AppleのパッケージエンジニアでシニアマネージャーのMark Doutt氏は、米国特許商標庁(U.S. Patent Office、以下USPTO)が2016年12月に公開した”ピザのコンテナ(Container)”の意匠(デザイン)特許発案者として記載されている。
発明特許と異なり、USPTOは意匠特許については適切な情報を全て公開するわけではない。というわけで、Appleの特許に特化して注目しているPatently Appleでも、数枚の画像を手に入れることしかできなかった。さて、最初デザインだけ見た人は、これが”ピザのコンテナ”=”ピザの持ち帰り用ケース”のデザインだとすぐに想像できるだろうか?
Wiredが紹介
Appleから宅配ピザ用ケースがリリースされるなんて誰もが夢にも思っていなかっただろう。しかしこれは実際にWiredマガジンが昨日、文章と共に紹介されている事実なのだ(英語で非常に長いが)。
Wiredには、”Appleからは、その完全性が全従業員にインスパイアし、それが彼らが作っている製品にも影響する、という回答を得られた。職場環境そのものがエンジニアにモチベーションを与え、デザイナーや社内のカフェのマネージャーにさえ品質とイノベーションを更に高いレベルを熱望させるのだと。Apple Park(Appleの新本社社屋)のマエストロ、Francesco Longoni(今回のデザイン特許の発案者として記載されている)は、持ち帰ったピザがベチャッとしないような箱のデザイン特許を取得してAppleの役に立ったのだ”と書かれている。
Appleは実はこの宅配ピザ用ケースの意匠特許には社名を出していない
Wiredには以上のように書かれているが、実際のこの”CONTAINER”の意匠特許(2012年、特許番号:20120024859)の原本を見てみると、発案者の名義には一切Appleの会社名は出てこない。
そこには冒頭で紹介したAppleのパッケージ担当シニアマネージャーのMark Doutt氏と、直前に紹介したApple Park内カフェのマエストロとされるFrancesco Longoni氏の2人の名前が記されている。なお、この意匠特許は2010年に出願されている。
小龍的にはこう思った
日本の製造業の従業員による改善提案を思い出した
私は以前、10年以上中国で製造業の調達や委託生産先の生産管理・品質指導などを行っていた。日本の会社だったので、日本で研修を受けたりして、一通り(もちろん触りだけだが)日本のものづくりについて勉強させてもらった。
その中で、どの工場も従業員の工員レベルまでが作業改善提案を出していて、それが工場内に掲示されていた。そしてその作業改善によって何秒効率が上がり、いくら貢献した、などという評価もされていた。それが工員の評価にまっすぐ繋がっていたかどうかはわからないが、いい提案をした工員は定例会議などで表彰され、金一封をもらったりしていた。
Appleの今回の”ピザの持ち帰り用ケース”についても、恐らく社内カフェのマエストロのLongoni氏がピザを職場に持って帰るとべちゃっとしてしまうのでなんとかならないか、という意見をくみ上げ、社内のパッケージデザインエンジニアのDoutt氏と一緒にデザインを考えて、そしてそれを更に意匠特許申請したのでは、と想像できる。費用もかかる上に時間もかかるが、第三者による認証をもらう形で環境をよくしていこうという部門を超えた取り組みがあったのではないだろうか。
この”ピザケース”はAppleがまだスティーブ・ジョブズCEO時代に特許申請。今のティム・クックCEO体制ではこんなことはできるのだろうか
Appleがこの意匠特許申請に組織的に関与したかどうかはわからないが、特許申請のための資金は出したかもしれない。上記の通り、Wiredの取材にも答えているということは公認の事実ではあるようだ。こんなことができる会社ってなかなか素敵じゃないだろうか。
スティーブ・ジョブズCEO時代のAppleは、製品のためであれば、どんな部門の人でも他の部門への越権行為や失敗をしたとしても、自分が責任を持つ覚悟で臨めば認められたということで、大勢が積極的に製品に関わっている意識で意見を出したり時間を使ったようだが、ティム・クックCEOになってからは、自分に与えられた仕事にさえ集中していればいい、他の仕事に手や口を出してはいけない、そして失敗してはいけないという社風に変わってしまったという。このピザの持ち帰り用ケースの意匠特許申請も2010年、まだスティーブ・ジョブズCEO時代のものだ(ジョブズの体調が悪くなって、CEOではあったが重要な決定以外はクックCOO(当時)に任せる移行の過渡期ではあったが)。
今のティム・クックCEO体制の社風では、こんなちょっと素敵な特許申請は難しいのではないだろうか?
記事は以上。
(記事情報元:Patently Apple、Wired)