ウォルト・ディズニー・カンパニー(以下ディズニー)の会長兼CEOであるボブ・アイガー(Bob Iger)氏が、週末にAppleの取締役会からの辞任を発表しました。これは、両社が非常に競争の激しいビデオストリーミング事業で真っ向から競合することになる2ヶ月前の動きということになりそうです。米国証券取引委員会の規定違反になりそうなところを回避した形になったといえます。
9月10日付で既に辞任
ボブ・アイガーCEOの辞任は、米国証券取引委員会への提出書類で明らかにされ、9月10日に既に辞任していたことがわかっています。アイガーCEOはAppleのコーポレートガバナンス委員会の議長を勤めており、辞任前に同社の報酬委員会にも出席していました。
今年3月頃から辞任(解任)の噂はあった
今年3月に、ディズニーとAppleがそれぞれ競合する関係となるストリーミングサービスを開始する計画が最終決定された直後に、ボブ・アイガー氏はAppleの取締役から追放されるのではないかという憶測は既に浮上していました。ちなみにAppleは先日の新製品発表スペシャルイベントでも発表されたとおり、11月1日から独自コンテンツを含むストリーミング動画サービスのApple TV+の提供を始めますが、非常にタイミングがいいことに、その2週間以内の11月12日にディズニーもDisney+の提供を開始する予定です。
「私はAppleでティム・クック(Tim Cook)CEOのチームのために、そして私の仲間の理事会メンバーのために最大限の敬意を持って、8年間のAppleの委員を務めたことは特別な特権だったと考えています」とアイガー氏はCNBCが報道した声明の中で述べています。「Appleは、その製品と従業員の品質と完全性で知られる世界で最も賞賛されている企業の1つであり、当社の取締役会の一員を務められたことに感謝しています。」
アイガー氏はかつて、4月頃のインタビューで、Appleの取締役から退任するという噂について、自身がAppleに残っていれば2社の利益相反はないと示唆していました。
「明らかに、取締役会の一員としてのAppleの株主に対する受託者責任を念頭に置いています」とアイガー氏は当時のインタビューで語っています。「Appleの取締役会であるテーマについて議論するとき、私は自分自身を”再利用”するように注意します。また、Appleの取締役会メンバーが何をするかに合わせて、本質的に私がやる可能性がないことまで、また何もしていないことを確認することについてまで、絶えず対話をしています。 」
時代は変わる。。2社は利益相反の可能性が高い関係へ
しかし、その状況は半年後の今となっては明らかに変化しています。
ディズニーは、おそらく「Disney+」サービスと共に立ち上がる専用アプリを通じて、Apple TV(ハードウェア)・iPhone・iPad・Macを含むAppleハードウェアの所有者が「Disney+」を利用できるようにする計画だと述べていました。Apple TV+の一ジャンルとしてではなく、独立したアプリやサービスとして、いうことは、やはり利益相反ととられてもしかたがありません。
Appleとディズニーの長期間の蜜月関係は、アイガー氏がいなければ実現できなかった
Appleとディズニーの蜜月は、かつてAppleの共同創業者スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)と親密な仲だったボブ・アイガー氏がいたからこそ実現してきたものでした。アイガー氏は2011年にAppleの取締役に就任しました。スティーブ・ジョブズはかつて自らが所有していたピクサースタジオをディズニーに買収されたことがありますが、当時のディズニーのマイケル・アイズナーCEOとジョブズの関係が悪かったのを、アイガー氏が再構築したとされています。また、アイガー氏はiTunesストアの中でディズニーとその子会社が所有するコンテンツを販売するための取引や交渉において極めて重要な役割を果たしてきました。
そしてディズニーとAppleはアイガーがAppleの取締役に就任してから数年、非常に緊密な関係を築いてきたのです。上記のコンテンツの配信・販売契約だけではなく、例えばApple Watchのウォッチフェイスにミッキーマウスやミニーマウスなどの特別なアニメーションを使用するなど、OSプラットフォームにまでディズニーのコンテンツが入るようになったのです。
ストリーミング動画サービスをそれぞれ独立して立ち上げることで利益相反に。。
ただ、今回ディズニーが独自のアプリでコンテンツをストリーミング動画配信することになったため、利益相反の可能性が高まり、やはり袂を分かつ必要が出てきたということになりそうです。Apple Watchのウォッチフェイスのミッキーやミニーはなくなってしまうのでしょうか。。それよりも、スティーブ・ジョブズが世界的に有名になったのも、彼のピクサースタジオがディズニーに買収されることで、個人としてディズニーの最大株主になることで億万長者となったこともあり、それが最終的に彼のもう1つの企業NeXTがAppleに買収されることでAppleへの返り咲きへの布石となったことを考えると、ここでその関係が終焉となるのはちょっと寂しい感じがしますね。
かつて利益相反関係となることでAppleの取締役を解任された人がもう一人。。
ちなみに過去10年間で、利益相反の可能性があるためAppleの取締役を辞任せざるを得なくなった取締役は、ボブ・アイガー氏が初めてではなく、2人目となります。1人目はかの有名なGoogleの共同創業者で前CEOだったエリック・シュミット(Eric Schmidt)で、2009年にAppleの全ての職務を解かれ、去りました。
なぜなら本来は検索エンジンの巨人だったGoogleが、AndroidというモバイルOSをリリースし、iPhoneの市場競争相手として解き放ってしまったからでした。当時スティーブ・ジョブズはAndroidはiOSのコピーと考えていて、Googleと全面戦争をして徹底的に潰す、と随分お怒りモードだったようです。今回のアイガー氏とApple取締役会や執行役員達との関係については、アイガー氏は現在もティム・クックCEOを尊敬しているなどと発言していますが、実際のところどうだったのかについては定かではありません。
ちょっと寂しくなるApple
いずれにせよ、スティーブ・ジョブズ時代にジョブズ本人と仲がよかった人達が今後ますますAppleを離れていくことになりそうです。最近のジョニー・アイブCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)しかり、、今や、発表イベントで残っているのはティム・クックCEO以外ではフィル・シラー(Phil Schiller)SVPくらいになってしまいましたね。
Appleとしても今後もディズニーのコンテンツを販売や配信していくとは思いますが、だんだんその親密度もうすれていくのかもしれません。サービス部門の成長が続いているAppleですが、本来はハードウェアメーカーなわけで、足りないものはやはりキラー・コンテンツです。ディズニーは最強のコンテンツだったと思いますが、今後それに替わるものが作れるか、或いは提携することができるかどうかがストリーミング配信サービスの存亡を決めるといえそうです。
記事は以上です。
(記事情報元:Apple Insider)