ロイター(Reuters)社の報道によると、AppleのiPhoneに使用されている電源制御チップのサプライヤーであるドイツのDialog Semiconductor社のJalal Bagherli CEOが電話会議上で、Appleからの受注が減少していること、そしてそれについてAppleから理由の説明がないことを明らかにしました。このことから、Appleは自社で電源制御チップを研究開発している可能性が高いとみられます。
Appleからの受注が減少したことで、Dialog Semiconductorの2018年の営業収入は5%減少するということです。成長の傾向は続くものの、楽観的には受け取れない情報によってその株価は暴落し、Dialog Semiconductor社の市場価値は半分まで下落したことで、苦境に陥っています。ただし、Appleは2019年と2020年の製品についてはDialog Semiconductorへの発注契約に既にサインしているため、ここ2〜3年で自社の電源制御チップをリリースする可能性は低いと思われます。
昨年末から、一部のメディアではAppleが自らの電源制御チップを開発しているという情報が報道されていました。そしてそのチップによって、iPhoneの充電やバッテリー寿命管理や電力消費タスクの管理ができることになり、それによって現在iPhoneで使用されているDialog Semiconductorの電源制御IC(PMICs)を使用しなくて済むようになるというわけです。自社で電源制御チップを設計することで、同じくAppleが自社開発しているiPhoneやiPadに使われているAシリーズチップ、Apple Watchに使用されているSシリーズ、そしてWi-FiチップのWシリーズなどとの相互運用性が高まり、Appleにとっては更にコストダウンとバッテリーの高効率使用が同時に実現し、Appleが将来的にリリースすると噂されているAR/VRのヘッドセットにも役立つのではないかと見られます。
バッテリーは、iPhoneやiPadなどのスマートフォンやタブレットのみに使用されているわけではなく、全てのモバイル電子デバイスに必要なものです。ただ、それぞれの用途やシステムによって、バッテリーに対する要求は異なります。電子システムの最高の性能を発揮するために、最も適した電源制御方式を実現するには、相応の電源制御チップを使うことで、できるだけ少ない外部チップを集積することが必要です。ということで、電源制御チップの開発やその技術の発展は、電子デバイスそのものの性能を向上するのに必須条件であるともいえるでしょう。
電子デバイスのシステムの中では、電力の変換・分配・検査とその他の電力管理の役割を担うチップが電源制御チップで、主にCPUからの給電の振幅を識別し、相応の矩形波を発生し、回路の後ろ側に電源を出力していく役割を果たしています。
昨年から今年にかけて、Appleはいわゆる”バッテリーゲート”事件に見舞われました。Appleは、iOS 11をリリースした時に、バッテリーの劣化によるシャットダウンを防ぐという名目で、旧機種(一昨年のiPhone 7も含まれます)のバッテリーの一定の消耗が検出されると、全体の性能を下げるという機能を、ユーザに選択肢を与えない形でこっそり導入しました。その結果、iPhone 7を含む旧機種の性能がぐっと悪くなり、システム全体のスピードが遅くなることが指摘され、ユーザは苦痛を味わい、原因を調べたメディアがこの機能の導入をつきとめ、Appleはそれを指摘されてから声明を発表したり、バッテリー交換プログラムの値下げをするなどの対応が後手に回ったことから、旧機種の性能を故意に下げることで買い替え需要を煽っているのではないかと考えるユーザからの怒りを買っています。実質的にはAppleがそれを狙っていたのは明らかだと思いますが。。
Appleは公式には自動的に電源が落ちてしまうシャットダウン問題をリチウムバッテリーの寿命などの客観的要因によるものだと決定づけていますが、この問題の中で大きな役割を果たすと考えられる電源制御チップが本来の性能を発揮していないのは、Appleによる電源制御周りの設計ミスではないかと考える人もいます。
iPhoneのハードウェア性能の向上により、CPUとGPUの性能や速度は大幅に向上し、デバイス機能やモジュールも日々複雑化しており、それによって更に電流の需要が高まり、電力消費もますます多くなるばかりです。そのため、電源制御チップは更に集積度や電流効率、耐電圧・耐電流性能、そしてエネルギー効率を高めていくことが求められています。
モジュール化は電源制御チップテクノロジーの傾向となっていて、モジュール化した電源制御チップはシステム設計の複雑化を防ぎ、基板上の空間を節約でき、更にシステムの長期信頼性を高め、同時にシステム設計開発コストを下げることができるとあって、メリットは明らかです。モジュール化の傾向は、基板上でのその他のチップとの集積化にも現れていて、電源制御ICとその他の主な制御チップの間の通信や監視制御等の機能の集積化がますます進んでいます。
このような発展の需要により、Appleはバッテリー管理チップの研究開発を計画したのかもしれません。Appleが自社で電源制御チップを開発することで、”バッテリーゲート”問題が解決することが望まれます。これまでの情報によれば、Appleは少なくとも8つのバッテリー寿命に関する特許を取得していて、その特許によって、プロセッサの各部で電力消費を最大限に抑え、プロセッサの中で使わない部分はオフにして電力を消費しないようにし、スリープやスリープ解除機能がより効率的に行えるようにプロセッサを設計しているとされています。もしAppleによる電源制御チップが開発に成功し搭載されれば、将来のiPhoneのバッテリー持続時間は大幅に改善され、バッテリーゲートのような故意の性能ダウンはしなくてもよくなるかもしれません。実際、現行最新のiPhone X/8シリーズは”より先進的な電源制御をしている”ということでバッテリー管理による性能低下機能から外されていることを考えると、Appleは既にバッテリーゲート対策は既に行っているともとれますが、来年以降にiPhone X/8シリーズもその性能低下の対象にならないとも限りません。
いずれにせよ、Appleはできる限りハードウェアの根幹部分の自社開発において、横展開を進めているといえそうです。Appleは莫大な現金を保有していますが、こういうところに使った方がいいのでしょう。とはいえ、Apple専用のものばかり増えることは果たして業界全体の発展に役に立つかどうかについては疑問です。Appleが発明特許を申請することで、技術そのものは公開されるため、それを中国企業が臆せず真似していくという構図もできているのかもしれません。。
記事は以上です。
(記事情報元:Reuters)