先日Appleが中国で国営4大銀行とのApple Payに関する合意に至り、来年2月8日の春節までにサービス開始かというニュースが流れたばかりのところに、今度は中国最大にして唯一の銀行間ネットワークであり、またオンラインペイメントのプラットフォームでもある【ユニオンペイ(Union Pay、銀聯、银联)】との予約的合意に達したというニュースが流れてきた。これによって、Apple Payが本当に中国で来年2月までに始まる可能性が高まった。
Apple、ユニオンペイとの予約的合意にサイン
ブルームバーグ(Bloomberg)が、内部事情に詳しい人物からの情報として、Appleが既に中国で絶対的にオンライン銀行取引を支配しているユニオンペイと予約的合意に達したと伝えている。合意には、iPhoneユーザがユニオンペイの支払いが可能な場所で、iPhone等のAppleデバイスに搭載されたNFCで直接支払いが可能になることが盛り込まれているという。
Apple Payもユニオンペイも閉鎖的サービス、相性がいい?
大きく見れば、Apple Payもユニオンペイもどちらかというと閉鎖的で独断的なシステムといえる。Apple Payでは必ずNFCモジュールと関連したAPIを使用する必要があり、AppleはそのAPIを一般のデベロッパ(開発者)に解放していない。また本部が上海にあるユニオンペイは、設立当初は銀行間取引や精算を便利にする為の会社だったが、ECやデジタル決済が勃興すると、ユニオンペイ自身も自らの決済プラットフォームを立ち上げた。それが”ユニオンペイ オンライン決済(银联在线支付)”だ。
Apple Payとの連携がオンライン決済市場では全く主流になれていないユニオンペイの起死回生の策となるか?
ただ、中国では既にインターネット企業が主導するオンライン決済サービス、例えばアリババ(Alibaba、BABA、阿里巴巴)のアリペイ(Alipay、支付宝)やテンセント(Tencent、腾讯)のテンペイ(TenPay、财付通)などが非常に強く、UXも一流のものを提供しているため、ユニオンペイはマーケットで主流になれていないのが現状だ。
ちなみに現在の中国のオンライン決済市場では、アリペイが45%、テンペイが19%で、ユニオンペイのシェアについては詳細な統計名数字に表れてこない。Apple Payとしては、ここでユニオンペイの力となって、この局面を打開することができるかもしれず、またユニオンペイとしてもなんとか巻き返しを図りたいところに渡りの船、というところだったのではないだろうか。
実店舗での支払いはユニオンペイの設置が圧倒的に多く、Apple Payの支払い方法が便利なのが優勢に
中国では、実はオフラインの実店舗では、ユニオンペイでの支払いが可能な店舗数はアリペイで支払い可能な店舗数を遥かに凌駕している(銀行カードという形だが)。そしてアリペイは、年寄りには使用が難しいという難点がある。若者だったとしても、スマートフォンを立ち上げ、アリペイアプリを起動し、支払い用バーコードを表示させる、という最低3段階の作業が必要で、その後支払いの際にもパスコードを入れたりする必要があったりする。
それに対し、Apple Payの使用は非常に簡単だ。あらかじめ銀行カードやクレジットカードを紐付けしておけば、決済時に端末をApple Pay対応のPOSに近づけ、指紋認証するだけでOKだ。iPhoneの中国での普及度が年々高まり、既に多くの人が所有するのを町中でみかける。もしApple Payがユニオンペイと組んだら、iPhoneユーザにとってはApple Payが最優先の決済サービスになるだろう。
今回、中国最大の銀行間ネットワーク決済を行っている独占的企業のユニオンペイ(銀聯)がAppleと手を組んだのは、ユニオンペイとしてはオンライン決済サービスとしては大きく出遅れたのを巻き返したい思惑と、Appleとしては実店舗に広く導入されているユニオンペイと組むことで中国でのサービスのスタートアップをスムーズにしたいという思惑がうまく合致してのことだと思われる。
画蛇添足 One more thing…
しかし個人的に少々気になるのは、Apple PayはiPhoneやiPad、Apple Watch等の端末のNFCを通じて行わなければならないという点だ。そうなると、Apple Payは純粋なオンラインペイメントとはいえず、対応POSを備えた実店舗だけでの使用に限定されるということになる。
そうなると、以下の中国で主流のオンラインO2Oサービスでは使えないということに。
- 「淘宝」等のEC
- 「美团」等のグルーポンサービス
- 「滴滴出行」等のタクシーや車の手配サービス
- 「大众点评」等の飲食店割引サービス
- 「携程」等の旅行手配サービス
- 「饿了么」等の宅配サービス
上記以外にもまだまだある。
それに対し、既存のアリペイやテンペイなどはこれらのアプリと連携が進んでいて、POS機にタッチすることさえせずパスコード或いはTouch IDで確認するだけで支払いができるようになっている。実は既に相当便利だ。実店舗で使用するにしても、店側も特に1個専用の安いスマホでもあれば、POS機を用意しなくていいので非常に簡単に導入できるのも強みだ。
中国では都市部でも若者はオンラインで買い物をすることが圧倒的に多い。Apple Payもこれらのサービスと連携してTouch IDだけで支払いができるようにならないと、既存サービスと同じスタート地点に立てないだろう。
その上、更にアリペイが先行している金融サービス(いつでも24時間投資や引き出しが可能な年利4%程度が複利でつくファンドもあり)や関連づけられた上記のO2Oサービスがないと、単に決済だけのサービスということになってしまい、中国ではApple Pay+ユニオンペイには何も優勢がないということになる。これは正に、現在のユニオンペイが弱いところなのだ。
これらが実現しないことには、ユニオンペイと共に中国No.1になるのはなかなか難しいかもしれない。正直、既に完全なオンライン決済が普通に行われている中国では、端末の接触が必要な決済には時代遅れ感が否めないのだ。
記事は以上。
(記事情報元:Bloomberg via Tech2IPO)