Apple最安値のiPhone SE 2に搭載のA13チップが、最高値最先端Androidフラッグシップを凌ぐ性能をたたき出す。なぜそれができるのか?

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数年前から、Appleに搭載されているApple独自開発のAシリーズSoC(メインチップ)の性能は、スマートフォンとしては世界最高の性能をたたき出し、同時期或いはその後暫くの間に販売されたあらゆるAndroid機を完全に打ち負かすという状況になっています。そして今月販売された最低399ドルの、Appleとしては最安値のiPhone、「iPhone SE 第2世代(iPhone SE 2020、以下iPhone SE 2)」でさえ、価格が1,000ドルを超えるAndroidフラッグシップ機種の性能を凌駕する事態となっています。これはどのようにして可能になったのでしょうか?

Apple-A13-Bionic

「Appleは2020年版のiPhone SEでA13 Bionicを使用しており、ほとんどすべての点でSnapdragon 865よりも優れています」とAndroid Centralブロガー、Jerry Hildenbrandは述べています。そして「これは多くの理由で大したことなんです」と付け加えています。

Appleの最高峰A13 BionicとAndroidの最高峰、Qualcomm Snapdragon 865の比較

Snapdragon 865は、Qualcomm(クアルコム)がAndroidの各ブランドのフラッグシップ級プレミアムスマートフォン向けのチップとして発表した、正にAndroidにおいては最高峰のスマートフォン用チップです。AppleのA13 Bionicと同様に、QualcommのSnapdragon 865には、ARM CPU/モバイルGPU/機械学習用のNSP/カメラロジック用のISP及びその他のさまざまなオーディオ/ビデオ/セキュリティエンジンを1つのチップにバンドルした、世界最先端の7nmプロセスによって製造されたチップです。まさに「SoC(システムオンチップ)」の名に恥じない各方面で強力なチップです。

しかしQualcommの多大な努力にもかかわらず、そのSnapdragon 865は、基本的なCPUおよびGPU処理能力においてAppleの最高のチップ「A13 Bionicチップ」に遅れをとっています。

Snapdragon 865の唯一のA13 Bionicにはない違いは、新しい通信規格「5G」に対応していることです。

しかし、5Gそのものはまだ世界的に殆ど普及していると言い難く、世界で最も国家レベルで5G普及を進めている韓国や中国の特定の都市でさえ、一般的に広く利用可能になるにはまだ時間がかかるとみられています。また5Gを使うことによって端末のバッテリーを多く消費することがわかっていたり、また5Gの利用や高速通信で大量消費するパケット料金などにおいてプロバイダに更に高い追加料金を支払わなくてはならないため、スマートフォンユーザとしては5Gに対してそこまでの価値を現行の4G LTEよりも見いだしているかというと怪しいと言わざるを得ません。

というわけで、Snapdragon 865の唯一の利点も、現状では活かしきることができないのです。つまり、Snapdragon 865の完敗ということがいえそうです。

A13 Bionicチップ搭載のiPhone SE 2の2つの利点

一方、AppleのA13 Bionicチップはともかく全体の性能が突出して優れています。

前出のJerry Hildenbrand氏は以下のように述べています。

ウェブブラウジングからカメラのパフォーマンス、ARなどのあまり使用されない機能まで、現代のスマートフォンのすべてがプロセッサ性能に依存しています。スマートフォンを非常に高速に応答させるには、非常に高速にデータを処理する必要があります。399ドルのiPhone SEは、新しい[$ 899の] OnePlus 8 Proまたは[$ 1,000の] Samsung Galaxy S20 +よりも速くこれらのことを実行できます。

もちろんOSが異なるため、単純な比較はできませんが、まずこれだけでも十分、Appleの最新A13チップを搭載したiPhone SE 2を買う理由があるというものです。

そして更に、iPhone SE 2にその高価なはずのA13チップが搭載されたもう1つの利点は、恐らく同じA13チップを搭載したiPhone 11シリーズと同じくらい、iPhone SE 2はAppleが長くサポートを提供し続けることの保証になる、ということです。

AppleはiOSをバージョンアップするごとに、基本1〜2年に一回、古いチップを搭載したiPhoneやiPad等の旧機種へのサポートを切り捨ててきました。最新のiOSが満足な水準で動かないため、旧機種はアップグレードできなくしているのです。

しかし最新のA13 Bionicチップを搭載しているiPhone SE 2は、もうその時点であと数年はAppleが正式なサポートを保証しているということが証明されたも同然です。なぜなら、現在最新のiOS 13も、5年前の2015年に発売されたiPhone 6sをサポートしているからです。そのため、iPhone SE 2のリセールバリュー(再販価値)は、同価格帯のAndroid端末よりも遥かに高くなるでしょう。

では、なぜAndroid陣営は最新で最速なチップの開発をしてこなかったのでしょうか?

Android陣営も高速チップを作ろうとした、しかし悉く失敗した

実はAndroid陣営のトップであるGoogleも、これまでスマートフォンの頭脳であるメインチップの開発に比較的野心的な努力をしてきました。例えば2017年には、Google自社開発スマートフォンのPixelシリーズで使用される高度な写真画像処理用のスタンドアロンISPを開発したのです。しかし問題は、このISPはカメラが焦点を合わせるのに最適な機能である一方で、それだけが消費者のスマートフォン購入を動機づける唯一の理由ではなかったことでした。

これまで最も売上げが多かったGoogleが販売する端末は「Pixel 3a」でしたが、このPixel 3aでは、カスタムカメラチップが格下げされました。それだけ、高度なカスタムチップは、多くの人が考えるよりも提供が難しいものなのです。

韓国のSamsungも、自社のセントラルキャンパスに予算をあまりかけずに一流の人材を集めて、最速最強のSoCを作ろうとして開発された「Exynosチップ」も、その試みは失敗に終わったといわれています。結局Samsungはこのチップ開発のコストを最小限に抑えるために設計の譲歩を余儀なくされ、AppleにもQualcommにも劣るSoCしか開発できないという情けない結果を招いてしまっています。

ではなぜ世界広しといえどもAppleにだけ、世界最強のモバイルチップを開発することができているのでしょうか。

AppleのMacでの「失敗」は、モバイル端末では繰り返されなかった

10年前、AppleがAndroid陣営を支える全てのハードウェアメーカーとの競争に勝つのは非常に難しいという見方をしている人が多かったのは事実です。実際、Appleは以前Macにおいて、自社独自CPUのPowerPCに拘るあまり、Intelチップへの切り替えに遅れ、Windows勢に大きく水をあけられてしまいました。またIntelチップに移行してからも、一般的なWindows機よりも高いMacのシェア率を高めることには今でもそれほど成功しているとはいえません。世の中のPCの主流はやはりまだWintel陣営にあるといえます。

しかし、それがモバイル端末でも同じことが繰り返される、という予測は見事に外れました。Appleはプレミアムモバイル端末(一般的には800ドル以上の値付けがされている端末のことを指す)市場において、ほぼ完全に市場を独占していて、特定のAndroid端末メーカーだけでなく、全てのAndroidライセンシー端末を合わせたものよりも遥かに商業的に成功していることは、Appleが世界一の市場価値を持つ会社として成り立っていることから証明されています。

この「プレミアム市場をおさえている」ことは、Appleにその収益性を高めることよりも更に重要な影響を与えています。Appleはその利益を再投資して、最先端のモバイルプロセッサを積極的に開発することができているのです。

モバイルチップのカスタム開発は非常にリスクが高い、多くの会社が失敗してきた

しかしこの最先端のモバイルチップの開発は、非常に高くつくだけではなく、非常に高い失敗リスクを伴うものでもあります。

これまでApple以外にも多くの会社が最先端のモバイルチップを開発しようとして挑戦してきましたが、大半が失敗しました。売れ行きがよくないデバイス向けの高度なカスタムチップの開発は、Texus Instruments(テキサスインスツルメンツ)のOMAPやNvidia Tegraをはじめ、Androidモバイルメーカー向けのチップの構築事業から撤退した一連の企業にとって悲惨な問題でした。Intel Atomだけは現在も開発が続いています。

そして非常に高度なQualcomm Snapdragonチップの生産をサポートしているハイエンドのAndroidスマートフォンの数は、劇的には増えていません。逆に、Androidスマートフォンの全体的な市場は、iPhoneの占めるハイ〜ミドルハイクラスの競争から後退し、大衆向けの中間層に移行しています。そして中間層では、スマートフォンは約$ 300〜$ 400で販売されています。つまり利幅がほとんどないものを薄利多売で売っていることになります。

2020年3月に売れたiPhoneのうち、3分の2が新機種のiPhone 11シリーズでした

それに対してこの冬、Appleは、価格が1,000ドルを超える超プレミアムiPhone 11 Pro 2機種と並んで、iPhone 11を発表しました。それでも、消費者インテリジェンスリサーチパートナーによれば、消費者は主に古くて安価なモデルを選ぶことはなかったようで、米国のiPhoneの売り上げの3分の1強が699ドルのiPhone 11を選び、ほぼ3分の1近くが999ドル以上のiPhone 11 Proを選んだと推定しています。つまり、この冬に売れたiPhoneのうち3分の2が新型のA13チップを搭載したiPhone 11シリーズだったのです。

Appleはなぜハイエンド端末を売り続けられるのか?—Android陣営にない有利な点がいっぱい

10年以上にわたり、AppleのiPhoneは革新的な機能/製品寿命/セキュリティ及びバッテリー寿命を備えた「ファンシー」なハイエンド製品に対する信じられないほど前例のない需要を維持してきました。これらはすべて、高度な新しいチップの安定したストリームを提供できるAppleの能力によって推進されています。iPhone 5sでは世界で初めてスマートフォンに64bitチップを導入し、その後毎年新しいチップが登場するたびにベンチマークテストの世界記録を塗り替えており、革新的な成長を毎年続けてきているのです。

対してAppleのライバルとされる韓国のSamsungは、ハイエンド端末はラインナップに持っているものの、AppleのようなハイエンドAndroidスマートフォンの組み合わせを販売するまでに至っていません。更にSamsungはiPhone 6sに搭載されたA9チップまでは台湾のTSMCと共にAppleのAシリーズチップの委託生産先でありましたが、TSMC製とSamsung製のA9チップの性能差が存在するという「チップゲート問題」が起こったことから、次のiPhone 7シリーズ搭載のA10チップからはその生産委託先としては外され、それ以降一度もAppleのAシリーズチップの製造には関われていません。このことも、Samsungの子会社であるSamsung半導体が最先端チップの開発・製造においてAppleやQualcomm、TSMCの後塵を拝することになった大きな原因にもなったと思われます。更に、近年の中国大陸での政治問題によって引き起こされた嫌韓感情の広がりによる、Samsungを初めとする韓国メーカー製スマートフォン販売不振も大きく影響しているかと思われます。自社のスマートフォンの需要だけでは超高価な最先端チップの研究開発のための資金調達が難しくなったわけです。

Samsungを含むほとんどのAndroidメーカーは、ハイエンド端末と同時に相当なローエンド端末の組み合わせによって、デバイスを販売しています。そのため、Androidスマホの平均販売価格は、長年にわたって250〜300ドル前後という安値で推移しています。特に、そのスマートフォンの開発・製造コストが、スマートフォンのライセンシーに対して高度なチップを販売することで利益を最大化しようとするサードパーティに外部委託されている場合は、そのようなメーカーは最先端のチップの競争力のある開発には資金を供給することができません。世界的な凄まじい価格競争と市場競争についていくのがやっと、生き残るのがやっとというところなのです。それに対してAppleはハイエンド市場を独占しているので、価格競争に巻き込まれることなく利益を確保することができているわけです。

AppleのAシリーズチップはiPhoneだけのためではないのもAppleの強み

またAppleにはチップにおいてAndroid陣営にはないもう1つの利点があります。それは「iPhoneのためだけにチップを作っているわけではない」ということです。iPhone 4に搭載され、Apple独自のモバイル向けSoCとして初めてリリースされた「A4チップ」は、2010年のiPadの発売時に、Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)によって導入されました。また、A4チップはApple TVにも採用されました。そう、モバイル用チップの自社開発とその横展開はスティーブ・ジョブズによって既に始められていたのです。ジョブズはそのA4チップ発表の1年後に帰らぬ人となりますが、やはり先見の明があったとしかいいようがありませんね。

Appleのチップの各種モバイル端末への幅広い使用と再利用(例えばHomePodに過去のA8を採用するなど)によって、同社はiPhoneとiPad向けのカスタムチップの開発・構築のためにすでに投資した作業とヒト・モノ・カネの最大価値を生み出すことができるのです。さらに、毎年数千万台のiPadと、毎年数億台のハイエンドiPhoneを販売できるという同社の自信により、他のチップメーカーやデバイスアセンブラーにはない激しいペースで、毎年のアップグレードを推進することができます。更に、例えば現在Appleのチップを100%委託生産しているTSMCに対し、強い圧力をかけてラインをおさえ、世界で最先端の技術を独占的に一定期間Appleのみに提供することを契約で約束させることもできるのです(例えばA12/13チップの7nmプロセスや次世代A14チップの5nmプロセスなども、まずはAppleに独占的に一定期間提供され、その後にQualcommなどに使用が許可されます)。

さらに、クラシックなiPhoneから再発明し、ホームボタンとTouch IDではなく、スワイプジェスチャーとFace IDによって駆動する新しいフォームファクターとしてiPhone Xを提供するという飛躍的な進歩により、Appleは製品を2つのまったく異なる市場に販売できるようになりました。利用可能な最高品質のスマートフォンに高いプレミアムを支払うことをいとわないこだわりのテクノロジーマニアと、基本的な価格で基本的なスマートフォンを望んでいるより意識の低い顧客の両方をつかむことに成功しているのです。

ハイエンドユーザから意識の低い消費者まで、AppleはiPhone 11とiPhone SE 2によって両方つかむことが可能に

年末のホリデー商戦で、AppleはiPhone 11シリーズによって、ハイエンドなスマートフォンへの需要をほぼ満たしたといえます。これで、更にそのiPhone 11シリーズと同じプロセッサーを搭載したiPhone SE 2を提供して、入手可能な最新の機能の一部よりも価格を何よりも気にするユーザーに対して、性能が非常に高いスマートフォンを販売することができるようになったのです。

Appleの以前のiPhone 8は、同じグループのiPhone初心者や入門購入者をターゲットにしていました。幼い子供のために購入する親から、従業員にデバイスを提供するエンタープライズ展開まで多岐にわたっていました。iPhone SE 2は、そのiPhone 8を効果的にアップグレードして、A13チップとより優れたレンズとカメラを使用する一方で、iPhone 11や昨年のiPhone XRとの差別化を維持しています。iPhone SE 2はAppleにとっても近年珍しいほど、需要にマッチした上でそのラインナップにはっきりとその存在感を残す機種となりました。

iPad Pro 2020に初めて搭載されたLiDARセンサーによるAR機能は、iPhone 12に搭載される可能性が大いに高いといえます

更に、次世代ハイエンドiPhoneの「iPhone 12」シリーズがこの秋に販売されることが予測されています。5nmプロセス採用のA14チップの搭載/5Gサポート/先日リリースされた最新のiPad ProでデビューしたLiDARセンサーの搭載/更に進化した画像処理など、iPhone SE 2にはない機能が提供されるに違いありません。それはまた、機能のためには金に糸目はつけない消費者のために、iPhoneの価格プレミアムを正当化するさらに高度なSoC、A14チップの実現を促し、Appleの業界でのリードをさらに前進させることでしょう。

Appleは更にこの優位性を別の市場にも展開しようとしている

この勢いをAppleはいよいよAppleの原点であるMacにも導入しようとしています。AppleはMac向けのARMベースの独自プロセッサを開発中と噂されているからです。早くも来年か再来年辺りには独自設計のARMプロセッサを搭載したMacが登場するかもしれません。そうなると、パーソナルコンピュータもAppleに席巻される時代が来ることもあり得ます。

ただ、Appleは今後家電業界(IoTやホーム家電)でのリードを拡大しつつあるため、Appleは単にチップの進化だけではなく、あらゆる方向で進化を遂げようとしているのは間違いありません。今後はApple Carのような、EV(電気自動車)や自動運転業界にも進出するのではないかともいわれています。

潤沢な現金を持つAppleが、これからどのような進化を遂げていくのか楽しみですね。まずはコロナウイルスが収まるのを待つしかないですが。

記事は以上です。

(記事情報元:Apple Insider

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