eddie Cue)、ソフトウェアエンジニアリングのクレイグ・フェデリギ(Craig Federighi)、そして今回新しくCOOとなったジェフ・ウィリアムズ(Jeff Williams)などがスティーブ・ジョブズ亡き後、よく新製品発表イベントやWWDCなどの壇上に立って講演することで有名な、現在のAppleの経営責任を持つ実働部隊のトップ、エグゼクティブ(Executive、上級管理者)のメンバーだ。
実はAppleの取締役会はよく知られているリーダー達とは別にあり
しかし、彼ら上級副社長達は実は経営の”実務”を担当しているのであって、Appleの取締役会(Board of Directors)、つまり会社の本当の意味での業務執行意思決定に直接参加しているわけではない。そしてその取締役会のトップに君臨する”Chairman of the Board”、日本的にいえば「会長」にあたるのは、実は【アーサー・D・レビンソン(Arthur D. Levinson)】という人物なのだ。
アーサー・D・レビンソンは、かのスティーブ・ジョブズの後を継いでAppleのこの地位に立った人だ。しかし公の場になかなか出てこないため、世間ではそれほど知られているわけではない。また、検索してもレビンソン氏に関する日本語の資料が圧倒的に少ないため、ここで紹介しておきたい。
アーサー・D・レビンソンApple会長のプロフィール
ジェネンテック社のトップに、バイオテクノロジーの殿堂入りも
アーサー・D・レビンソン現Apple会長は、医療会社(バイオベンチャー)のGenentech(ジェネンテック、公式サイト、Wikipedia)社の元会長及び元CEOで、Calico(Googleの親会社Alphabetグループの1つ)の現CEOでもある。そして2004年から2009年まではGoogleの取締役も務めていた人物だ。
レビンソン氏は1980年に医療会社のGenentechにリサーチ科学者として入社。ジェネンテック社はバイオベンチャーのパイオニアで、アメリカカリフォルニア州サンフランシスコの会社だ。1989には同社のリサーチテクノロジー担当の副社長(ヴァイス・プレジデント)となり、1992年には上級副社長(シニア・ヴァイス・プレジデント)に昇進。そして1995年にはCEOとなって、続く1999年にはChairman(会長)となった。現在ジェネンテックはバイオベンチャーとしてはアムジェンに継ぐ世界第二位の売上げ規模を誇る大会社だ(日本最大の武田製薬よりも上)。
レビンソン氏本人は1993年にはバイオテクノロジーの殿堂入りを果たし、数々のベストCEO賞も受賞している、医療・バイオテクノロジー業界の巨人ともいえる人物だ。
AppleとGoogleの取締役を兼任後、Appleのみを選択
そんなレビンソン氏は2000年8月からAppleの取締役を務めており、その後2004年からはGoogleの取締役も兼任していた。しかしAppleとGoogleがスマートフォン事業(iPhone vs Android)やOS(Mac OSとChrome OS)が競合関係になったことから、米連邦取引委員会(FTC=Federal Trade Commission)が独占禁止法(反トラスト法)違反ではないかと調査したため(独禁法では競合する事業を運営する二つ以上の会社の取締役に同一人物が就任してはならないという決まりがある)、2009年10月12日にGoogleの取締役を退任、Appleを選択することになった。
実はGoogleの元CEO、エリック・シュミットも同年8月までAppleの取締役を3年務めていたため、Appleは2009年にはあわや取締役の中から経験豊富なアーサー・D・レビンソンとエリック・シュミットの2人を失うことになりそうだったが、結果的には一人だけで済んだことになり、スティーブ・ジョブズも安堵したという。エリック・シュミットは自分がAppleの取締役を退任するには何の圧力もなかったと語っているが、当時既にAppleとGoogleの競合関係や対立は決定的で、恐らくそんなことはありえないだろう。事実、スティーブ・ジョブズは2010年に社内のトップ100ミーティングに向けて、Googleと聖戦(Holy war)を行うと宣言しているくらいだからだ。
Appleの会長へ、そしてGoogle系Calicoを起業、CEOに就任
アーサー・D・レビンソンはスティーブ・ジョブズが亡くなった1ヶ月後、2011年11月にジョブズの代わりにAppleの会長に就任した。文字通り、Appleのトップに就任したわけだ。その後、記事更新現在まで4年以上、Appleの会長の座にいることになる。
しかしレビンソン会長はその後、Googleの親会社となったAlphabetに所属するベンチャー企業、Calicoの創業者となり、CEOにも就任している。Calicoは老化現象や加齢に伴う病気の研究を目的に設立された。Googleが事業を分社化したことによって、会社単位でのAppleとの競合関係はなくなり、このような人類の未来に役立つプロジェクトについては、AppleもGoogleも手を組んでいくということなのだろう。
Appleの取締役会の会長はやはり相当な影響力を持つ
日本でいうと会長職は名誉職的なところがあるが、アーサー・D・レビンソンは正に取締役会の会長だ。当然のことながら取締役会では重要な業務執行の意思決定がなされるため、やはりそこをまとめる取締役会長のアーサー・レビンソン氏はAppleの中で相当な影響力を持つのは間違いないだろう。
Apple取締役会の顔ぶれ
ちなみにApple公式のLeadershipのページを見てみると、Board of Directors(取締役会)には8人いる(票が割れたときのために奇数じゃないのが面白い)。
- 元アメリカ副大統領のアル・ゴア(Albert Gore Jr.)氏
- ウォルト・ディズニーからCEOのロバート・アイガー(Robert A. Iger)氏
- 航空業界から二人、ボーイング社の前社長ジェームズ・ベル(James A. Bell)氏とノースロップ・グラマンの前CEOのロナルド・シュガー(Ronald D. Sugar)氏
- 元Avon Productsの社長で現Grameen America社長のアンドレア・ジュング(Andrea Jung)氏
とそうそうたるメンバーが入っており、なんだか壮大な天下り先のような様相を呈している。
ウォルト・ディズニーのロバート・アイガー(ボブ・アイガー)氏は元々ディズニーの個人最大株主となっていたスティーブ・ジョブズの盟友であったことで入っているのはわかるが、副大統領だったアル・ゴア氏、航空業界からOBの二人、マルチ商法のAvonから現在マイクロファイナンスの社長兼CEOを勤めるアンドレア・ジュング氏がいるとは、かなり変わった感じの構成になっている感じがする。Appleも今や米国の政治や経済界の意向には逆らえなくなっているか、その意向に沿った製品を作らざるをえないということかもしれない。
Apple Watchなどはアーサー・D・レビンソンの会長の意向によって、今後医療に役立つように進化させてほしいものだ。
記事は以上。