半導体業界の最上流の会社として、ARMの提携先は競争相手よりも断然多くなっている。ARMは1990年に設立されてから1000社以上もの提携先を抱えるようになり、これらの提携先はARMが設立されてから25年で750億個以上ものARMアーキテクチャにもとづくチップを製造した。これは1000社がARMのために奉仕しているのに等しい。これは大変輝かしい業績といえるだろう。なお、それらのARMに”奉仕”している会社の中には、クアルコム(Qualcomm)やメディアテック(MediaTek)、サムスン(SAMSUNG)等半導体メーカーの巨頭も含まれているのだ。そしてもちろん、あのAppleもチップの面ではARM陣営の1つだ。昨日の記事に書いたとおりでもある。
ARM25周年、深センで業績発表、スマートフォン業界では95%のシェアと支配的地位を保つ
昨日はARM設立25周年だった。ARMは中国のエレクトロニクスの集積地でもある広東省深圳(深セン)にて、その業績を発表した。今年Q3の営業収入は3.76億米ドルとなった。ちなみにこの数字はクアルコムの10分の1だが、ARMの従業員数はクアルコムの10分の1だ。そして世界の95%のスマートフォンに使われているCPUやGPU等のチップはARMのアーキテクチャを使用している。去年、ARM Maliを使用したGPUが世界での出荷量が5.5億個となり、スマートフォン市場シェアの35%となって1位となった。
これらのデータは、このモバイルインターネット時代において、ARM陣営は基本的に完全にインテルx86とMIPSのエコシステムを制圧したということを証明しているといえるだろう。実際、ARMがこの業績を発表しなくとも、誰もがわかっていた結果でもある。
ARMは次のIoT時代ではどうなる?
これまでの味方陣営が敵に回るかも
しかしこれから先のモバイルインターネットの次の時代、つまりモノのインターネット化(IoT)の時代には、ARMはどうなるだろうか。ARMの戦略によれば、もちろんIoT業界への野心に溢れているようだ。チップメーカーにIPコアを提供する以外にも、ARMは更にIoTのデバイスプラットフォーム、mbedを作っている。ここ1年で、実力のあるテック企業たちはIoT業界に乗り出し、皆がIoTの標準規格の統一者となろうとしている。これは、これまでARM陣営として肩を並べて戦ってきた企業がIoT業界では敵となる可能性がある。グーグル(Google)やサムスンなどもそうなるだろう。
ARMは無料オープンソースのmbed OSで標準化を図るが。。
ARMの試算では、IoT用のチップはモバイルデバイス用チップと同じ市場規模を見込んでおり、将来的には200億米ドル(約2兆4000億円)の市場になるとみている。しかしARMはチップのIPコアだけを狙っているのではない。上述の通り、ARMはmbedプラットフォームを推し進め、チップメーカー達には無償でオープンソースのmbed OSを使用させる予定だ。ARMのMike Muller CTOは、mbed OSをリリースする際に、「IoTは既に断片化している。そんなわけで私たちは、無料で、誰でも使えるものを作りたいと考えた」と語り、その意向を暗示している。この点においては、ARMはグーグルが発表したBrillo、マイクロソフト(Microsoft)が推しているWindows 10 IoTと異口同音だ。
OS開発専門家がライバルに直面しても、ARMはmbed OSに今でも熱い希望を寄せている。わかりやすい言い方をすれば、ARMの望む美しい展望とは、mbed OSがIoT業界のAndroid OSになるというものだ。
mbed OSの詳細については@ITのMONOistかマイナビニュースが詳しい。
しかし理想や夢は美しいものであるが、現実はなかなか厳しい。mbed OSがリリース発表されたのが去年10月で、既に1年経っているが、ほとんどmbed OSをサポートしている企業は存在しないのが現状だ。
ARMのmbed OS、提携先はまだまだ寂しい限り
ARM25周年イベントで、ARMのプロセッサ部門マーケティング総監のLan Smytheが、プレゼン資料で、mbed IoTプラットフォームが昨年リリースされた時の提携先は25社だったことを発表している。その中には、Atmel、フリースケール・セミコンダクタ、IBM、KDDI、Marvell、MegaChips、鼎燦、Nordic Semiconductor、NXPセミコンダクターズ等も含まれるが、スマートフォン業界の提携先と比べるとこの陣容は明らかに大きく弱体化している。現在ではその提携先の数も55社になったとのことだが、具体的な企業名が明かされていないため詳細は不明だ。もし大企業が含まれていればその企業名を発表していることであろうから、それほど大きな企業が参加していないのだろう。
ARMのmbed OS、デベロッパからは高評価
ARMの慰みになっているのは、開発者(デベロッパ)達はmbed OSを認めていることかもしれない。去年、mbedプラットフォームのデベロッパは世界で6万人しかいなかったが、現在は15万人に増加している。また、開発環境の使用回数も290万回から490万回に増えている。これを見れば、mbed OSも”友達がいない”という恥ずかしい時期を抜け出したということになり、これはARMにとって大きな意義を持つことだ。
そもそもIoTは標準化が難しい上に、IoTそのものがまだ普及せず
しかしIoTの基準プラットフォームになりたいと思っている全ての企業に水を差しているのが、絶対的大多数のIoT関連に従事している人の口からは、IoTでは統一した基準が作りにくく、結局はどのプラットフォームのものが一番売れたかにかかってしまうという結論が出ていることだ。ARMのmbed OSがいくら無料でも、Android OSのようになるにはその難易度が非常に高いことは想像しなくてもわかるだろう。そもそも、まだIoTそのものが決定的な製品がなく、普及しているとはいえないこともあるのだが。
ARMの優勢と戦略
ただしもちろん、ARMにも技術的なアドバンテージはある。ARMは”ソフト”を作るのは不得意だ。しかし彼らには超強大なIPコア技術と、マイクロアーキテクチャ技術がある。過去20年間、ARMは自社で1つもプロセッサやチップを作ったことがなく、チップメーカーにIPコア(CPUとGPU)及びアーキテクチャの特許使用権を売ってきたのだ。そしてそれらの提携先から特許使用権費用(upfront license fee)と特許税(royalty)を徴収してきたのだ。儲けはチップメーカーやデバイスメーカーほど多くはないものの、このビジネスモデルは今後も短期間で変わることはないだろう。
今回のイベントで、ARMはいくつかの新たなIPコアとアーキテクチャを発表した。例えば、先月リリースされたばかりのIoTデバイス専用に開発されたMali-470 GPUだ。この新しいGPUは、Mali-400よりも消費電力が半分に抑えられ、面積も10%ほど小さくなっている。また今月発表されたばかりのARMv8-Mマイクロアーキテクチャは、TrustZoneセキュリティテクノロジーを集積している。また出荷量がCortex-Aシリーズを遥かに凌ぐ32bitのCortex-Mシリーズのプロセッサもあり、ARMにはまだまだ手の内にいいカードが揃っているといえる。
IoT業界で苦戦は必至、チップ業界の動きにも注目
ただ、業界内外もARM自身も、ARMがIoT業界ではモバイル業界ほどの支配的な地位にはいられないことは認識している。なぜならARMはIoT業界においてはインテルx86やMIPSと同じロードマップを走っていること、そして更にグーグルのBrillo IoT用OSがARMとインテルx86とMIPSの全てのアーキテクチャのCPUと互換性があるように、下流のメーカーは現在のところ選択権があるため、陣営の組み替えや組み直しができる状態であることがその理由に挙げられる。IoTの世界では最後まで笑っていられるのはどこか、そして最後に誰が一番大笑いできるか。。それは今は誰もわからない、正に戦国時代、群雄割拠の時代になっている。
画蛇添足 One more thing…
一般ユーザにとっては、上記のようなことは直接的な関係はあまりないため、IoTデバイスが本当に使いやすいのか、安価でできるのか、そちらの方が重要な気もする。
しかし実はARMのような会社によって、実際のデバイス製造メーカーがコストをかけずに容易に開発が可能なプラットフォームが整備されることも、いい製品ができるための基礎となる。わかりやすくいえば、【縁の下の力持ち】なのだ。
人々の生活が便利になるIoTデバイスを、ARMを含め多くのメーカーが競争の中で素晴らしい製品が登場することを祈っている。案外また携帯電話やスマートフォンのように、ある程度群雄割拠が進んで基礎技術が固まったところで、Appleのようなイノベーティブな会社が現れて業界をかっさらっていく可能性もあるかもしれない。
記事は以上。
(記事情報元:雷锋网)