Appleは戦略の見直しが必要?Apple Payの普及目標と現実の乖離

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ApplePay

Apple(アップル)は鳴り物入りで登場させた自社のモバイルペイメントシステム”Apple Pay(アップルペイ)”サービスをお膝元のアメリカ合衆国だけではなく世界各国に広めようとしており、2015年末には大手の小売業者にApple Payをサポートしてもらえるように動いているが、どうやらその目標は簡単には達成できそうもないようだ。

Appleの目標と現実の乖離

 

とあるAppleの中の人がロイター社(Reuters)に明かしたところによると、「私たちは既に米国のトップ100の小売商と対話を進め、そのうちの半分が今年中にApple Payのサポートを進めるということでした。現在米国には70万ほどの小売店や自動販売機等がApple Payをサポートしていまして、これからApple Payは更にカナダにも進出します」とのことだった。

その取材内容を裏付けるためにロイター社は全米の小売商連合会のトップ100社のリストを使って、98社の実店舗を調査した。その結果、一部の米国の大型小売商はモバイルペイメントでの支払いを歓迎しているが、まだそのうちの4分の1しかApple Payを導入していないという。また3分の2の小売商が、今年はApple Payを導入しないと明言しているという。そして更に将来的にも来年2016年にApple Payを導入予定と答えた会社は4社しかなかったという。

小売商によれば、現在Apple Payを受け入れられない理由として、消費者のニーズが全くないということ、またApple Payによって取引された場合は顧客データが得られないこと、またApple Payを導入することによってテクニカルサポートコストが発生することを挙げているとのこと。

画蛇添足 One more thing…

Apple Payを使っても、小売商にも消費者にも利益がなく、ただAppleしか儲からないというのでは誰も使わないのは自明の理だ。

こんな時には、中国の事例が参考になるのではないだろうか。

中国のタクシーアプリに学ぶ、価値のある新しいサービスの普及のさせ方

中国ではタクシーを呼ぶアプリ(Uberのようなアプリの中国版)が普及している。もちろん全体的にタクシー代が安いからという背景や、アプリが非常に便利にできているからというのもあるが、その最大の理由は2つあると思われる。

1. 最初にキャンペーンを張って、使う方にも使ってもらう方にもメリットがあることをまず認知させる

まず一つは、最初の普及段階でタクシーアプリ側が運転手にも消費者側にも両方とも使用してもらうと得になるようなキャンペーンを展開したからだ。タクシーアプリ開発側が運転手にはインセンティブを渡し消費者には値引を行い、利益度外視なキャンペーンを張ることで、双方に「使わないと損」という感情まで引き出して爆発的に普及させたのだ。しかしそのキャンペーンも未来永劫続くわけではなく、一定の普及率までいったらやめるべきなのだ。中国のタクシーアプリでは現在そのキャンペーンも終了し、インセンティブや値引は行っていないが、それでも未だに高い利用率を保っているのは、その利用価値がしっかりと使う側にも使ってもらう側にも認知されたからではないだろうか(ちなみに現在は利用するとポイントがたまって、それで景品と交換できたりする)。

2. 消費者のニーズに合致したサービスを提供し、需要を喚起する

もう一点は、中国のタクシーアプリでは運転手と利用者の両方が、日本でいえばまるでヤフオクのように”評価”がつくということだ。運転手側は接客態度が悪かったり遠回りしたりすると利用者にアプリを通して通報され、悪い評価がつけられる。逆に利用者もタクシーアプリで呼んでおきながら、目の前に来た空車に乗ってしまったりした場合は約束を反故にしたとされ、暫くアプリが使えなくなったり、何度もそれをやるとブラックリストに載ってしまう。これは信用が確立していなかった中国タクシー市場の中で、使う側と使ってもらう側の双方の安心を買うために、何度も体験を積み重ねて信用を作るという双方の信用構築ニーズにがっちりはまった形となった。つまり、使う側と使ってもらう側の双方のニーズに合致したサービスを提供しているか、ということが非常に重要なのだ。

Apple Payでは上記2点が全くできていない

その2点をふまえてApple Payを見てみると、それらがことごとくないことにお気づきだろうか。

1点目については、Apple Payは既に立ち上がっているのに一切キャンペーンをやっていない。店舗側にとっては使用したらAppleから何らかのインセンティブがあったり顧客データが得られたり、消費者としては使用したらポイントがたまってそのポイントでAppleの製品が買えるとか店舗によって値引があるというものがないと双方とも導入モチベーションが上がらないのは火を見るより明らかだ。

そして2点目については、取引上の匿名性や安全性を理由に、店舗側にも顧客側にもデータが公開されず、Apple側も顧客の情報を得ていないというが本当かどうかは疑わしい(もちろんAppleは店舗側のデータは収集するだろう)。もちろんこの点については信用が成り立っている米国小売消費市場ではあまりニーズがないかもしれないし、必ずしも店舗側の”顧客情報が欲しい”というニーズを満たす必要はない。なぜなら消費者のニーズさえ満たしていれば店舗側も導入するしかないからだ。しかし消費者側の需要喚起が全くできていないのが現状で、それが一番の足かせとなっているのではないだろうか。既に商取引には長い時間をかけて現金・デビットカード・クレジットカード・その他のオンラインペイメントによる決済方式が確立していて、現在消費者が必ずApple Payを使わなければならない理由がない以上強引にでも需要を掘り起こし、そして継続してApple Payを使ってもらえるような魅力的なサービスにしなければ普及などありえないだろう。

更に、もしアップルがApple Payを他国の市場に進出させようとするなら、信頼される決済プラットフォームになる必要がある。これは金融・決済が専門ではないAppleにとっては非常に難しいことだ。

iTunes、iPodなどのAppleの過去の成功経験は通用しない

これまで音楽業界を破壊するなど非常に強気な商売をしてきたAppleが、Apple Payにおいてもこれまでのやり方を踏襲したという見方もできるだろう。しかしAppleがiPodやiTunesで成功したのは、その素晴らしいハードウェアを使うために”iTunesを使う必要があった”からだ。それでiTunes Music Store(iTMS)が爆発的にヒットして音楽業界が変わってしまった。しかし今回のApple Payは特にNFCとTouch IDを搭載したiPhoneやiPad(しかも現状iPhone6/6 Plus、iPad Air2、iPad mini3しかない)を使うために絶対に必要なものではない。そのあたりの関係性を見誤ると、Apple Payは”大山鳴動して鼠一匹”という結果に繋がりかねないのではないだろうか。

超巨大市場・中国でのApple Payの普及は更に困難

特にAppleが間違いなく狙っている世界第2の消費市場である中国(もう既に米国を抜いているかもしれない)では、Appleは世界最大の銀行決済ネットワークともいわれるUnion Pay(ユニオンペイ、銀聯)と交渉決裂し、アリババのAlipay(アリペイ、支付宝)とくっつこうとしていると噂されている。しかしAlipayの現実店舗での普及率はかなり限定的だし、オンライン決済でも特にApple Payを使わなくてはいけない理由はない(既にAlipayはアプリレベルで指紋認証に対応しているからだ)。Apple Payの中国での展開は暗礁に乗り上げていると言っても過言ではないだろう。

Apple Payの普及には戦略の見直しが必須では

いずれにせよ、AppleがApple Payを世界的に普及させるには、マーケティング戦略を大きく見直す必要があるのではないだろうか。

個人的にはAppleにはハードウェアだけしっかり作ってもらって、あとはクールなソフトウェアやサービスに専念してもらいたい。決済手段などはAppleが得意とするところではなさそうだからだ。Apple Payを使ったことがある人は確かに便利だというが、それが広く認知されない限りは最初に使われることはないし、継続して使用することへのメリットが見いだされない限り普及することはないだろう。

(記事情報元:WeiPhone

 

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