ドルチェ&ガッバーナが中国市場をたった4時間で失った事件、今後D&Gは中国なしでやっていけるの?

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世界でも著名なイタリア発の成金御用達のようなイメージのファッションブランド、ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)が3日前の11月21日、4時間という短い時間で中国市場全てを失うという大失態を犯し、世界に衝撃が走っています。

たった4時間で中国市場を全て失う大失態を犯したドルチェ&ガッバーナ

事の発端はドルチェ&ガッバーナが、目の細いアジア系の女性が「小さな棍棒のような食器を使って”偉大な”イタリアの伝統のピザ・マルガリータやスパゲティをどうやって食べるか」というシリーズのCM動画を発表しましたが、それが中国文化(箸文化)を侮辱するような内容となっているということから、そのCMに対する批判が殺到したことに端を発します。

dg_Instagram_cm

ドルチェ&ガッバーナの会社としてはそのCMを取り下げたところ、創業者でデザイナーのステファノ・ガッバーナ氏がSNS上のDMでファッションライターのMichaela Phuong(苗字からしてアジア系ですね)に対して、CMを取り下げたのはバカな事務所のスタッフが中国に気を遣ったからで、自分自身はそのCMは取り下げないとし、更に中国を「クソみたいな国家」とし、中国の民族や文化に対する蔑視を剥き出しにした上で、中国市場がなくても、D&Gはうまくやっていけるという内容のメッセージを送りました。そしてそのPhuongさんによって、その発言がメディアdiet_pradaに暴露されてしまったのです。

Stefano_Gabbana_SNS

そのことが中国国内の様々なメディアにも採り上げられ中国で猛反発を食らったことで、ステファノ・ガッバーナ氏は中国版TwitterのWeibo(微博)アカウントで、なんとこれがハッカーの仕業によるものだったという見え透いた嘘をつきました。これが火に油を注ぐことになります。

Stefano-Gabbana_Weibo

このNot Meは皮肉にも、中国人の反駁に使われてしまいました。

DG_Chinese_NotMe

まず上海で開催予定だった巨大なファッションショーに出席予定の有名人が次々と出演をキャンセルすることでイベントそのものが即日で中止となり、ドルガバの中国のイメージキャラクターだった芸能人達が契約を次々に解消します。例えば、下の画像の新疆ウイグル自治区ウルムチ市出身のウイグル族モデル・女優の迪麗熱巴(Dilireba)ことディルラバ・ディルムラットなども。。

DG_China_dilireba
今年2018年9月のファッションショーで、D&Gの中国イメージキャラクターを務めていた迪丽热巴(Dilireba)ことディルラバ・ディルムラット(ウイグル族)。

そして全国の主要EC(天猫(Tmall)、京東(JD)、蘇寧易購(SUNING)、網易考拉(NetEase)、唯品会、1号店、洋碼頭、寺庫)からドルガバの商品が一斉に取り下げられるというとんでもない事態に発展しました。

dolce-gabbana_Apologized_for_chinese

さすがにまずいと感じたのか、ステファノ・ガッバーナ氏とドメニコ・ドルチェ氏がTwitterやWeiboなどの公式アカウントで二人でイタリア語で謝罪の動画を発表し、最後だけたどたどしい中国語で「对不起(ごめんなさい)」と謝罪しましたが、時既に遅しという感じでした。

さて、その事件そのものの発生した要因などについては既に他の多くのところでまとめられたり議論もされているのでここでは割愛するとして、単純にもしドルチェ&ガッバーナが中国の市場を完全に失ったとして、ドルチェ&ガッバーナは今後もやっていけるのか、ということが気になりませんか?ステファノ・ガッバーナ氏は、中国市場などなくても全く問題なくうまくやっていける、という発言までしていますが、実際のところ本当にそうなのでしょうか?中国のIT系メディアiFanrの記事で紹介されている数字で追ってみたいと思います。

ドルチェ&ガッバーナの最重要市場はイタリア、中国はそれほどでもないが。。

まず、ドルチェ&ガッバーナにとって、現在最も重要な市場はやはり本国イタリアであることは間違いありません。

DG_Happy

Business Insider Italiaが2017年に発表した数字によると、ドルチェ&ガッバーナの売上高のうち、イタリア本土市場が24%を占め、ヨーロッパ周辺のその他の地区が27%、米国が13%、日本が6%となっています。中国やその他のアジア市場はその他の地区とされていて、30%となっています。つまり、中国(大陸)市場のシェアは最大に見積もってもドルチェ&ガッバーナの売り上げ全体のうち、30%にも満たないということになります。

ここ3年ほど好調だったドルチェ&ガッバーナの業績

また最近のドルチェ&ガッバーナの好調な業績は、今後についても楽観的な見方をさせるに十分なものでした。会計年度2016/2017年、ドルチェ&ガッバーナの総売上高は12.96億ユーロで、前期比で9%成長しています。そしてその年の純利益は8000万ユーロで、前年比4倍に跳ね上がっています。会計年度2017/2018年では、ドルチェ&ガッバーナの売上高は600万ユーロ下がり、純利益も1200万ユーロ下がってはいますが、全体的に見れば安定した成長をみせているのです。

以下はドルチェ&ガッバーナの親会社、D&G S.r.lのここ3年(2015〜2017年)の売り上げ統計の図です。

ドルチェ&ガッバーナ 売り上げと利益

▲ 画像:第一财经周刊

SNSマーケティング企業のNetBaseが発表した2017年のラグジュアリーブランドレポートで、ドルチェ&ガッバーナはランキングで4位に入っています(ちなみにその前にはランドローバー、LV、Burberryが入っています)。

確かに好調なドルチェ&ガッバーナだが、中国市場がなくてもうまくやっていけるというのは誤り

ドルチェ&ガッバーナはイタリアのラグジュアリーブランドでトップ10に入るブランドで、KOL戦略でかなりの「バブル」を生み出してきたところはありますが、しかしステファノ・ガッバーナ氏が「中国市場がなくてもうまくやっていける」と豪語したのは明らかに愚かな発言といえるでしょう。

急成長する中国市場、世界の3分の1のラグジュアリーブランド製品を中国人が購入

Bain & Coのラグジュアリーブランドマーケットレポートによれば、2018年には中国の消費者が世界の3分の1のラグジュアリーブランド製品を買っていて、2025年にはその比率が46%にも達するとされています。

マッキンゼーのレポートでも、2025年には中国の消費者が贅沢品に支払う金額は1兆人民元(約16兆円)にのぼると分析されているほどです。

他の先輩ラグジュアリーブランドに比べてまだまだ規模の小さいドルチェ&ガッバーナ

その規模に比べれば、ドルチェ&ガッバーナは微々たるものといえるかもしれません。他の更に有名な先輩ブランド達の数字と比べてみると、会計年度2017年では、Gucci(グッチ)の純利益は29.11億ユーロ、CHANEL(シャネル)は17.9億米ドル、HERMÈS(エルメス)は12.2億ユーロでした。ドルチェ&ガッバーナの1年の総売上高は、これらの先輩超一流ブランドの純利益程度にしか過ぎないのです。

デロイトが発表した2018年世界ラグジュアリーブランド実力ランキングの中で、ドルチェ&ガッバーナは36位にとどまっています。BrandZが発表した2018年の最も価値があるイタリアブランドトップ30のうち、Gucci、Prada、Armani、Bottega Veneta、Bulgari、Fendi 、 Ferragamoなど誰でも名前が知っているブランドは入りましたが、ドルチェ&ガッバーナはそこに入ることができていません。

ブランドを超一流に押し上げる加速材料として中国市場は必要だった

ドルチェ&ガッバーナがそれらのブランドと肩を並べるほどの超一流ブランドになるためには、中国市場での加速が必要でした。しかしそれを失ってしまったということは、宇宙飛行をするロケットがエンジンの1つを失ってしまったようなもので、今後の飛躍は難しくなるでしょう。また、今回の事件でドルチェ&ガッバーナが東洋民族差別をしていることが明らかになったことから、世界的にも悪い印象を与えてしまったことは否めません。

ステファノ・ガッバーナ氏はもともと暴言癖と人格破綻で有名、アジア蔑視も

ちなみにこのステファノ・ガッバーナ氏はもともと中国に限らずアジア蔑視をしていた人で、暴言・妄言も絶えず、人格破綻しているような発言も目立っていました。昨年2017年にも中国の現状を嘲っているかのような広告を出していたことがありましたが、その時には特に話題になりませんでした。というわけで、その時にドルチェ&ガッバーナのイメージキャラクターをしていた人が今更今回の事件でドルチェ&ガッバーナと解約したというのはなんだか日和っている感じもします。

ドルチェ&ガッバーナ 2017年 中国 広告
ドルチェ&ガッバーナの2017年の中国の広告。これも今から考えれば蔑視ともとられかねないモチーフと構図かも

香港で抗議運動が起こったこともあります。つまり、ドルチェ&ガッバーナには前科があるというわけですね。6年以上前の2012年1月、D&G香港九龍尖沙咀(チムサーチョイ)のハーバーシティ店の前で香港人が店の様子を撮影したところ、警備員に咎められ、香港人は出入り禁止、中国大陸の人のみ入店を許可するという措置をとられたことから香港人が怒りを買い、人種差別であるとして毎日1000人以上が店の前に詰めかけて抗議行動を行うという事件に発展しました。その後2週間ほど経ってようやくドルチェ&ガッバーナのミラノ本部より謝罪文が出されて収まりましたが、ドルチェ&ガッバーナはやはりこのようなことをするような会社ではあったわけです。

D&G_Hong_Kong_Racism

そしてそのステファノ・ガッバーナ氏は日本に対しても見下した見方をしており、かつて「我々が死んだらそこで終わり。日本人デザイナーなどに『ドルチェ&ガッバーナ』の服をデザインしてもらいたくない」とイタリアの全国紙コリエレ・デラ・セラ(Corriere della Sera)のインタビューで語っていることを、Livedoorニュースも報じています。

中国の過剰反応も批判されるべき?

ただ、日本ではこんなことをいわれても中国のように即座に全国で不買運動が起こるようなことはありません。そのあたりも、中国は自らの国や文化を攻撃されるとすぐにむきになって全力で反撃するなど、ちょっと被害妄想じみたところや子供っぽいところがありますね。かつて列強に占領されたという歴史やその歴史観に基づく教育によるものと思われますが、もう少しウィットやユーモアに富んだ反撃をすればよかったんじゃないかなとも思います。これで余計中国が嫌われるということにならなければよいですが。。というのも、いずれ中国も超巨大老人大国になり、経済的に苦しくなったときに、これまで尊大かつ子供じみた態度をとり続けてきた中国を助けてくれる友達がいなくなってしまうのではないかとちょっと心配になります。

また、今回の件で日本でも中国人の反応に同情する人もいました。アジア蔑視に対して、反感を感じたのでしょう。しかし実際のところは、ラグジュアリーブランドの大半は欧米に集中していることから、やはり世界の美術・芸術的・ラグジュアリーという価値観は欧米で作られているという構図は残念ながら変わっていません。

今回の件は、欧米のファッション業界にはまだまだ根強い東洋・アジア蔑視があることを再認識させられた事件だったかもしれません。

いずれにせよ、巨大な中国市場で成功するには、中国人や文化への尊重は必須で、そこに対して攻撃するようなことは天に唾するようなものだということを世界に知らしめたのは大きかったかもしれません。

Appleなども気をつけなければ。。

テック系ではボイコットまではいかないものの、サムスンは中国で韓国嫌いが進む中で煽りを食らう形でその売り上げを落としています。AppleはCEOのティム・クック(Tim Cook)自身がゲイであることをカミングアウトしているとおり、会社全体がダイバーシティであることを強調しており、とりわけ中国市場はかなり重視しているため、中国に対する差別意識はないと思われますが、ひょんなことで中国人の感情に火を付けてしまうと大変なことになります。

そう、あの尖閣諸島問題で日本との政治的な衝突が発生したことから起こった2012年の反日デモのように。。実は当時私も上海にいて実際そのデモ隊に紛れ込んでいたのですが、上海はまだ抑え込まれていてよかったのですが他都市では路上の日本車が燃やされたり日本料理屋が破壊されたり、日系スーパーに大量の暴徒が流れ込んで破壊・略奪行為が行われるなど悲惨な出来事も発生しました。そして日本の製品や文化がメディアに出るのが難しくなったのです。中国市場においてはそういった政治リスクを含め、様々なリスクがあることを認識して商売をしなければならないと思います。

それから、相手が個人とか、DMだからといって下手な発言をするのも問題です。文字に残ってしまうので、拡散されやすくなります。脇が甘いと、今のネット時代ではこのようなことになってしまうことをドルチェ&ガッバーナだけに限らず、我々もよく認識しなければなりませんね。

記事は以上です。

(記事情報元:iFanr

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