Apple Storeは、世界でも最も大きな市場といわれるアメリカで最も坪効率(面積当たりの利益)が高い店舗として有名で、あのティファニーのブランドショップの倍以上の坪効率となるといわれています。それほどの利益率の高い店を設計し、実際に作り、そして運営しているAppleはやはり素晴らしいものがあると思います。
そのデザインは非常に独特で、それがApple(とApple指定のデザイン事務所)によってデザインされ、現地のデザイン事務所に発注され、施工されます。
私の友人のMさんは、Appleの直営店、かつてはApple Storeと呼ばれた実店舗のデザインをしています。もちろんこのことは公表してはいけないですし、かなりApple Storeについては箝口令が敷かれていて、公開できないことが多いのですが、今回公開してもいいかなという情報をかなり聞き出すことができましたので皆様にもちょっとお裾分けします。
※お酒を飲みながらだったので、多少間違えたところなどもあるようですが、概ねこんな感じだったということで。。ご容赦ください。笑
Apple Storeの大元のデザインはイギリスの設計事務所、厳格なマニュアルの遵守が求められる
Apple Storeは、どこにいっても素敵ですよね。このデザイン(設計)そのものは、イギリスの設計事務所「フォスター&パートナーズ」が設計したもので、その設計が設計マニュアルとして日本側の設計事務所に下りてきて、それを現地で実現できるように落とし込むというような形になっているそうです。
ともかくマニュアルでは使われる素材から部材まで細かく決まっていて、それを厳格に遵守することが求められるそうですが、実際に現場でどうしてもマニュアルから外れてしまうことや、マニュアルに規定されていないことが発生することがあり、その調整を行うのが現地側の設計・施工チームの仕事、ということです。私の友人も、そんな役割だったそうです。
Appleの要求はすさまじく、それを実現するためにものすごく努力が必要だということです。設計はAppleがやるのに、それを実現するだけでも大変、ということなのですね。その代わり、報酬も大きいようです。そのAppleの設計に対するこだわりは、デザイナー個人の設計に対する概念が変わるほどのもので、他の企業の内装設計をデザインをするときにも少なからずAppleからインスパイアされたアイデアが活きることもあるということです。
素材や仕上げによってはApple専用で他には一切使わせないものも
Apple Storeで使われている什器など内装関係のものだけに限らず、あの分厚く湾曲しているガラスや天板や床材などを含む素材も全て指定のものを使用しなければならなくなっています。そして全ての指定部材にはメーカーが指定されていますが、素材や仕上げによっては、Apple以外には絶対出してはいけないという契約を結んでいるそうです。
例えば、天板(天井の板)の素材で銀色のものがありますが、Appleはこれを日本のメーカーから購入しています。その仕上げには特殊な製法とショットブラストの番手を用いられていて、メーカーはこれらをApple以外には提供してはならないという協定をAppleと結んでいるそうです。
お客様には見えないところまで指定、間隔や角度など、偏執的なこだわりも
Appleは箱の裏側、基板上の部品配置まで美しさに拘る。。これはMacintosh、いやその前のApple IやIIの時代からいわれていたことで、これはスティーブ・ジョブズの偏執的なまでのデザインへのこだわりが表れているものといえます。
その製品設計への偏執的ともとられるほどのこだわりが、そのまま或いはもっと厳格にApple Storeの設計に表れているということで、モノとモノとの配置の間隔や角度に至るまで細かいチェックを受けるということです。
オープン前に黒幕を外し中が見える状態を「Fishbowl(金魚鉢)」という。製品搬入は1日前
Appleはアップルストアを新規オープンするときに、正式オープン日の2週間前に外を覆っていた黒い幕のようなものを取り外し、店舗内部が外から見られるようにします。これをApple社内及びデザイン側の用語で「Fish bowl(金魚鉢)」というそうです。確かにこれは中をのぞき込せる演出で、まるで金魚鉢のようですよね。
そして、店舗で販売する製品そのものの搬入はオープン日の前日に行われ、徹夜で準備するような感じになるそうです。秘密主義+製品の盗難を避けるためかと思われます。
従業員用バックスペースはそこまで厳しくないが、一部に偏執的なこだわりも。あくまでエンドユーザが最高
従業員用バックスペースはそれほど広くなく、また製品修理用のスペースも収納や机の高さなどは調整できるようになっているものの、表のエンドユーザに触れる部分ほどは要求が細かくないようです。これはAppleがあくまでも製品をご購入いただくお客様を大切にし、そのために全ての神経を集中しているということを現しているといえるようです。それでも、休憩スペースの巨大ディスプレイは壁とツライチでないとダメなどのかなりの無理難題がつきつけられることはあるそうです。
ちなみにGoogleのオフィスは従業員用スペースについて、いかに従業員が快適に過ごせるかを追求していますが、Appleのバックオフィスの設計はそこまで従業員フレンドリーではないとのことです。
Apple新宿とApple京都は最新の中の最新の設計。天井に入っているあるものの色でわかる
日本にある9店舗のApple Storeのうち、新宿店と京都店、及びリニューアルされた渋谷店が最近のもので、設計も日本の他の店舗とは大きく異なるのはご存じの方は多いかと思います。
この新宿店と京都店とリニューアルされた渋谷店では、天井に使われているフレームの素材が白くなっていて、これは最新の設計の証拠だそうです。ちなみに少しでも古いものは黒いそうです。例えば、上下の写真のように。
リテール担当のトップがアンジェラ・アーレンツに変わってから大きく変わった
Appleのことをよくご存じの方は、アンジェラ・アーレンツ(Angela Ahrendts)のことはご存じでしょう。元バーバリー(BURBERRY)のCEOで、Appleのティム・クックCEOに引き抜かれる形でAppleに入社しました。そしてアンジェラ・アーレンツがリテール(小売り)担当SVPになってから、Apple Storeの設計コンセプトが大きく変わったというのです。
以前の店舗では、Mac本体を意識したような、無機質な素材を多く使ったデザインが使われていました。
比較的新しいApple Storeの店舗では、店内に多くの木を配置したり、壁の商品棚も木を多用していて、まるで店舗というよりウォークスルーの間にAppleの製品がある、というようなイメージになっています。真ん中に巨大ディスプレイを置いて、その前に椅子が無造作にあるような設計になっていて、講師と生徒というよりは、より近い形で交流が図られていて、子供達も参加しやすくなっています。Genius BarもGenuis Treeとなり、専門家のGeniusがまとめて構えているのではなく、あくまで自然に接客するような形になっています。
デザイナーによれば、やはりこれらはアンジェラ・アーレンツの影響が非常に強く、彼女個人の意見がかなり活かされているということです。
アンジェラ・アーレンツの予定は謎に包まれている
ちなみに、アンジェラ・アーレンツSVPは新規オープンのグランドオープンにはよく顔を出すことで知られていますが、その行動予定についてはAppleの幹部の中の幹部にしか知らされておらず、一般社員や外部の人は知ることができないと言うことです。
これは、アンジェラ・アーレンツがいかにAppleにとって重要な人物であるかということを示すものかもしれません。さすが、年俸100億円プレイヤーですね。
設計マニュアルは常に頻繁に更新(アップデート)され、いくつかのアイデアが同時進行で実行
Appleのすごいところ、そしてApple Storeを実際に作り上げるのに大変なところは、設計マニュアルが非常に頻繁に更新されることだそうです。まるで、iOSやmacOSのように。。
そして、アップデートした後はできるだけアップデート後のものを使うように推奨される、というより使うように要求されるそうです。
試行錯誤で作って無駄になったものはAppleが全て買い取るが、同時に納期が優先される
しかし、上記のようにマニュアルがアップデートされても、既に旧マニュアルの内容で部材を発注してしまったり、作り始めてしまっていたりした場合はどうすればいいでしょう。
Appleの場合は、全てのパターンを試してみるそうです。もちろん、納期が最重要で、納期に間に合うかどうかがまず優先され、それで間に合うようであれば、どんな高い素材のものでも何通りも作ってみて、合うものを入れるということをするそうです。そして、その試行錯誤の中で無駄になってしまったものについてはもちろんAppleが買い取るそうですが、完成したものに対する要求が非常に高く、やり直しも何度もさせられるということです。いやあー、現場は大変そうですよね。。
私も実はかつて20年近く前のユニクロ(ファーストリテイリング)が中国進出する際に、第一弾の内装マニュアルを作りたいということで、日本版のマニュアルの中国語翻訳を一人で行いました。報酬もすごかったですが、ものすごく分厚いマニュアルで、しかもものすごく細かい指定が多くてびっくりしました。。こういった店舗管理が、どこにいっても高品質を保ち、ブランドを生み出すのだなあと実感したのを思い出します。Appleも例外ではありませんね。
店舗番号はR+番号三桁で管理
日本の店舗限定かわかりませんが、AppleはApple Storeをそれぞれ店舗番号で管理しており、例えばR119は渋谷、R121は新宿、などとして管理しているそうです。この什器などにはこの店舗コード番号を付けて、どこに配置するのかを明示しているそうです。
使い終わったり代替わりがあって店舗から退役した什器は従業員用に
老朽化やデザインの変更などがあって、新しいものに置き換えられていく店舗内の什器(机や椅子など)ですが、置き換えられた古い什器は従業員用のスペースに用いられるそうです。無駄にしないのはいいですね。というより、とんでもなく高価なものなので、そのようにするのが自然ともいえるかもしれません。
また、従業員にもいいものを普段から使うことで、従業員自身のデザインや美への好奇心やセンスが研かれ、それによってより高いレベルのサービスを顧客に提供できるようになるのかもしれませんね。
今後の首都圏のApple Storeの展開。。情報は求人情報で漏れる
首都圏では横浜店と、もう1店舗がオープンするのは確実らしいですよ。これ以上は言えないですけど。。
基本的に漏れやすいのは、不動産の情報などよりも、ともかく人材募集の情報だということです。AppleはできるだけApple Storeの地元でスタッフを集めようとしますので、Appleが大量の人材募集をどこかでかけていることがわかった場合は、大抵はそこでApple Storeをオープンさせる準備を行っていることは間違いないというわけですね。こればっかりは、Appleも避けようがないですね。
と、タイムリーなことに本日、神奈川県内に店舗がオープンすることが求人情報から漏れましたね。これは横浜店のことと思われます。
デザイナーはジョニー・アイブの名前を知らなかった
これは番外編ですが。。
Appleの製品だけではなく、Apple Storeのデザインにも深く関わっているといわれる、Appleのデザインのトップ、ジョニー・アイブ(Jony Ive)CDO(Chief Design Officer)兼SVP。彼はスティーブ・ジョブズ復帰後にAppleのメインデザイナーとなり、ジョブズの右腕として、あのボンダイブルーのiMacやカラフルなMacBook、アルミ削り出しのMacBook、iPodやiPhone・iPadなど殆ど全ての製品のデザインに関わっていて、Apple復活と頂点に登りつめるための製品デザインを作り出しました。
しかし私の友人のデザイナーはジョニー・アイブのことは知らず、アンジェラ・アーレンツのことしか知りませんでした。ということは、現場レベルではアンジェラ・アーレンツの方が影響力が強く、ジョニー・アイブはもはや象徴的な存在になっているのかもしれません。
Apple Store従業員の知られざる秘密や給与制度など。。当ブログにはApple Storeに関する裏話や情報がいっぱい
他にも、あまり知られていないApple Store従業員の秘密や給与制度などについて、当ブログで記事にしていますのでご覧ください。
記事は以上です。