米Apple、中国の配車サービス「滴滴出行」に10億ドルも出資した理由とは

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ロイター社によると、米Appleが中国最大の配車サービス「滴滴出行」に10億ドル出資したという。

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「滴滴出行」とは

「滴滴出行」は中国語でdidi chuxing(ディーディー チューシン)と読む、北京小桔科技有限公司が展開する配車サービスのことだ。

私個人も中国では頻繁に使うアプリだ。メディアでは「中国版Uber」という表現をされているが、中国限定ではあるが現在は断然Uberよりも高機能で、すさまじく便利なアプリになっているので、Uberと並列で論じるのは正直「滴滴出行」に失礼なほどだ。

もともと中国にはタクシー配車アプリとして、以前はテンセントが主に出資していた「滴滴打车」とアリババが主に出資していた「快的打车」の2つがあり、それぞれがすさまじい勢いでお金を利用者(車の利用者とサービス提供側のタクシー側)に配りまくって普及を進めようとした結果、どちらも儲からないという不毛な泥仕合となってしまった。その後、その状況に決着をつけるかのように2015年2月14日にこの2つのサービスが合併して「滴滴快的」となった。

その後2015年12月に30億ドルの融資を受け、サービス名称が現在の「滴滴出行」となった。

もともと中国で殆どの配車アプリのシェアを分け合っていた2つのサービスが合わさることで、現在は1日あたりのサービス利用回数が1100万回、累計で14億回利用され、そして中国の民間配車サービスの中では87%のシェアがある圧倒的シェアを持ったサービスとなっている(残りは中国では出遅れてしまっているUber=優步)。

現在ではタクシーだけでなく、車を持っている一般人も、タクシー業の許可がなかったりタクシー会社に属していなくてもこのサービスを通じてお客を載せることができるようになる上に、乗り合いや運転代行サービスの取り次ぎなども行い、莫大な雇用を生み出しているといわれている。

 

「滴滴出行」の優れたところ

「滴滴出行」のすごさはサービス提供側(運転手)と、サービス利用側(ユーザ)を評価し、それを公開していることだ。もともと他人を信用していない社会の中国では、なんとかしてお互い安心できる相手を選びたい、という心情をぐっと掴んだサービスになっているのだ(実際それは中国だけではなくUberでも成功していることから世界共通の感情であることが証明されたわけだが)。

従来の中国のタクシー事情としては、上海などではタクシーの色(タクシー会社)によって運転手の質を選んだり、車外のルーフトップに乗っているタクシー灯や車内に提示されている運転手証などに、三つ星による評価があるなどの判別方法もあったが、正直いったいどんな基準でつけられているのかよくわからなかったし、車を複数の人間で乗り回していることもあって運転手証とは全然違う人が運転していることもあったり、メーターを改造している人もいたり、ともかく乗客側としてはタクシーが捕まるまで、また乗ってからもどんな運転手なのかわからず不安になることが多かった。その上トラブルが起こってもタクシー会社は基本的に運転手の味方をするため、会社にその運転手のクレームを入れても意味がないということまで起こっていた。

そして今度は逆に運転手側としてもどんな乗客が乗ってくるのか不安もあった。車上で暴れたり、無理難題を言われたり、予約されても別のタクシーが来てしまうとそっちに先に乗られてしまうなどの問題も発生していたためだ。

これらの両方の問題を一気に解決したのが「滴滴出行」。運転手に何らかのおかしい行動が見られた場合は乗客側は運転手に低い評価をつけることができ、それが重なるとその運転手は「滴滴出行」から客を割り振られなくなる。もちろん逆にいい評価をつけられると、優先的に客を回してもらいやすくなる。それが数字でわかるので非常に公平なシステムだ。

そして乗客側も呼んだ車に乗らず別の車に乗ってしまうなど約束を守らなかった場合、一定時間利用できなくなったりするペナルティが発生する。車上で何らかの問題があったら、運転手はその乗客に低い評価を与えることもできる。乗客側も、評価が高ければ高いほど車を優先して回してもらいやすくなる。まさに目に見える信用構築システムなのだ。

お互い乗る前から安心して利用できる、しかもメーターがなくてもGPSがあるから、乗客が間違いなく呼んだ車に乗ったかもわかるし、その都市のタクシーの基準で料金もアプリが計算してくれるのだからどちらにとっても公平というわけだ。

ちなみに「滴滴出行」の収益は、サービス提供側(運転手)から約20%の手数料をとることで成り立っている。

 

「滴滴出行」への巨額投資、Appleの狙いとは

さて、そんな破竹の勢いの「滴滴出行」に10億ドルという中国企業に対して会社史上最大の巨額投資をし、大株主となったApple。その狙いとは一体何だろうか。

Apple Car

Appleとクルマ、といえばすぐに思いつくのはまずは「Apple Car」だろう。極秘EV開発プロジェクトとされる「Project Titan」は、一切Apple公式からコメントや見解は出ていないものの、同社の人材雇用や引き抜き、そして自動車業界・EV業界からの証言によってその存在がほぼ確実視されている。

「滴滴出行」に出資することで、もしかしたらこのシステムを使ってApple Carを実験的に投入するつもりかもしれないし、同社が持つビッグデータをApple Carの開発に役立てようというのかもしれない。いずれにせよ、Apple+クルマといえばApple Carだ。ほんと、そのままで申し訳ない。。

 

Apple Pay

中国には既にモバイル決済サービスとしてAlipay(アリペイ)とTencent Pay(微信支付)の圧倒的な2強が存在し、最近中国でサービスを開始したApple PayはAppleのデバイスでないと支払いができないという制限があることや(上記の既存2つのサービスにはデバイスやOSの制限はない)、使えるサービスや店舗が少ない(ユニオンペイ=銀聯のQuickPassが必要だがそれが普及していない)ことから全く普及が進んでいないのが現状だ。

それを「滴滴出行」で使えるようにできれば、普及率はこれまでより上昇するのは間違いない。ただし、iPhoneを使っている人に限ること、また現時点では運転手など支払いを受ける側に特殊な機械がないと支払いは受けられないなどハードルは高い。今後Apple Payもデバイス同士での支払いに対応するという情報もあるが、それでもサービス提供側(運転手側)がiPhoneを使っていなければならないというハードルは残る。

正直実感として中国でタクシーの運転手をやっている人は恐らく90%以上がAndroidデバイスを使用している。iPhoneを買えるような層は運転手などやらないのだ。。ということで今回の「滴滴出行」がApple Payの爆発的な普及に一役買うかどうかについては疑問が残る。

 

中国市場の研究と事業の多角化

ロイター社の報道では、Appleのティム・クックCEOが「今回の投資にはいくつかの戦略的な理由があり、その中には中国市場の特定のセグメントについて学ぶことも含まれている」「もちろん大きなリターンをもたらしてくれるとも信じている」と語ったということで、これは中国でいきなりAppleのコンテンツサービスだったiTunes ビデオ・映画コンテンツとiBooksなどの出版収入が政府の介入で完全に止まってしまったこと、またハードウェア販売低迷による中国市場での収入源を補うためという穿った見方もできる。

Appleは株価も低迷しており、従来とは別の方面でのサービス強化と更に中国市場を深く研究することから別収入を増やそうとしているのは間違いないだろう。そしてどうやらAppleは物流・輸送の分野にも乗り出そうとしているようだ。「滴滴出行」はこれまで人間の輸送で多くの経験を積み重ねてきたため、今後物流・輸送サービスに乗り出すことも考えられ、高効率で高収益のサービスを今後Appleと滴滴出行が中国で提供し、そのノウハウを使って世界的にサービスを展開していく可能性もある。

もちろん、Appleとしては「滴滴出行」が持つ一般消費者顧客と共に、企業顧客のリソースを手に入れたいという目的もあったかもしれないし、中国企業に大きく投資しているという理由から中国政府との交渉を有利に進めたいという思惑もあったのかもしれない。

記事は以上。

(記事情報元:Reuters

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