Appleの共同創業者で前CEOのスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)がこの世を去り、前COOだったティム・クック(Tim Cook)がCEOを継いだ後、Appleはやはり少しずつ変化してきていると感じられないだろうか?Appleの元社員の中にもAppleには明らかな企業文化の変化がみられたと感じている人がいるようだ。
ジョブズ統治下のAppleでは職責を超えて製品をよくするための責任を負うことが奨励されていた
Bob Burrough氏もそのように感じている人の一人だ。Appleではソフトウェアエンジニアでマネージャーだった彼だが、彼がAppleに在籍していた時に所属していたチームは、iPhoneの開発に関わっていたという。彼は、ジョブズの統治下のAppleでは、会社は全ての従業員に対して、製品をよくするためであれば(職責範囲外であっても)責任を個人的に勇敢に負うことを奨励していたという。
「私たちは1つの目標に対して奮闘し、同じ一つの製品を開発していたのです。何かやらなければいけないことが発見されたら、私たちはみな積極的にそれに関わって解決していったのです」
iPod nanoの初期ロットの電源が入ってしまっていた件でも部門を超えて協力
Burrough氏は例を挙げている。当時彼はiPod nanoの開発に関わっていて、初ロットの製品が出荷される時に、彼はそのロットの中で2000台のデバイスの電源が入ったままになっていて、バッテリーを常に消費していることに気がついたという。
「私はまず卸売センターに連絡を取り、現在もまだ電源が入ったままのiPod nanoを見つけて電源をオフにするよう、そしてデバイスのバッテリーが満充電になっているか確認するように言いました。そうすることで、ユーザは新しいデバイスを手に入れた後すぐにそのデバイスを使えるようになるからです」
クックCEOになってからは、自分の仕事だけをこなしたほうがいい企業文化に
しかしBurrough氏は、クックがAppleのCEOになってから、このような企業文化ではなくなってしまったという。Burrough氏は、今ではAppleの従業員の誰もが自らが受け取った情報だけ確認し、自分が果たすべき仕事だけに没頭しているという。
もし従業員が何か自分の職責以外の問題を見つけても、できればそのことに口を挟まない方がいい、自分の仕事だけ気にして、会社から与えられたタスクだけこなして、他人の仕事には手を出さない方がいいという文化になっているという。
Burrough氏は既に2014年にAppleを離れている。彼はそのような企業文化の変化は製品にも直接影響してるという。なぜなら従業員達がそれほど本気で打ち込んで作っていないからだというのだ。
ジョブズは社員同士で議論させてよく話を聞くが、クックはすぐに幹部会議にあげてしまう
Appleで10年ほど仕事し、iPodやiPhoneの開発グループの責任者だったBryson Gardner氏も同様な感覚があるという。1つの製品をどのようによくするか、ということについて、ジョブズは従業員に弁論させることが好きだったという。そしてジョブズはともかく聞くのが好きで、そしてその後決定を下していたのだという。
「ジョブズの明晰な千里眼は非常に有効で、私たちが自分たちの仕事を見直すのにとても役に立った」とGardner氏は振り返る。
Bryson Gardner氏はクックは比較的伝統的なCEOで、彼は従業員にお互いに弁論させることを聞くのが好きではなく、幹部会議を開いて共通認識を作り出すやり方で、彼らに弁論させてから決定を下すというやり方ではないという。
Appleも自らの大成功に疲れて大企業病発症か
Gardner氏はこれはある角度からみれば、Appleは自らが得てきた成功に疲れてしまっているのではないかと読んでいる。彼はもしジョブズがまだこの世にいたら、iPhoneの成功を見たとしてもまた辛く厳しいイノベーション期間に入っていくだろう、という。
辞めた人もApple愛は変わらない
ただ、既にAppleを退職した従業員の中にも、現在でも多くの人がAppleにエールを送っている人がいる。上述のBurrough氏とGardner氏もそうだ。「他のユーザと同様、私もAppleがもっと多くの製品を出して欲しいと願っています。iPhone以外にも、Appleがその他の製品で人々を惹きつけ、購入のために行列を作らせることができたら、それが最高なんじゃないでしょうか」とGardner氏は語っている。
小龍的にはこう思う
まとめれば、ジョブズがCEOだった時代では社員は1つの製品を皆で作り上げているという同一の目的意識を持ち、組織よりも製品に集中する仕事ができたが、クックCEOになってからは組織が縦割りになって、自分の責任だけを全うして職責範囲外には手を出さない方がいい企業文化になってしまい、Appleは大企業病に陥っているということになる。
確かにクックCEOになってからはイノベーティブな大ヒット製品は何一つ生まれていない。現在のAppleの収益構造で最も大きな割合を占めるiPhone、そしてその後に続くiPadやMacも元はといえばスティーブ・ジョブズ時代の遺産だ。
全くスティーブ・ジョブズが関わっていなかった製品ジャンルはスマートウォッチのApple Watchのみと言われているが、これはApple自身が売上個数を明らかにできない(したくない)ほど大して売れていないし、会社全体の売上には貢献していない(スマートウォッチ市場内では大きなシェアを誇り、利益の殆どを稼ぎ出しているとはいえ)。
スティーブ・ジョブズはどんな部門、どんな製品のどんなことでも顔をつっこんできたといい、それが原因で多くの社員のクビが飛んだり社員の休みが返上となって恨みを買ったりすることもあったようだが、クックは逆に社内のそういった摩擦を避けるために役割をはっきりさせて、仕事の範囲を決めているのだろう。会社の規模が大きくなれば後者のような”製品より組織”な管理になりがちだが、それだと全員が真剣にいい製品を作りたいという気持ちになれないのも事実だ。
さて、クックのような管理体制でまたイノベーティブな製品が生み出せれば、それはクックが繰り返し演説で語るように、まだジョブズの精神がAppleの従業員の中に残っているということだ。しかしこのまま衰退してしまうと、やはりクックでは難しかった、という話になるだろう。クックもジョブズになることはできないので、大変な立場だと思うが頑張って欲しい。やはり私たちも元従業員達と同じようにAppleに期待してしまうのだから。
記事は以上。
(記事情報元:CNBC)