マイクロソフト(Microsoft)の現状のモバイルデバイス市場での業績はお寒いものだが、彼らの世界市場への拡張路線の野望には影響しないようだ。同社は中国広東省深圳市(深セン、香港の隣)の技術パートナーとともに、Windows Phoneデバイスをアフリカ市場に売り込もうとしている。
マイクロソフトの”Africa Initiatives”プロジェクト、中国深圳の企業と提携してアフリカ市場に進出
数日前、マイクロソフトは”Africa Initiatives”と銘打たれたアフリカプロジェクトを立ち上げた。このプロジェクトでは中国深圳の協力工場とともに、75〜100米ドル(約8,980〜11,980円)という低価格帯のスマートフォンを製造し、現在飛躍的な速度で成長しているアフリカのモバイルデバイス市場でシェアをとりにいこうという作戦だ。このプロジェクトのジェネラル・マネージャー、Fernando de Sousaは、「これは世界的な発表となるでしょう。アフリカは主要な消費市場となり、そのスマートフォンユーザの成長は世界の他のどこの地域よりも速いのです」と意気込む。
マイクロソフトの変化が反映された戦略
深圳のメーカーとの提携によって、廉価なハードウェアでアフリカ市場を攻める。この戦略は、腰を低くして、開放的な姿勢で広い市場をとりにいく、という最近のマイクロソフトの変化を反映しているともいえる。
マイクロソフトのこの変化は、昨年顕著となった。2014年9月、マイクロソフトのCEO、サトヤ・ナデラ(Satya Nadella)が中国を訪問した時に、まず選んだのが深圳の世界最大の電子機器市場のある華強北だった。当時、マイクロソフトの中国公式Weibo(微博、中国版Twitter)は「Windows 8は9インチ以下のデバイスには全て無償ライセンスとし、深圳の経済圏のWindowsデバイスへのパッションを呼び起こすでしょう。サトヤCEOが自ら華強北を訪れたことは、マイクロソフトのエコシステムの構築と参加と期待を込めています」と中国のユーザに向けてメッセージを送っている。
マイクロソフトの深圳エコシステム、中国では初歩的な成功をおさめる
最近、マイクロソフトの深圳テクノロジーエコシステムの構築は効果を表し始めているようだ。昨年11月27日のマイクロソフトが公表したデータによれば、中国市場では現在24社のOEM/ODM提携メーカーが既にWindowsエコシステムに加入しており、その中には昂達、台電、原道等10以上の中国の業界ではよく名の知られた深圳のメーカーが入っている。昨年末、既に80種類以上のWindows OSを搭載したタブレットデバイスがリリースされ、最低価格は499元にまで下がった。
深圳でのテクノロジーエコシステムの構築は、マイクロソフトのハードウェアの世界市場進出計画のカギを握る一歩となっている。マイクロソフトの大中華圏OEM事業部ジェネラル・マネージャーの黄逸群は以前、「我々が深圳で構築しているエコシステムは中国市場だけではなく、世界の市場に向けているもので、当社が世界市場に向けてWindows Phoneデバイスを輸出するために大きな助けとなるだろう」と述べている。
マイクロソフトのライバルはやはり深圳を中心とする中国スマホメーカー達
しかし、マイクロソフトが深圳の企業と提携してアフリカのスマートフォン市場に進出しようとしても、そこでぶち当たる最大の競争相手は中国のスマートフォンメーカーだ。
ここ数年、アフリカ経済の成長やインフラ整備が進んできたなどの影響もあって、スマートフォンはアフリカ携帯電話市場の中で飛躍的な成長を遂げている。2015年には、スマートフォンはアフリカの携帯市場の中のシェア率は40%を超えるとみられている。アフリカのスマートフォンの潜在的な成長力は既に世界の多くの携帯電話メーカーの注目を集めており、その中には当然中国の強大な”携帯軍団”が存在する。2012年にはアフリカ市場における中国の携帯ブランドシェア率は50%だったが、ここ3年で更に増え続けているという。
レノボ(Lenovo、聯想)、ファーウェイ(Huawei、華為)、ZTE(中興)等の有名どころの中国国産ブランドがアフリカ市場に進出しており、そのうちZTEのアフリカへの出荷量はここ数年で1500%も増加している。更にOppo、Xtouch、INFINIXといった三・四線級の中国国内携帯ブランドもアフリカ市場でシェアの奪い合いをしている状態だ。
また、業界外からはアフリカ現地最強ブランドと見られていたTECHNOも、実はとある深圳の携帯電話会社が経営しているということも判明している。2006年、TECHNOはアフリカ市場に進出し、数年の間でそのブランドや製品にはアフリカ的な要素が深く刻まれ、販売ルートもアフリカ全体に行き渡っている。昨年第三四半期で、TECHNOはアフリカのスマートフォン市場で8%のシェアを握っており、出荷量は一昨年同期比で269%も増加している。
マイクロソフトにとってはアフリカ市場への挑戦は2度め、更に踏み込んだ”冒険”となる
これらの強大な中国軍団を目の前にして、マイクロソフトも無策なわけではない。深圳でエコシステムを構築しているOEM協力メーカーは、中国の低価格製品による販売チャネル開拓にかけては百戦錬磨だ。そんな強力な企業の力を借りて、マイクロソフトはアフリカに乗り込もうというわけだ。
実は2013年にも、マイクロソフトは似たような作戦をとっていたことがあった。当時マイクロソフトはファーウェイと組み、完全にアフリカ市場専用にカスタマイズしたWindows Phone 4 Afrikaスマートフォンをリリースし、アンゴラ、エジプト、コートジボワール、ケニア、モロッコ、ナイジェリアと南アフリカ等の国で販売し、マイクロソフトの正式なアフリカ市場進出への足がかりとした。
しかし、当時は単にファーウェイのブランドを通じてアフリカ市場でWindows PhoneモバイルOSプラットフォームをリリースしたに過ぎなかった。今回はOEMメーカーを使って自身のブランドのハードウェア・デバイスをアフリカ市場に売り込むというのだから意気込みが違う、というわけだ。
マイクロソフトのアフリカでの準備は着々と進行中
もちろん、深圳メーカーとの提携以外にも、マイクロソフトはアフリカ本土側でも既に作戦を展開中だ。調査によれば、マイクロソフトはいくつかのアフリカの国でベンチャー企業に投資してアプリの開発を行っており、ガーナのインターネットプロバイダーと提携を結んでラジオやテレビの無線で空き周波数帯の開発を行っているという。またこのプロジェクトではガーナのKoforidua Polytechnic大学の学生に非常に安価なモバイルインターネットサービスも提供している。これらの動きはマイクロソフトのアフリカ市場進出に大きな礎となるとみられる。
アフリカで成功後、同様の方式を全世界に適用か
前出の黄逸群GMの言うとおり、マイクロソフトが深圳でエコシステムを構築したのは、中国市場に対してだけではなく、世界市場を見越したものだった。もしこの方法で同社がアフリカで実績を作ったら、同様の方法で東南アジア、中東、南米等の新興市場に進出していく可能性もある。しかしこの方法が本当に有効に作用するかどうかは、現地市場の競争環境やマイクロソフトの現地市場での具体的なマーケティング戦略にかかっているだろう。
画蛇添足
深圳華強北は私も昨年毎日のように通っていた場所だ。
世界最大の携帯電話やその周辺機器の市場があり、まだ20代そこそこのスマートフォン関係を扱っていた知り合いが一晩で億万長者になるのを目の前で見る、というような非常に刺激的な場所だ。深圳には特に携帯電話関係のものづくりの上流から下流までが揃っているだけではなく、その場でサンプルが出来てしまうような開発環境も整い、世界中からメーカーや技術者、バイヤーも集まっている。
ちなみに私の深圳で小さいスマートフォン製造工場を持っている知り合いも、アフリカ向けへのスマートフォンの輸出を行っているが、全てがAndroidデバイスだという。それらの既に直接進出している中国企業のAndroid勢とどれだけ戦えるか、それは廉価のハードウェアだけではなく、現地の人に受け入れられるようなソフトウェアが間違いなく必要だろう。
ところでアフリカには実に多くの民族が存在するといわれている。それらの民族はみな違う考え方と言語を持っているようだ。スマートフォンの普及が翻訳アプリなどを通じて人と人とのコミュニケーションの役に立てば、民族同士の紛争の解決にも繋がるのかもしれない。そう考えれば、アフリカでのスマートフォンの普及はもしかしたらアフリカの平和に貢献することなのかもしれない。
記事は以上。
(出典元:WeiPhone)