iPhone 12シリーズのMagSafe、最大の充電効率15Wを実現するための意外なACアダプタ仕様とは

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Appleの最新型iPhone「iPhone 12」シリーズでは、電磁石による位置固定でのワイヤレス充電機能「MagSafe for iPhone(以下MagSafe)」が目玉機能として主張されました。このMagSafeによって最大15Wでの高速充電が可能になるとAppleはしていますが、実際にMagSafeで15Wの充電を行うには、15Wや18W対応の充電器ではダメで、20Wの電源アダプタ(ACアダプタ)が必要となります。そして更に単に20W以上であればいいわけでもありません。ではどんな条件が必要なのでしょうか?

apple-magsafe-charger-iphone-12-Pro

海外メディアのApple Insiderがうまくまとめていたので紹介します。

MagSafeはQiの2倍の充電効率で充電可能だが。。

今回のiPhone 12シリーズで、電源アダプタとEarPods(イヤホン)の添付を終了し、USB-A to Lightningケーブルのみの添付となり、それ以外の電源アダプタやMagSafe対応のワイヤレス充電アダプタは別売りとなりました。ここにまた新しい課金システムを打ち立てたともいえます。。

このMagSafeでは大きな面積での位置を固定した充電により、最大15Wという充電効率で充電可能となりますが、一定の規格対応の電源アダプタでないと最大効率15Wでの充電はできません。

MagSafeでは普通のQi規格のワイヤレス充電器ですと半分の7.5Wでしか充電できませんが、そのQiの2倍の速度で充電できるのがMagSafeの特徴となります。

ではMagSafeで最大充電効率15Wでの充電を可能にする電源アダプタの条件とは?

まず、Appleが販売している20W充電アダプタでは当然ながら確実に最大効率15Wでの充電が可能です。ただ、日本では税抜きで2000円もしますね。

Apple 20W adaptor 電源アダプタ

そしてもしこの高いアダプタを使いたくなければ、サードパーティのものでも上のApple製と同等の仕様のACアダプタを購入すればよいのです。その仕様とは。。20W以上で、USB-C PD 3.0規格のACアダプタであることが必要です。

USB-C PDとは

USB-PDとは、USB Power Delivery(直訳ではUSB電源供給)の略で、USBを通じてより高い電力を処理するための仕様・規格です。このUSB-PD仕様を搭載していると、充電する側とされる側の双方の機械によるネゴシエーションが容易となり、充電器やACアダプタから引き出せる電力量を決定することができるのです。

今回のMagSafeを最大効率15Wで充電するためのUSB-C PD 3.0規格とは、最新のUSB PD規格に基づいたもので、昨年2019年の半ば頃にリリースされたばかりのUSB PD規格です。普及するには時間がかかっていて、恐らく2020年になるより前に発売されたACアダプタやモバイルバッテリーにはUSB PD 3.0規格は適用されていない可能性が高いといえます。

1つ前のバージョンのUSB PD 2.0と現行最新のUSB-PD 3.0の違いは、USB PD 2.0では電力要件のみに基づいて電力をネゴシエートしないのに対し、USB PD 3.0では、温度や充電の誤動作など、充電中にデバイスからより多くの情報を取得しつつ電力供給ができることです。

またUSB PD 3.0仕様では、充電中に電流(アンペア数)と電圧(V)を常に制御するためのより多くのインテリジェンスな機能が含まれています。電圧または電流を調整する場合、それぞれ20mVまたは50mAステップで調整可能となっていて、10秒間隔で常にネゴシエートされ、そこで電圧と電流が最適な値に調整されます。

AppleはMagSafeの15Wの充電効率仕様について、既に広く普及しているUSB PD 2.0規格を適用することもできましたが、より新しい規格を適用することで、より安全で且つ高効率な充電が可能になっているのです。ただしUSB PD 3.0は下位互換となっているので、旧型のACアダプタやモバイルバッテリーからも、例えば96Wの定格ACアダプタからでも10Wの充電効率を引き出すことができます。

MagSafe充電パッドでは9Vと2.22A(20Wの電力)が処理可能となっていますが、もし電源供給側がそれらをネゴシエートできない場合は、USB PDの規格ではお互いに互換性のある最高の共通電圧と電流を適用することにして、9Vと2.22Aを超えないようにしています。

USB PD 3.0仕様では、特定の電力定格で使用可能な特定の電圧レール要件が含まれています。7.5Wから15WのACアダプターでは、定格電圧として5Vのみと定められています。そして15Wを超えると、5Vと9Vの両方が適用可能となります。そしてさらに多くの電力と変動性を実現するために、27Wを超えるACアダプターには5V、9Vに加えて15Vが選択でき、更に最後に45Wを超えるACアダプターには、5V、9V、15Vに加えて20Vの電圧を選ぶことができるようになる、という仕組みになっています。

USB PD 3 充電規格
USB PD 3 充電規格、単調増分べき乗則(画像クレジット:Texas Instruments)

実際には電圧も細かい調整が可能ですが、最大の5V・9V・15V・20Vのレールを越えることはできない仕様となっています。そして電流(A)に関しても調整が可能となっていますが、最新のデバイスでは温度制御管理のために、一定の電流(A)を保ちつつ電圧を可変として調整しています。そして5V・9V・15Vまでは電流は1.5〜3Aまでの定格、そして20Vだけは電流が3Aを超えることができるため、MacBook Proの100W電力規格(実際は96W)は20Vの電圧と5Aの電流で実現しています。

そして前にも書いたように、MagSafeの充電パッドでは9Vと2.2Aで20Wの定格電力を実現しているため、相手方のACアダプタにはUSB PD 3.0 20W以上のACアダプタが必要となります。そしてこの組み合わせはAppleだけの専売特許ではなく、サードパーティの製品にも存在します。しかしより高い電力規格のアダプタでも、USB PD 2.0以下では実現できませんし、上述の通り速く充電できるわけではないのです。

ちなみにAppleの20W規格のACアダプタは、9月に発表されたiPad 8やiPad Air 4(両方とも2020年モデル)に付属しています。またiPhone 11 Pro Maxや去年までのiPadシリーズに同梱されていた18WのACアダプタも使用可能ですが、上記の通りUSB-PDの規格が古いため、MagSafeの最大効率15Wでの充電は不可能というわけです。

なぜ20W規格の電源アダプタで15Wでしか充電できないのか。。ワイヤレス充電では効率が低下

そして上記のUSB PD 3.0要件があったとしても、100%効率的なシステムはありません。もし業界の仕様を無視して15Wピッタリのワイヤレス充電器用の15Wアダプターを作成したとしても、フルスピードで充電するための最小要件を満たしていないのです。

実は本質的に完璧な充電システムというものはなく、すべての充電システムは複数の要因に基づいていくらかの充電効率低下が発生してしまうのです。例えば。。

  • 使用するケーブルの長さ
  • 使用するケーブルのサイズ
  • 使用導体(銅)
  • 接続された充電器の表面積
  • 発熱

これらの特性は、デバイスに直接接続されたケーブルを介した通常の充電(例えばLightningケーブルでの充電)に影響するため、適切なケーブルに接続された15Wアダプターは、効率の低下により15W未満しか充電されません。実際、皆さんも経験していると思いますが、有線であろうと無線であろうと、充電するときにiPhoneから放出される熱は、バッテリーを充電する化学反応によって発生しますが、この発熱は充電効率が低下していることを意味します。

そしてケーブル自体の抵抗のために、直接ケーブルでの充電の効率は既にいくらか低下しています。短くて太いケーブルは、長くて細いケーブルよりも抵抗が少なくなります。ケーブルの抵抗が大きいほど、より多くのエネルギーが熱に変換され、充電効率が落ちます。これは「銅損」と呼ばれ、摩擦が機械システムに固有な効率低下の要件であるのと同じように、電気システムに固有の効率低下の要件なのです。

iphone-12-magsafe

iPhoneの充電コイルに電流を流すと、複数の損失が発生します。1つは上記の「銅損」です。これは、コイルの厚さが原因で、より多くの抵抗、つまりより多くの熱が発生するためです。2番目の損失は、渦電流損失と呼ばれる充電コイル内の磁場の生成によるもので、これも熱を発生させるため充電効率が落ちるのです。

Lightningケーブルでの充電でも充電効率が落ちるのに、更に充電コイルを利用するワイヤレス充電は、実際は非常に非効率な充電方法といえます。より便利ではあるのですが、MagSafeまたはQiを利用したワイヤレス充電の場合は1分あたりにより多くの電力を使用するのは想像に難くないでしょう。言い方を変えれば、同じ1分あたりの電力で同じアダプタを使用したとすると、Lightningケーブルを使用して直接充電する場合よりも、ワイヤレスで充電する方が、バッテリーに供給する電力が少なくなるのです。

というわけで、いくらACアダプタやMagSafeが両方ともUSB PD 3.0規格を満たしていて電力が20Wで出力されていても、実際に、特に充電コイル部分での電力ロスによって充電効率は落ちるため、それで最大充電効率が15Wと表示されているのです。

まとめ:MagSafe最大充電効率15Wを実現するには。。

というわけで、MagSafeで最大充電効率15Wを実現するには、MagSafeのケーブルだけではなく、出力電力20W以上でUSB PD 3.0に間違いなく適応している高品質なメーカーなものを導入する必要があります。何も考えたくなければ上記のApple製の20W充電アダプタを購入しましょう。確実に15Wで充電できます。

AppleはiPhone 11 Pro Maxを除きこれまで5WのACアダプタしか付属してきませんでしたが、実際にはもっと電力が大きなACアダプタで高速充電が可能でした。今回はACアダプタさえ付属されなくなり、そして最大効率で充電を行うためにはAppleでは新しく最近発売されたばかりの20WのACアダプタ、サードパーティ製では20W以上でUSB PD 3.0に準拠したアダプタで充電しなければならないという、より多くの出費をユーザに強いる形になっています。

しかし他社製品を見てみると、例えば私も所持している2年前に発売されたHUAWEI P30 Proは、40Wの超高速充電に対応していて、もちろん対応したACアダプタとケーブルも付属しています。ただしUSB PD規格とは異なった特殊な仕様となっているため、同じACアダプタを使っても他社製品は過去の製品などには40Wで充電することはできなくなっています。ちなみにHUAWEI P30 Proは既にワイヤレス充電も15Wに対応していました。

本来は最大充電効率を達成できる組み合わせをもともと本体と同梱するのはメーカーの良心と捉えることができ、その点では私はHUAWEIのやり方を高く評価しています。逆にAppleの今回のようにiPhone 12シリーズでACアダプタを廃止するという仕打ちは、確かに環境負荷は減らせるかもしれませんが、ユーザを困惑させるものといえそうです。しかもMagSafeで最大効率15Wを実現するのにこんなにややこしい条件が必要だとは大っぴらには発表されていないことも問題ではないかと思います。。Appleもいつまでも殿様商売をしているといつか。。というのが不安でなりません。

記事は以上です。

(記事情報元:Apple Insider

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