米国に戻しても効果薄?Apple等巨大企業の超大量の海外保有現金がトランプ大統領の頭痛の種に

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先日発表されたApple社の会計年度2017Q1(実際は2016Q4)の決算報告の中で、1つの天文学的な数字が人々に深い印象を残した。

Appleの現金保有額、雪だるま式に増えて今や2,460億ドルに

2016年12月31日時点で、Appleの現金保有額は驚くべきことに2460.9億米ドル(約27兆7,012億円)にまで膨れあがり、史上最多となっている。下の図はAppleの毎四半期ごとの現金保有額を棒グラフで表したものだが、Appleのここ2年強での現金保有額は基本的には安定して増えているということが容易にみてとれるだろう。

Apple-Cash-Board

Appleの現金保有高はスリランカのGDPより多い

2460.9億ドル。。この数字は実際多くの国のGDPよりも多い。CIAのWORLD FACTBOOKによれば、この数字は世界62位のスリランカの2016年のGDP(購買力平価による算出)を超えていて、デンマークよりも少々少ないくらいだ。Appleは正真正銘の、国に匹敵する経済力を持ち合わせている企業なのだ。

World Nation's GDP ranking 2016

World Nation's GDP ranking 2016

Appleの現金保有高は、同社の発展を保障するもので、またAppleは毎四半期でこれまでと同様数十億ドル(約数千億円)の利潤をたたき出している。Appleの現金の使い道は研究開発と企業買収、そして株の配当などに使われている。

 

Appleの現金保有高で月に270回も行ける?

2460.9億ドルは一体何を意味するだろうか?とあるサイトではAppleがこの現金で何ができるかについてリストアップし、その中には270回も月に行けるという面白い分析もある。

 

トランプ大統領につきつけられた難題

Appleの現金の大半、91%は海外にある

Appleの現金は、大部分がアメリカにはない。Appleによれば、約91%が海外にあるというのだ。Appleのティム・クック(Tim Cook)CEOは以前インタビューで、Appleのキャッシュ(現金)は国際銀行にあり、彼自身はキャッシュをアメリカに戻したいが、アメリカの税制がそれを許さないのだ、と語ったことがある。

 

Appleだけではなく、グローバル企業は多くの現金をアメリカ外に残している

National Business Dailyの記者は、多くのアメリカの大企業はアメリカ本土に本社を置いているものの、大多数は海外に支社を置いており、長年の経営を経て、多額の利潤をキャッシュ或いは短期債という形で海外に残していることを指摘している。

 

資金が海外にとどまる原因とは

大量のキャッシュが海外にとどまっている主な原因は、アメリカの税法では海外からのキャッシュをアメリカに戻す時、企業徴税法に基づいて税金が課せられる。その最高の税率は35%で、これは先進国市場国家の中では最高の企業税率となっている。もしこれらのキャッシュがアメリカに戻されて投資に回されれば、経済を牽引して大いに経済成長をもたらすだろう。しかし不幸なことに、これらの企業にとっては、海外のキャッシュをアメリカに戻すために支払う対価はあまりに高すぎるのだ。キャッシュを海外に置いておけば、その高い税率をかけられることはないため、結局キャッシュは海外に残ってしまうというわけだ。

 

アメリカ企業の海外残留資金はなんと292兆円超

アメリカ国会の計算によれば、アメリカの国際企業は全部で2兆6,000億ドル(約292兆1,788億円)ものお金が海外に残っているとされている。上場企業のデータからみれば、テック企業と医薬品企業の2業界が海外に資金を残している主要な業界となっている(それだけ利益率が高いともいえるだろう)。下図はブルームバーグがまとめたアメリカ外に現金を持っている企業のランキングだが、やはりAppleが飛び抜けて多く、次にマイクロソフト、シスコシステムズ、オラクル、グーグルとテック系企業が続く。

Biggest holders of overseas cash

 

トランプ大統領候補の公約、減税による資金回流政策

アメリカ大統領選挙の間、トランプ大統領(当時は大統領候補)はかつて、アメリカに現金を戻す場合、税率を35%から10%に引き下げることを公約として掲げており、それによって多くの巨大企業のアメリカ本土への投資を促そうとした。そして当選後、トランプ氏はこの公約について再度それを守ることを宣言した。しかしこの政策には1つ条件が合った。それは、巨大企業が海外の現金をアメリカに戻す時、税率の減免は1回きりだということだ。

 

トランプ大統領の海外余剰資金に対する態度は明確

トランプ大統領の税制改革の第三条と第四条で、トランプ大統領の企業が海外に残している現金に対する態度が明らかになっている。それは「一回で清算、過去のことは問わない、しかしもう二度とやるな」だ。全ての海外に残された現金は10%の税率で課税され、10年でそれを払いきる必要があり、その後は毎年課税される仕組みだ。しかもその現金をアメリカ本土に戻すかどうかについては関係なく課税されてしまう。

そしてこの減税政策が実際にリリースされた後、トランプ大統領の思い通りになるかどうかはについては未知数だ。

 

直接の経済振興策には繋がらない可能性が高い

ただこれまでの経験によれば、現金がアメリカに戻された後、直接経済成長を刺激するような分野に投資されることがなく、最良の結果が出たとしても、間接的に経済活性化に繋がる程度にしかならない可能性が高い。

 

2004年のアメリカの減税施策でも直接経済振興に繋がらなかった

実は2004年、アメリカ政府は同じような税率優遇政策を発表した。同年に議会を通過したHomeland Investment Act(本土投資法案)では、海外の資金をアメリカに戻して投資した場合、2年間の税率優遇を行うというもので、その税率を5.25%にするというもので、法定税率の35%よりも遥かに低いものであった。しかしその前提として、企業がその資金を国内投資に回し、その目的を就業機会を増やすか負債の返済に充てること、という条件があったのだ。2005年、その措置によって3000億ドルもの海外に残っていた利益がアメリカ本土に戻ってきた。これは2004年に海外に残っていた利益の実に37.2%にあたる額だった。そのうち、PFE(ファイザー製薬)、MEK(メルク)、HPQ(ヒューレット・パッカード・HP)、ジョンソン・エンド・ジョンソン、そしてIBMの額が最も多く、これらの合計だけでも880億ドルあった。

税率優遇政策の影響は非常に顕著なものだったが、しかし全てのアメリカ本土に戻った資金が実際の投資に回ったわけではなかった。実際は、かなりの大部分が配当の増加或いは株の買い戻しに使われた。例えば、ある分析によれば、60〜92%(かなり幅があるが)もの資金が、株主に戻されたという。そして当時の政策は確かに資金をアメリカに戻すという効果はあったが、その後数年のうちに、海外資金は雪だるま式に増えてしまっている。

 

間接的な経済活性化には役立つかも、、レベル

Capital Economicsの経済学者アンドリュー・ハント氏によれば、大量の現金貯蓄は、大会社は通常はあまり長期プロジェクトに投資をしたがらず、そのため海外の現金をアメリカに戻しても投資の大幅な増加には繋がらないと指摘されている。ただし、株主や投資家が資金を増やして消費に回り、或いは政府がそれによる臨時収入を市場に回すことで、間接的に経済を活性化できるともされている。

 

Appleもアメリカに戻した資金を株の買い戻しか株主への配当増加に使用する可能性大

ウォールストリートは、もしAppleがおとなしく現金をアメリカに戻す場合、1回きりの減税法案だけでは足りず、Appleのような巨大企業には更に長期の計画が必要だとみている。もし最良の投資機会に恵まれなければ、やはり株の買い戻しか配当の増加がやはりその現金の主な使い道となってしまうだろうとも予測されている。

トランプ大統領にとってはこれは思わぬ頭痛の種となりそうだ。

記事は以上。

(記事情報元:CNBCBloombergCIA

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