かつてはビル・ゲイツに次いで世界で2番目の億万長者の座を安定して保ち、”投資の神様”と呼ばれているウォーレン・バフェット(Warren Buffett)が大株主で会長・CEOを務める世界最大の投資持株会社バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)が数日前、同社が2016Q1で981万株のApple株式を所有したことを発表した。
「あのウォーレン・バフェットが10億ドルをかけてリンゴ(Apple)をかじった」という題名で米国ではセンセーショナルに伝えられているこのニュース。
「知らない分野には投資しない」という信条を貫いてきた世界で最も尊敬される投資家のバフェットだが、そのバフェットが数十年の間ほとんど投資してこなかった分野「IT・テック業界」への投資によって、バークシャー・ハサウェイはAppleの56番目の大株主となった。当時のAppleの株価から見れば、その価値は10億ドル(約1100億円)をくだらないといわれる。
ではなぜ突然この情報が白日の下に晒されたのだろうか?10の注目すべき要点をまとめてみよう。
1. 本当の購入時間と価格はまだわかっていない
実はバークシャー・ハサウェイが本当にどんな金額でAppleの株式を取得したのかはわかっていない。そして同社がいつからAppleの株式を所有し始めたかも調べるのは困難だ。そしてバフェット達のチームにとって不幸だったことは、先週金曜日までに、Appleの株価の価値は8億8816万ドルまで下がってしまったことだ。
ただ、バークシャー・ハサウェイがApple株を大量に保有しているという情報が流れてから、Appleの株価が4%も上昇した。
2. 現在のところバークシャー・ハサウェイは損している
Appleの株式を持っているバフェットのチームは間違いなく損をしている。なぜなら前四半期の3月30日にはAppleの株価の最高額は110.42ドルで、最低が92.59ドルだったからだ。ちなみにこのニュースが流れる前のAppleの株価は90.52ドルだった。
3. バフェット本人が指示したわけではない可能性が高い
多くのニュースソースから、ウォーレン・バフェット本人はAppleの株を買うように指示を出していないという。彼が懐刀として使っているTodd CombsとTed Weschlerが投資マネージャーとして存在しており、彼らがこの決定を下した可能性が高いといわれている。
4. “投資の神様”も悩むテクノロジー投資歴
投資やバフェットに詳しい人なら誰でも知っていることだが、バフェット本人であろうとその部下のマネージャーであっても、テック業界に対する態度は十分に変わっているもので、バフェット本人は特にこのテック業界を避ける傾向にあった。なぜならバフェット本人が「理解できない分野に関与する」ことを嫌っていたからだ。このような変わった態度は多くのテック企業が影響を受けていた。
バフェットがIBMに対して選択した結果はお互いを苦しめた。バフェットはずっとIBMの株を買い続けたが、IBMの株価は下がり続けたのだ。マイクロソフトも最近大きな転換点を迎え、チャンスがあるように見えるが、バフェットのチームはマイクロソフトの株を買っていない(但しビル・ゲイツはバークシャー・ハサウェイの取締役の一人である)。
5. バフェットは権限を委譲しつつある?
10億ドル(約1,100億円)の買い物は大きい。Ted Weschlerが決定しようとTodd Combsが決定しようと、普通に考えれば2人の権限を超えている。これまでは、特に許可が必要ない株式購入の場合、彼らの権限はそれぞれ4億ドルまでだった。つまり、このことはバフェットが現在少しずつ権限を委譲しつつあるのかもしれない。
バフェットがこの2人をバークシャー・ハサウェイの取締役会に入れるように要求していることも影響しているかもしれない(バフェットはバークシャー・ハサウェイの株式の19.6%を所有している)。
6. Appleはこれで利益を得た
バークシャー・ハサウェイのApple株の購入は、Appleにとってはバークシャー・ハサウェイにとってよりも重大な意義を持っている。特にそのニュースが流れてから4%も株価が上がったのは大きい。この4%で、Appleの市場価値は200億ドル(約2兆2000億円)ほど増加(回復)し、バークシャー・ハサウェイはこの取引で得られたものは全くそこまで及ばない。
バークシャー・ハサウェイにとっては、このことは非常に大きい損失ではなかった、というだけのことだ。
7. それでもAppleの先行きは暗いとみる人達もいる
投資の神様のバフェットが代表のバークシャー・ハサウェイがAppleに協力し株価を支えても、一部のアナリストのAppleへの憂慮は続いている。その原因として、コンシューマのスマートフォンの買い換え周期がますます長くなっていることと、市場が飽和していることが挙げられている。
しかしこのことは誰にでもわかることで、Appleは現在Apple Carなど新しい分野を研究開発しているとされ、Appleはまだまだ元気だということを証明している。
8. ビル・ゲイツの方が未だにバフェットに評価されている
ビル・ゲイツが既に直接マイクロソフトの経営や管理には口を出さなくなっても、彼はまだマイクロソフトの大株主の一人だ。バフェットの富はこれまでずっとビル&メリンダゲイツ財団に流れており、ビル・ゲイツもバークシャー・ハサウェイの取締役の一人だ。そんなわけで短期的にバフェットがPCよりもMacが好き、という風に変わることはないだろうと思われる。
9. Appleはこれでまたグーグル(アルファベット)の上に立った
バークシャー・ハサウェイがAppleの株を所有したことは、Appleにとってはアルファベット(グーグルの持株会社)に奪われた世界最高市場価値企業という地位を取り戻させることに繋がった。ちなみにアルファベットの市場価値は5015億ドル(約54兆9000億円)で、Appleの市場価値は5150億ドル(約56兆4000億円)となった。
10. 決して悪いニュースではない
Appleにとって、下がり続けていた株価が安定したのは喜ばしいことだ。そしてこのことはバークシャー・ハサウェイやバフェットにとっても決して悪いニュースではない。ただ、その影響が人々が予測したほど大きくなかっただけである。このニュースによって、バークシャー・ハサウェイの株価は引き続き上昇し、ここ1年の上昇傾向を持続させることに成功した。市場価値が当時の10.69億だろうと現在の8.88億ドルだろうと、そのことはバークシャー・ハサウェイにとっては大して興味がないことだ。
画蛇添足 One more thing…
捨てる神あれば拾う神あり。。
ヘッジファンドの著名な投資家、デビッド・テッパーがApple株を手放したことは先日の当ブログの記事で書いた。
ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、デビッド・テッパーが売ったApple株(127万株)に比べ7.8倍近くにもなるApple株式(981万株)を保有したことは、まだまだAppleには安定して製品を販売する力があることが評価されたのだろう。
Appleはトップが安定志向のティム・クック(Tim Cook)になったが故に、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)時代のような一発逆転イノベーションのような製品はもう出ないかもしれないが、安定して多くの人に受け入れられる製品を引き続きリリースしていくことは可能だということなのだろうか。
記事は以上。
(記事情報元:WeiPhone、Reuters、The Wall Street Journal、Fortune)