Apple Payが米国外で技術的問題発生などで苦戦、日本含む海外への普及へ向けた課題とは

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Appleが提供しているモバイル決済サービス【Apple Pay】は世界的に使用範囲が拡大しつつある。カナダの5大銀行もApple Payのサポートを発表したのは記憶に新しい。

ただ、ロイター(Reuters)社の報道によれば、Apple PayはAppleファンからのウケはいいものの、一般消費者向けに拡がっているとはいいがたい状況のようだ。

アメリカ外の市場でApple Payが技術的問題に直面

上記の報道によれば、Apple Payの2015年の総取引額は109億米ドル(約1兆1,877億円)にのぼったようだが、その大部分はアメリカ本土で使われたものだ。Apple Payは世界的にみればまだまだ多くの技術的な問題があるようだ。例えばオーストラリアの銀行と紐付けた場合、支払い方式の選択のところで技術的な問題が発生するという。

Photographer: David Paul Morris/Bloomberg
Photographer: David Paul Morris/Bloomberg

ベンディゴ(Bendigo)銀行の代表は、「私たちの銀行では、店舗の端末がApple Payからの決済を受けている過程で、予測できなかった技術的な問題にみまわれています」と語る。このような問題に対して、Appleの幹部のJennifer Bailey氏は、「この問題の解決には時間が必要です。私たちはできるだけ速く行動してこの技術的問題を解決します」と回答している。テスト期間が短か過ぎたことが原因のようだ。

 

Apple Payの導入時点でも既に問題が

iPhoneSE_ApplePay_Japanese_1

また、それ以前にApple Payにカードを紐付けするか、という段階でもApple Payは順風満帆ではない。例えばイギリスでは、8600万枚もの非接触カードが消費者に使われており、AppleはそれらのユーザにもわざわざカードをApple Payに紐付けるための理由を作り出して説得しなくてはならないからだ。

また中国でも、Apple Payリリース初日に300万枚ものカードが紐付けられたというが、実際には大量の紐付けの失敗が報告されている。これはApple側が大量の登録が来た時のサーバダウンを防ぐためにあらかじめアカウント発行数の上限を決め、段階的に開放していたからだというが、一刻でも早く使いたいユーザを興醒めさせてしまうという結果になってしまった。私自身も中国ではApple Payを紐付けして使っているので、そのレポートをご覧いただければと思う。ただ、使えるところが限られすぎて今までほぼスターバックス以外で使ったことがないが。。

Apple Payは最近のAppleのハードウェアのようにいきなり世界的に展開するのではなく、まずはアメリカ本土だけでサービスを始め、そして徐々に世界的に広げていくというやり方をとっている。それにはやはり多くの技術的な問題や、各国市場の状況が複雑に絡み合って、一斉での導入は難しいと判断した結果なのだろう。

アメリカ以外では問題が多いApple Pay。その問題を整理し、原因を個人的に分析してみた。

 

Apple Payが米国以外で普及しない原因分析

iPhoneSE_ApplePay_10

基本的に米国以外でApple Payが拡がらない原因は、金融機関側、店舗側、ユーザ側のそれぞれで全て問題があるからだと思われる。逆にいえば、Apple Payの長所は、ユーザのセキュリティやプライバシーが守られる、この1点くらいしか見当たらず、Appleとユーザにとってはいいが、それ以外にとっては負担でしかないという構造そのものが原因なのかもしれない。

金融機関側の問題

  • 自社による既存のサービスがある
    カナダでの導入が遅れた原因としては、銀行自身がモバイルウォレットサービスを展開していたため、そちらを使ってもらいたかったから、銀行としてはApple Payの導入を渋ったという背景があるという。世界的に普及しないのは類似の理由によって金融機関が提携に消極的だからであろう。中国でも、Apple Payはユニオンペイ(銀聯、Union Pay)のQuickPass(閃付)という銀行ユニオンが提供するモバイル決済サービスに相乗りする形になっており、ユニオンペイとしては既存のサービスがあるのに、そこに余分な手数料がかかるApple Payが乗っかってくるのは面白くなかったに違いない。
  • Appleに支払う手数料が別途かかる
    Appleの手数料は100ドルの決済に対して30セント、つまり0.3%かかる。上記の問題と被るが、当然自社で提供しているサービスであればそこがかからないので、導入に乗り気でなくなるのは自明の理だ。ちなみにAppleは中国ではApple Payの導入を何としてでも広げたいため、恐らくユニオンペイを説得するために世界共通手数料を中国のためだけに半分の15セント(0.15%)に値下げしている(それでも普及していない)。
  • 技術的ハードルが高い
    今回の記事のように、決済のプロセスの段階で技術的な問題が発生することがあるのは致命的だが、それはひとえにデータの徹底した暗号化を行っているApple Payの技術的ハードルが高いこと、そしてシステムをそれに合わせて変更しなければならないという金融機関側の負担があることを暗示している。金融機関側としては導入に諸手を挙げて賛成というわけにはいかなかったのだろう。

店舗側

  • Apple Payに対応したNFC決済のための端末が新規で必要な場合がある
    この場合は店舗側が端末を負担することになり、買い取りの場合は初期投資、レンタルの場合は固定費の上昇となり、店としてはそこまで負担が増えてまで決済が増えるという予測を立てなければならない。店舗や店舗数が大規模になればなるほど、余計にだ。ということで特にAppleが狙う市場の中国では殆ど普及していないのが現状だ。それに比べ、既存の2大モバイル決済サービスWeChatとAlipayは既にかなり普及している。
  • 導入のために従業員の研修が必要など、その他のコストがかかる
    Apple Payの使い方はユーザが慣れていない場合が多く、店舗側がどのように使うか、お客様に説明しなければいけない場合がある。私も中国で使ってみて実際にそうだった。

ユーザ側

  • Apple Payに対する関心が薄い
    一般のApple製品ユーザは、よほどAppleのニュースに注目でもしていなければApple Payの存在さえ知らない人もいるのではないだろうか。日本ではまだサービスが始まっていないから仕方がないが、既に始まっている中国でさえそうだ。
  • 既存のモバイル決済サービスに比べ、ユーザビリティで劣る
    上記で挙げたイギリスの例では、数枚の非接触決済カードを一枚にまとめられるというメリットはある。しかし使い勝手は正直劣る。特に中国では既存のWeChatやAlipayでの支払いが非常に便利で、後者はiPhoneを使えば指紋認証を導入することもできる。特にApple Payを使う必要性を感じない。
  • 値引などお得な要素が既存のモバイル決済サービスに比べ少ないか殆どない
    他国ではわからないが、中国ではまず使えるところが少ないのと、キャンペーンが殆どない。それに比べ、既存のWeChatやAlipayでは多くのキャンペーンが実施されていて、しかも多くのグループ購買サイトやOtoOサービスと紐付けされていて、便利に使える上に値引ができるのに対し、Apple Payは殆どそのようなことがないため、わざわざ使う必要性を感じない。
  • ポイントサービスがない
    中国の既存のモバイル決済サービスAlipayなどでは、使用するシチュエーションによって会員ポイントが貯まり、会員のクラスをアップデートできたり、ポイントで商品に交換することもできる。しかしApple Payには一切そのような要素はない。

全共通問題

  • NFCとTouch IDが搭載されたデバイスでないと使用することができないというハードウェアの制約がある
    これがApple Payの最大の特徴の1つにして最大の欠点ではないだろうか。既存のモバイル決済サービスはプラットフォームを選ばないが、Apple Payは選んでしまう。それだけで使用できる人の数がぐっと限定されてしまうのだ。逆にApple Payに魅力があれば、Apple Payを使うためにわざわざAppleのデバイスを購入する人もいるだろうが、残念ながらそこまでApple Payに魅力がないため、その動きには全く繋がっていないのが現状だろう。今後Apple Payを他のデバイスに向けて開放するかどうかについては、セキュリティやプライバシーを重視するAppleとしてはやらないのではないかと思われる。

 

Apple Payは年内に日本でサービス開始か、しかし普及は難しいかも?

日本でも、横浜のマクドナルド2店舗でアメリカのカードと紐付けしたアカウントで使えたというレポートがアスキーで公開されている。しかし日本の店舗でApple Payを使うには店舗側でApple Payに対応した「NFC決済」のための端末の新規導入が必要であることを、このレポートは示していると言えるだろう。

Appleもアジア太平洋地域でのApple Payの導入を急いでいるようだが、これまでのニュース報道では日本での実際の導入は年内ということになりそうだ。

ただ日本でも既に「モバイルSuica」「Felica」「iD」「WAON」「nanaco」「楽天Edy」など交通系ICやクレジットカードや銀行カードに付随する非接触カード決済やモバイル端末での決済が可能になっている。カードを取り出さずにiPhoneで決済できるというのはApple Payの他にない一つのメリットではあるが、やはり日本ではポイントシステムが当たり前になっているだけに、Apple Payデビュー当初は新しもの好きやApple大好きな日本人は使うかもしれないが、お得な感じがしなければ既存の「カードでピッ」の方が操作性はいいので、普及は難しいのではないだろうか。。

記事は以上。

(記事情報元:Apple InsiderReuters

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