博物館レベル!?Appleの初代iPhoneプロトタイプEVT用の赤い巨大な基板がリーク

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The Vergeの独占記事によると、Appleの初代iPhone(iPhone 2G)プロトタイプテスト用の巨大基板があったことが明らかになりました。

Appleは2007年1月9日に初めて初代iPhoneを公に向けてリリース発表しましたが、その前の2年半を実機の開発に費やしていました。その段階ではiPhoneという名称は存在せず、社内でも「M68」や「Purple 2」と呼ばれていて、その開発プロジェクト自体も「Project Purple」と呼ばれていて極秘扱いされていたことがこれまでの情報でも明らかになっています。

そして、今回リークされた巨大な基板のような、およそ完成形が想像できないようなデバイスでエンジニア達がテストを行っていたことから、個々の作業を担当するエンジニア達でさえ、最終的にはどのようなものが完成するかについては知り得なかったといわれています。

なお、今回この基板についてThe Vergeに対して単独リークをした匿名のTwitterアカウント、「theredm68」は現在制限された状態にあり、ツイートなども全てない状態になっています。Appleから何かがあったのかも?などという邪推もしてしまうところですが、いずれにせよ、この基板は世界で初めてリークされ、その重要性から、実際にコンピュータやスマートフォンの歴史に名前を刻むことになるでしょう。

Twitter redM68

さて、今回リークされた赤い基板、一見すると10年ほど前のコンピュータのマザーボードのようですが、細部は異なっています。この赤い基板は、いわゆるエンジニアリング検証テスト(EVT)用基板と呼ばれるもので、ソフトウェアや電波信号などの各部の動作テストを行うためのものでした。今回リークされた画像では、右下に初代iPhone用のスクリーンパネルが添付されていますが、実際にエンジニア達がテストしていたときにはそれさえなく、外部モニタに接続してテストされていたとみられ、エンジニア達はデザインの完成形を知ることができなかったそうです。

iPhone Prototype M68 EVT Motherboard

ちなみに、Appleはプロトタイプ用の基板には赤い色の基板を使い、青・緑やその他の色の基板は、実際の製品製造のために使う、という”色の区分け”をしているそうです。

基板そのものは、かつての10年以上前のPC用部品を使って組み立てられています。基板各部の役割については、The Vergeの記者、Will Joel氏によって描かれています。上が基板全体図、下が各機能です。

iPhone Prototype M68 EVT Motherboard

iPhone Prototype M68 EVT Motherboard

この基板にはありとあらゆるポートがあることがわかります。当時のコンピュータ用のマザーボードと違うのは、当時既にiPodに採用されていて、iPhoneではiPhone 4sまで採用された30pinドックコネクタや、SIMスロット、カメラ、Wi-FiやBluetooth接続用のアンテナなどがオンボードでついていることです。

iPhone Prototype M68 EVT Motherboard SIMスロット

メインのワイヤレスI/Oボードには、Intel、Infineon、CSR、Marvell、Skyworksのチップが搭載されていて、初代iPhoneに最終的に搭載されたワイヤレス用ボードと構成的には同じになっています。

iPhone Prototype M68 EVT Motherboard Radio Board

当時、AppleはiPhoneのために多くの企業と提携しなければならなかったことを表しています。他にも、いわゆる電話線用モジュラージャックのRJ11ポートもついていて、電話のテストなどは無線以外にもこちらで行われていた可能性もあります。今やApple Watchで手首で電話がかけられる時代にモジュラージャック?と思うかもしれませんが、10年ちょっと前はそんなに珍しいものでもなかったのです。

 

このEVT基板を扱うようなエンジニアは、Appleの各OSの基層・基盤となっているDarwinオペレーティングシステムを結果的にiPhoneに移植するための作業とテストを行っていました。DarwinはUnixベースのOSで、現在のAppleのmacOS、iOS、watchOS、tvOSそしてaudioOSのコアコンポーネントはこのDarwinで作られています。UnixベースのOSで、メーカーによって動作が保証されていて安定して動作するのはAppleのOSくらいかもしれません(しかも現在は無償です)。このDarwinの開発者のことを、Appleは「コアOSエンジニア」と呼んでいます。

この「コアOSエンジニア」達は、カーネル、ファイルシステム、デバイスドライバ、プロセッサアーキテクチャ、その他多数の重要な基層レベルのプラットフォーム構築作業を担当し、そして非常に重要なハードウェアとの接続のすべてが完璧に機能することをこの基板で確認した、ということになります。

今回のiPhoneプロトタイプ「M68」EVT用基板は、現在も実際に動作し、ディスプレイにAppleロゴを表示させることができます。それ以降については、コマンドラインでコマンド入力する形になっているようです。

iPhone_prototype_m68

この基板の真ん中に配置されているのが、iPhoneの心臓部とも呼べるアプリケーションプロセッサで、サムスンのK4X1G153として認識されています。またiPhone OSを実行するためのメインプロセッサとして、620MHzのARMプロセッサ(ARM1176JZF)とサムスンの積層メモリを使用しています。これらは、PoP(パッケージオンパッケージ)と呼ばれる集積方法で、底面にCPU、メモリは上面に配置されています。

iPhone Prototype M68 EVT Motherboard CPU PoP

そしてこれをOSストレージ用のサムスン 4GB NANDフラッシュメモリカード(K9HBG08U1M)とペアにして使用されています。この緑色のNANDモジュールは簡単に取り外しが可能で、エンジニア達はOSのバージョンを簡単にボード上で切り替えることができ、アップデートや変更後のテストも簡単に行えるようになっていたわけです。

iPhone Prototype M68 EVT Motherboard NAND Flash Memory

そして、その後初代iPhoneにも採用されたホームボタンはディスプレイの左側、そして電源ボタン(スリープボタン)や音量ボタンは左側に配置されています。ちなみにこの基板を30ピンコネクタを使って現在の母艦のiTunesに接続すると、復元可能状態にあるiPhoneとして認識されるということです。

iPhone Prototype M68 EVT Motherboard Homeボタン

またこのEVT検証用基板の各箇所には、ピンがついた白いコネクタが多く散りばめられています。これらのうち、小さいものは基層レベルのデバッグに使用されるJTAGコネクタと呼ばれるものです。エンジニア達は、プローブをこれらのコネクタに接続し、様々な信号や電圧を監視することで、重要なソフトウェアの変更が、最終的にハードウェアに悪影響を及ぼさないか確認することが可能となります。また、デバッグ信号をボードの様々な部分に行き渡らせるためのDIPスイッチもついています。

このようにシャーシに入っていない剥き出しの基板形状であることから、エンジニア達は簡単にプローブによって基板の各部にアクセスが容易になっているのが特徴です。

またスクリーンがなくても、この開発用ボードの側面にはビデオ出力とRCAコネクタがあって、外部ディスプレイに接続することも可能です。またステレオ音声ライン出力もあるため、ヘッドフォンのテストも可能です。またメインカメラもオンボードで搭載されていて、テストが可能になっています。そしてバッテリーをテストするために、かなり大きいスペースが用意されています。なお、バッテリーを接続しなくても、DCコネクタによって外部電源を使用することも可能になっています。また近接センサーテスト用の「Prox Flex」と書かれている部分をテスト用スペースとして残してあるのも特筆すべき点です。

初代iPhoneの開発プロジェクトは、前述の通り「Project Purple」と呼ばれていました。いわゆるApple社内の「iPhone開発委員会」のようなものだといえるでしょう。この委員会のメンバー達は、このようなプロトタイプのボードを複数使って、2006年から2007年の間、あらゆるテストを行っていたのではないかと推測されます。

ちなみにAppleは最近のiPhoneの開発には、上のような大きな基板は使用していないといわれています。Appleはその後iPhone 4用の小型基板をプロトタイプテスト用に使用していて、最近数年については大きい「セキュリティシールド」と呼ばれる巨大なケースを追加しています。社内においても新型iPhoneのデザインが秘密にされている間は、そのケースを使って最終的なハードウェアに接続することができるようになっています。Appleだけでなく、他のスマートフォンメーカーも、デザインを流出させないために、最終開発段階では同様に巨大なケースを使用することで、社内でも他にデザインが漏れないようにしているといわれています。とはいえ、やはり圧倒的にAppleの方が秘密主義で、他社の開発中の製品が漏れるのは日常茶飯事です。あらかじめ話題を呼ぶためにリークを小出しにしているという噂さえあります。

さて、このような偉大な製品の初期のプロトタイプというものは、現在毎日何億人もの人々が間違いなく最も日常で多くの時間を使い、ポケットから出し入れしている製品を作るために、膨大な作業が繰り返されていたことを思い起こさせます。今回のEVT用のマザーボードの流出は、既に初代iPhoneが発売されてから10年以上経ってから初めてのリークとなりましたが、このようなことは滅多にないことです。というわけで、これを欲しがる人は恐らく金に糸目をつけないことでしょう。もしこれをリークしたTwitterアカウントが応じれば、博物館行きか、またはオークションに出品されればかなりの高値で落札されることになるでしょう。

なお、初代iPhoneのデザインが使われたプロトタイプについては、これまでも複数リークしています。

記事は以上です。

(記事情報元:The Verge

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