中国ECの現状レポート:”ニセモノに笑い、ニセモノに泣く”中国ECの問題点とは

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最近中国ECショッピングモールの最大手”Taobao(タオバオ、淘宝)”を経営する”Alibaba(アリババ、阿里巴巴)”が中国工商総局と偽物に関する取り締まりについてもめたことは記憶に新しい(この辺りはこのブログ記事を参照)。このことで、中国のネット民(特にネットショッピングが好きな人達)の眼が一気にEC上で販売されている商品の品質問題に向けられたのは確かだ。

■Alibabaの創業者で代表のジャック・マー(馬雲)
alibaba_MaYun_Jack-Ma

中国のメディア”証券日報”が中国の3大ECサイトと呼ばれ圧倒的な市場シェアを持つAlibabaJingdong(京東)1号店と連絡を取り、商品品質のモニタリング状況や偽物を退ける戦略について取材と検証を行っている。その中でAlibabaの担当者がインタビューに応じた際に、同社は偽物の予防対策として、スマート画像識別や、データ交叉分析、スマート追跡、ビッグデータによるモデル解析等のテクノロジーで、10億もあるオンライン商品の中から偽物を抽出しているという。

EC運営企業:我々はずっと努力している

Alibaba(Taobao)

■Alibabaグループのロゴ大全集
alibabacomp

Alibaba内部の人物によれば、Alibabaの運営するBtoC・CtoCのECサイトTaobaoが収集した規定に違反している偽物の画像は100万枚にのぼるといい、システムはなんと毎日3億枚の画像をチェックするという。そして画像識別によって商品のブランドを解析し、商品の真偽を判断。そしてこのシステムで数百万のTaobao上のショップに対し評価付けを行い、偽物を販売するリスクが高いショップや、偽物販売グループを突き止めるのだという。

また当然真面目に出品しているショップを守るため、虚偽の情報によるショップ登録を防ぐ努力も続けているとのこと。ショップの登録認証制度に関しては以前の身分証による実名登録から、更に進んだ方式による登録に既に切り替え済。新しい登録認証制度では、本人が身分証を持って同時に写っている写真を提供する必要があるだけでなく、不定期に手入力認証やスワイプコードなどの切り替えを行い、最大限に虚偽の登録を防ぐという。

更に、将来的にはTaobaoのショップに対する実名認証制度には、更に人の顔と声紋を記録する特別なデータベースを導入し、ショップを開く人には自身を撮影した写真と話している動画を提供させ、ハイテクノロジーによって人を識別するようにできる予定だという。

Jingdong(京東)

■Jingdongのロゴと創業者でCEOの劉強東
Jingdong

Jingdongの担当者がインタビューに答えた内容は以下の通りだ。

Jingdongは自社で販売するB2Cモールという色合いが強く、ブランド本体やブランドの公認リセラーからの仕入れが多いためもともと信頼性が高いということはあるが、最近は更に多くの消費者がJingdongに流入してきているため、Jingdongはプラットフォーム式ショップの登録数を増やしているという。ただショップに対して登録、運営、アフターサービスなど、全ての過程において更に監督体制を強め、商品品質の安定に務めているという。

ショップの登録ではJingdongは更に厳しい基準をもってショップの品質を保証、運営ではJingdongはショップに対しての商品の抜き取り検査の頻度を増やすという。現在は毎週3回以上抜き取り検査をしており、その抜き取り検査の対象は全てのジャンルに渡っているという。さして最近改訂された《Jingdongプラットフォームショップのポイント管理規則(京东平台卖家积分管理规则)》によれば、”偽物を販売したショップは違約金100万元(約1,800万円)を支払うか、もしくはその店舗の全ての販売額の10倍の違約金を支払うこと”という項目が追加された。

更にJingdongと各地の工商局部門等、政府の監督管理機構と連絡を取り、双方向のデータのやりとりや技術提携、ショップ情報検証提携などの協力をしているという。つまりもしJingdongが偽物を販売しているショップを見つけた場合は、可及的速やかに政府工商局にショップのデータを引き渡し、政府の力を借りてまで偽物の撲滅を行うということだ。

1号店

■1号店CEO劉峻嶺と董事長の于剛
The_Store

偽物販売予防策として、1号店は”スパイ”方式を採用している点でユニークだ。

1号店の担当者はインタビューで、まず1号店に登録しているショップは資質審査、値引セール状況のチェック、そして日常の取引やアフターサービスについて厳しい監督管理を行い、また“神秘的バイヤー”という手を使ってショップに対して頻繁な抜き取り検査をしているという。もしショップが偽物を販売していることが判明した場合は、1号店はまずそのショップをすぐに取引禁止として全て返品処理を行い、そして行政機関による処罰などの手続きに入るという。

2014年後半からは、1号店は業界内で初めてショップに対して”100万元品質保証プラン”を打ち出して消費者の権益を守っており、もしショップが偽物を販売した場合は、ショップに対して1号店はJingdongと同様100万元の違約金を徴収し、更に1号店による責任追及や消費者権益保証プログラムを実行するという。

1号店は輸入食品のジャンルについて他のECよりも優勢を保っているが、同社は《品質保持期限が近い食品の出品取り下げ規定(临近保质期食品下架管理规定)》を新たに制定し、また更に進んだ管理システムで食品の品質保持期限を管理するという。「例えば、品質保持期限が9〜12ヶ月の商品の場合、1号店は品質保持期限が残り60日になった時点で商品の出品取り下げ処置を行います」と担当者は語っている。

また、1号店は早期から“4+1商品品質保証制度”を導入しているとのこと。4+1とは、4重の監督管理と違反処罰制度のことで、サプライヤー審査、製品入庫検査、在庫配送管理、アフターサービスの品質問題処理の4つの段階で追跡調査を行った上で、違反が見つかったサプライヤーを処罰(+1)するというやり方のことを指すのだという。

消費者の視点:ネットECには「愛憎の念が入り混じっている」

Online_Shopping_girl

最近の工商総局のモニタリングレポートによって、AlibabaのECサイトTaobaoの偽物問題が白日のもとにさらされただけでなく、スポットライトを浴びてしまった形となった。その結果消費者によるECプラットフォーム上の商品の真偽についての議論が急激に熱を帯びている。なお、工商総局のモニタリングの結果によれば、各ECサイトの中で正規品を扱っている割合が最も低かったのがTaobaoで、わずか37.25%しかなかったという。

また他のデータ群によれば、Alibabaグループは2009年から、毎年11月11日(1ばかりということで独身デーとされている)に巨大な消費者還元セールを行っており、その日1日の取引額は年々増加している。2012年は191億元(約3,588億円)、2013年は350億元(約6,575億円)、そして昨年2014年は更にどっと増えて571.12億元(1兆731億円)となった。

この上記のデータを見れば、消費者のネットショッピングが年を追うごとに習慣化されていることがわかる。しかし消費者のネットショッピングに対する感情は”「愛憎の念が入り混じっている」”ようだ。

Jingdongアフターサービスのトラブル1:桂さんのケース

消費者の一人、女性の桂さんは《証券日報》のインタビューで記者に以下のように語っている。

Jingdongで炊飯器を買った時、発注をした次の日にはもう届いた。スピードは非常に速かったのだが、受けとった後に問題が発生したため、すぐに返品連絡をしたという。しかし1週間経っても誰も製品を受け取りに来ず、しかもネット上ではこの取引記録は毎日更新されており、そこには”家が留守だった”とコメントされていたという。

桂さんによれば彼女の家には毎日必ず誰かおり、ただ誰も品物を受け取りに来ないだけだったのだ。そしてクレームを入れて初めてようやく人が取りに来たという。このネットショッピングの経験を経て、桂さんは製品を買うのは簡単だが返品が大変なことを思い知ったという。

Jingdongアフターサービスのトラブル2:謝さんのケース

同じく消費者の謝さん(女性)も、ネットショッピングで忘れられない事件があったという。

謝さんによれば、彼女はある時Jingdongで大型のフィットネス器具を購入した。大型だったので購入した後自分で組み立てなければならなかったが、組立に慣れていない人にとっては大型の商品の組立は簡単なことではない。最初は頻繁にショップに電話をかけてどのように組み立てたら良いのか電話をかけたが、サポートの反応が非常に遅く、1週間経って組立は半分くらいしか終わっていなかった。その後もう半分を組み立てる時に商品に問題があることを発見したが、既に7日間のクーリングオフ期間を過ぎてしまっていた。

謝さんがショップに返品を要求した時、ショップの態度はがらっと変わったという。”返品を申し立てたら、ショップは私を疎ましく感じるようになってきたみたいで、うまく組み立てられないなら大きなハンマーでぶっ叩いて入れたらいいなんて言うんですよ。呆れて言葉を失ったわ。”

“1週間が過ぎて、返品を申し立てても彼らはのらりくらりとかわすだけ。あとでJingdongが介入してきたの。でも運送費は私持ちだったのよ。その理由として、商品が届いた後、’彼ら自身’が検査をして品質に問題がなければ、運送費を返せないというのよ”。謝さんは、その品質検査を’彼ら自身’がやるのであれば、保証の公平性が保つのは難しいという。

事実、謝さんがその後受け取った結果は、やはりショップは製品の品質問題ではないという回答で、240元(約4,500円)もかかった運送費は払えないということだった。

Tmall(天猫)のアフターサービスのトラブル:胡さんのケース

Alibaba運営のBtoCのECサイト”Tmall(天猫)”で消費者が摘発に協力しない理由が語られている、もう一人の消費者胡さん(女性)のケースを紹介しよう。

彼女はブランド物の服の大ファンだが、実際の店舗で販売されているブランド物の服はどれも高く、ネット上でこれらのブランドのフラッグシップ店を探していた。開いたページは全て100%本物で7日間クーリングオフをうたっていたが、買ったものは全て偽物だった。”私はGirdear(哥弟)という台湾のブランドが大好きで、Tmall(天猫、Alibabaが運営するBtoCのECサイト)上のGirdearのフラッグシップ店と書いているお店で代理購買をしました。ショップもこれが本物であることを保証するため、受け取ったら検品してくださいと書いてあったので、何着か買いました。どれもそんなに安くなかったんですよ、だいたい500〜600元(約9,380〜11,260円)くらいだった。でも手に入れてみたら、カシミヤのオーバーにはカシミヤなんか全く使われていなかったので、私は怒って返品しました”。

“ショップは消費者が時間を使ってまで自分の権益を守ろうとしないとふんでおおっぴらに偽物を売っているのかもしれないですね。消費者は返品するといえば、簡単に返品することができます。消費者は数十元(数百円)の郵送費を負担するだけでいいのです”。もし買ったものがショップの記述と異なっていても、消費者権益を守るために彼らを偽物業者と訴えて費用と時間を無駄にするよりも、彼らにとっては大した損失にならず、高くついても返品に要する郵送費くらいなもの、というわけで消費者は特に声を上げないというわけだ。

ECサイトの信用度についての消費者の評価

消費者にとってのECサイトの信用度については、前出の謝さんは、Jindongの自営で売っている製品の信用度が高いと判断しているようだ。またTmallのいくつかのブランドフラッグシップ店は比較的信用できるが、Taobaoのショップの信用度についてはコメントを控えた。

于さん(男性)はAlibabaの決済システムAlipay(支付宝)を10年で30数万元(約500万円)使用しているが、これまでネットショッピングで不愉快な思い出はあるが、中国のECサイトの現在の問題は、ECサイトで売られている商品は基本的に偽物、コピー品が多いことだと指摘する。偽物の売れ行きがいい理由はやはり価格が安いこと、それが中国人の需要に合致しているからではないかという。しかしこのようなことが長く続けば、中国の製造業の付加価値の向上にはいいことは何もないと于さんは警告している。

専門家の意見:監督管理こそが偽物をなくすための手段

中国デジタルビジネス研究センターのモニタリングデータによれば、2014年後半に工商総局が全システムを使って”2014年紅盾網剣特別プロジェクト”を展開してネット上で検査を行い、ネットショップを133万店舗(延べ)調査、ネットショップの経営者への実地調査は19万人(延べ)、違法商品情報の削除は3.6万件、命令によって改善させたサイトが1.4万件、問題により閉鎖させたサイトが2,201件、違法として処罰した案件が7,746件、罰金や没収は1.13億元(約21億円)にのぼったという(注:中国全体のECの規模や、全体的に調べたにしてはあまりに少なくないだろうか?)。

2014年4月、米国の偽物商品追跡サイトNetNamesは、Tabaoで販売されている商品のうち、20〜80%は”偽物”だとしている。(注:あまりに幅が広すぎて私でも適当に言えそうな数字だ。。)

実際、Taobaoだけが偽物を扱っているわけではなく、JingdongやJumei(聚美)などのECサイトのサードパーティプラットフォームでも偽物を販売していたことが暴露されたことがあった。

そんな背景がある中で、専門家の意見はどうなっているのだろうか。

米ミシガン州立大学林宸助教授の分析

中国のECで偽物が横行している現状について、米国ミシガン州立大学のマーケティング学部助教授の林宸は、中国のECがうまくいっているのは彼らのプラットフォームのビジネスモデルややり方が優れているわけではなく、実体経済が弱く、税金が重すぎ、また伝統産業のオンライン化が遅れているせいだと指摘する。
また中小のショップにとって、アクセスを稼ぐのは非常に難しいのも現実だ。林宸は、インターネットは商品を検索するコストを下げることにもなるが、一方ではそのコストが無限に高くなってしまうこともあると指摘する。研究によれば、95%のユーザは検索結果の3ページまでアクセスしないからだ。
Taobaoのショップは初期はブランド知名度がなく、ブランドを築いていくプロセスが欠けているため、結局最も原始的な血で血を洗うやり方。。低価格競争をするしかなくなるのだという。

林宸はECプラットフォームのようなビジネスモデルでは、アクセス数がショップの命綱だが、初期段階のブランドにとっては低価格によって安定したアクセスを稼ぐというやり方をやむなく選ぶしかなく、これこそがショップが偽物を売る原因となっていると分析している。

弁護士や研究者たちの分析:行政による管理監督や早急な法整備が必要

遼寧省亜太弁護士事務所の董毅智弁護士の分析によると、ショップ本体のビジネス理念と取引プラットフォームの管理規則の2つが規範化されていない状況では、行政と監督管理の”見えざる手”が特に重要となってくるという。

中国電子ビジネス研究センター主任の曹磊は、中国の監督管理体制は特殊で、地方に属した管理方法にもともと大きな制限があり、クレーム管理などは過去十数年特にいい解決方法がないと指摘し、工商総局はサードパーティのネットワーク取引プラットフォームの全国監督管理システムを構築してこの問題を解決し、ネットショッピングのクレームが地域や部門を超えた管理ができるようにしなければならないという。

曹磊はネットワーク上での偽物の販売を撲滅するには、国家が関連の規定を制定すべきで、ECプラットフォーム上のショップはプラットフォームだけではなく工商局にも記録を残すようにするといったような、プラットフォームの”家庭法”による記録を全国の”国家の法”の記録にするというやり方を提案している。そうすることで、ショップも違法なことをする”コスト”がぐっと高まるからだ。

前出の董毅智は、ECの”ブラックリスト”制度を行政と監督管理の”見えざる手”の手法として提案している。”ブラックリスト”制度は公示制度として消費者に容易に識別できるようにすること、そして”立入禁止”制度として、ブラックリストに入っている人や企業はネットショップに参加できないようにすること。そうすることで制度が充実し、現実的にも非常に骨太な対策となるのではないかとしている。

ただ、“ブラックリスト”の初志と理想は素晴らしいものだが、実際に実施し、また目標通りの効果を上げるには、机上の空論だけでは実現しないだろう

北京弈明弁護士事務所の李廣興弁護士は、ECの正規品率は様々な原因から成り立っていると指摘する。ECの表面だけではなく、オンライン店舗も監督管理を強化するだけではなく、ECのバックエンドの管理監督も無視できないという。実は多くの問題がECのバックエンドでの発送や物流段階で発生しているため、ECのバックエンドの監督管理に関してもできるだけ早い規範化と立法をすべきだとしている。

画蛇添足

オンラインでなくとも町中に偽物が溢れかえる中国。私から見ればその中国の偽物溢れる現実社会がそのままオンラインに反映されてしまったような気もしないでもない。世界中誰だって安いものを求めたい気持ちは一緒だが、特に値切ってまで安く買おうとする中国人にはその傾向が強いのだ。

ただ、オンラインだろうがなかろうが、偽物がなければ中国経済が成り立たないのも事実。それは過去発展途上の日本にも存在した問題だ。政府としても、ECプラットフォームとしても痛し痒しなのだ(だからといって存在してもいいのかというのとは別問題)。

個人的にも、中国政府が偽物撲滅=知的財産権保護に動くべきというのには賛成だ。本気で動けない背景があるにせよ、ECやEC上で商売をやっている側から自主規制しろといわれても、競争があるぶんすぐになくすのは難しいからだ。ただし、急激な変化を求めても社会不安を生むだろう。なぜならECによって中国にはチャイナ・ドリームといわれるゴールドラッシュと、とてつもない数の雇用が生まれているからだ。もちろんECだけではなく、上流の製造業から下流の物流まで関連業界全てにおいてだ。Alibabaが超強気の政府に対して逆にモノ申すことができるのはその自負があるからだろう(少なくとも、ジャック・マーには)。

もちろん、このような偽物渦巻く社会という不健全な状況が長く続くことは、中国全体の将来にとって決していいことではないのは間違いない。上記の消費者于さんが指摘した通り、このままでは中国の製造業にとって商品に付加価値をつけることが難しくなる。人件費がますます上昇している中国としては頭が痛い問題だ。
そしてもちろんECプラットフォーム運営側も、政府と協力しながら消費者のことをもっと守る方向で動いていかないと、いずれは顧客を失うことになるだろう。

消費者による過剰な”安物”への需要、行政の監督の甘さ、製造・販売・購入者の全てのモラルの欠如、システムの未熟さ、、多くの問題が複雑に絡まり合って現在の中国の歪んだ社会構造ができあがっているのではないだろうか。そしてその歪んた構造がネット上のECにも鏡のように(或いは余計に難しい問題となって)現れたのではないだろうか。

問題は根深い。絡まった紐を解くように、1つ1つ少しずつ改善していくしかない。

記事は以上。

(出典元:証券日報

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