ジョニー・アイブ:イノベーションは技術が追いつくのを辛抱強く待つ必要がある

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世界で、非常に多くの人がApple製品の”デザイン”に惹かれてその製品を購入しているのは周知の事実です。確かにApple製品は一種の他のメーカーの製品にはない気品に溢れています。他のメーカーは形だけは真似してきていますが、最終的にAppleの気品までは模倣することはできていません。そしてApple製品にこのような独特な気品を作り出している最大の功労者といえば、Appleファンにとってはもう言うまでもないかもしれませんが、スティーブ・ジョブズのApple復帰後から現在までAppleのデザインのトップをつとめるジョニー・アイブ(Jony Ive)に他なりません。

jony-ive_techfest

先月発表された【iPhone X】は、Appleのスマートフォン有史以来最大の変革があったといっても過言ではありません。まず全面ディスプレイの導入によって、最新のテクノロジーをその一身に集めています。そして価格もかつてないほど高いのもあり、更に発売日も11月になっていますが、それでも大量のAppleファン達がその登場を待っているほどです。今年はiPhone販売開始から10周年を迎え、【iPhone X】の意義は平凡なものではないといえます。

iPhone X

【iPhone X】のホームボタンと上側のベゼルを廃止した大幅なデザイン変更を見たとき、多くの人がまずジョニー・アイブのことを頭に浮かべたでしょう。ジョニー・アイブは既にデザイン業務の実務を部下に任せて一線を退いていて、主要な製品デザインからも手を引いているといわれています。また自分の好きな物のデザインに没頭しているともいわれています。しかしジョニー・アイブのデザイン哲学が現在のAppleのデザインチームに深い影響を与えているのは間違いなく、現在でもジョニー・アイブの一挙手一投足、そして発言は外界から大きな注目を集めています。

先日、ジョニー・アイブはニューヨークのマンハッタンで行われた≪The New Yorker≫のTechFestで、The New Yorkerの編集者David Remnick氏と共に‘The Shape of Things to Come’という標題でディスカッションに参加しました。そこでアイブ氏はスティーブ・ジョブズのこと、そしてiPhoneのこと、更にAppleとApple製品の将来について語りました。スティーブ・ジョブズ亡き今、Appleの”ハート”ともいえるこの人物の口から、具体的に何が語られたのでしょうか?ディスカッションの内容を短くまとめてご紹介します。

 

10年前のiPhoneについて

AppleはなぜiPhoneを作ったのでしょうか?これは多くの人がこれまでさんざん議論してきた問題でもあります。この質問には多くの答えがあるでしょうが、ジョニー・アイブの回答はより興味深いものです。それは、”嫌悪”の感情から生まれたというのです。「私たちがiPhoneを開発しているときの、私たちを動かしている動機のうち重要な部分を占めていたのは、自分の手の上の携帯電話が嫌いだということだったのです」とジョニー・アイブは語っています。

アイブにとって、これまでの携帯電話は手の触感からユーザ体験から外観デザインまで、彼に言わせればどうしようもないものばかりだったといいます。「コミュニケーションは非常に重要なことで、通常は変革をもたらす前奏となるものです。しかしあれらの携帯電話は風味に欠け、適当に大量に作られていました。私からみれば、あれらには全く心が込められておらず、何も追求されていないものに見えました。悪口を言わないのが難しいくらいだったのです。私は、私たちはこのことに真面目に向き合った方がいいと考えました」。

このような理念と動機があったからこそ、私たちは今のiPhoneや他のApple製品を目にしているのかもしれません。Apple製品は他社製品よりも非常に価格が高いのですが、しかし間違いなく非常に真面目に考え抜かれて作られたもので、その品質とユーザ体験は、ユーザに安心感を与えています。

アイブは更に、インスピレーションには多くの誘因があると語っていて、単独に作用するものではないとしています。しかし往々にして最も重要な、そして自分をクレイジーにさせるものだったりするといいます。これらの誘因によって、ジョニー・アイブは、もっといい解決方法はないか、と思考するのだそうです。そして、iPhone=携帯電話もそうでした。Appleは往々にして確かにそのような自信と確信をもって、自身の製品が最高のものだとしています。では、ジョニー・アイブやAppleの人達が気に入らないと感じているものは何でしょうか?

 

スティーブ・ジョブズが教えてくれた最も貴重なものとは

かのスティーブ・ジョブズと心を開いて話せる友人として、二人の間で過去に起こったことや話し合われたことが、ジョニー・アイブが最も多く他人に聞かれる質問の1つといえるでしょう。特に今回iPhoneの新しい変革がもたらされた重要な時期に、人々はやはりあのジョブズを思い出すのです。

ジョニー・アイブは、スティーブ・ジョブズが彼に教えた最も貴重なことは、1つのことに集中することだったそうです。何かに集中することは、自分の好きな物事に集中することだけではなく、その”集中”とは、これまで自分が情熱をもって打ち込んでいたことを放棄し、精力を集中して”もっとやらなければいけないこと”をすることだとしています。

「いわゆる集中の芸術とは。。何かあなたが情熱をもってはまっていたとしても。。集中とはそれを無視して、それをどこかに放っておくことです。多くの場合、大きな犠牲を払うことになりますが、スティーブはその方面で明らかに優秀でした」とアイブは振り返ります。そしてそれらを”Noと言う芸術”とまとめています。ジョブズはよくアイブに、いつも”ノー”とばかり言っていていいものだろうか、と語っていたそうです。アイブはジョブズを喜ばせるためにそれに肯定的な回答をしたとしても、実際ジョブズは興味を持たないものについてもっと”ノー”と言いたいことを素直に認めていたそうです。

アイブ自身さえ自分が興味を持っていることを完全に放棄することはできなかったので、ジョブズも時には非常に悩んでもがいていたはずだと推測していますが、ジョブズが所謂”集中”することに関しては本当に最高峰に登り詰めていたことは間違いないとしています。

なぜアイブがそんなことを言えるかというと、アイブはジョブズと一緒にいたときの細かい情景を思い出したからです。ジョブズはかつてアイブに、デザイン部門のトップとして「全く効率が悪い」と面と向かって言ったことがあるというのです。当時はまだ90年代で、ジョブズはAppleが”要求に達していないレベル”の製品を大量にリリースしていると考えていました。ジョブズは或いは、アイブが”自分が作りたいものばかりに多くの時間をかけすぎている”と考えていたのかもしれません。

ちなみにジョニー・アイブが本気で次にデザインしたいと思っているのは、かなり意外なものです。

ジョブズの言葉はアイブにとっては厳しいものでした。しかしアイブは気にしませんでした。なぜなら当時の会社の状況はジョブズによる批判の言葉よりももっと酷い状態だったからです。「私はこの会社に深い感情を注いできました。しかし会社が取るに足らないものになってきたことが、私の心を引き裂いたのです」

 

未来を創造することは、テクノロジーの成熟を待つこと

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最後にアイブは、やはりよくされる質問に向き合わなければなりませんでした。Appleは将来的にまだイノベーションができるのか?という質問です。そしてそれに対しては、全く疑問の余地なく、アイブが出した答えは”Yes”でした。アイブはデザインチームがここ数年来、大量のテクノロジーの融合実験を行っていることを明かしています。もちろんそれらがどんなテクノロジーなのか、具体的なことはアイブは口にしませんでしたが、それらはアイブ自身も興奮してやまないようなものだそうです。

実際、Appleは5年もの時間をかけて【iPhone X】を作り上げたそうです(特にFace IDの開発)。アイブは、このような製品を作るには我慢が必要だと強調しています。というのも、多くの製品やイノベーティブなアイデアは、テクノロジーが成熟しないと実現できないからです。

5年前から、Appleは全面ディスプレイのiPhoneを作ろうとしていました。しかし当時彼らが作り出したサンプルは大きくて重い代物だったのです。そして5年後、技術的な条件が整ってから、デザイナー達の心の中の構想がようやく人々が手に取れるレベルのスマートフォンに落とし込めたのです。「私たちには多くのアイデアがあります。私たちは技術が追いついてくるのを待っているんです」とアイブは語ります。

私たちはAppleがまた奇跡を起こし、魔法のように大勢の人を驚かせるような新製品をリリースすることを望んでいます。しかしアイブはそれは不可能だといいます。なぜなら、もし新しいものを作ろうとしたら、必ずこのようなものは誰も作ったことがなかったかどうか、よく考えなくてはならないから、というのです。そしてそれは誰もが考えたことがなかったわけではないとしても、何十個もの問題を抱えて短時間では克服できないものかもしれません。このような思考を巡らす過程は非常に重要ですが、とても心も体も疲れるものなのだそうです。

iPhoneがここまで多くの人に好かれ、そして多くの人が繋がっていることを、アイブは非常に嬉しく感じているそうです。しかしアイブはそれとは逆に、iPhoneのようなデバイスが濫用されていることも指摘します。現代人はスマートフォンから離れられず、一分一秒たりとも使わない時間がないという人もいます。アイブはこのような状態はよくないと考えており、もっとよくバランスをとるべきだとしています。もしかしたら、この言葉がAppleの次の製品のヒントになるかもしれません(アイブのデザインの考え方では、強い需要や現状の不満からそれを解決・克服する製品を作るというのが原動力になるわけですから)。

ただ、個人的にはiPhoneの1年に1回という発表ペースが、逆にAppleを苦しめているような気もします。

記事は以上です。

(記事情報元:MacRumors9to5Mac

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