スティーブ・ジョブズが35年前の1983年に既にApp Storeの登場を予言、日本企業がその3年後にオンラインソフト販売を本格サービス開始

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Appleの共同創業者で、前CEOの故スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)は未来を予見できる人だった、と多くの人からいわれています。Cult of Macは本日の報道で、彼らがそれを裏付ける確実な証拠を見つけたというのです。

Steve-Jobs_Time-Magazine_1982
1982年のTime magazineの表紙を飾ったスティーブ・ジョブズの似顔絵。当時彼は若きコンピュータ業界の風雲児としてアメリカを席巻していました。

ジョブズ、1983年にオンラインでソフトウェアを買えるようになることを予測。。App Storeを自ら予言か

1980年代初期、インターネットが普及する15年〜20年も前に行われたある会議で、ジョブズは私たちが今は毎日行っていることを予言し、描写していました。それはオンラインでソフトウェアを買っている、というものです。ジョブズは1983年に行われたコロラド州アスペンで行われた国際デザイン会議(International Design Conference)におけるスピーチで、この話題を出していました。当時ジョブズは28歳で、あの伝説のパーソナルコンピュータの祖、初代Macintoshがリリースされる1年も前のことです。

Floppy-Discs
フロッピーディスク。8インチ→5インチ→3.5インチと小型化されていき、そこからCD-RやDVD、ハードディスク、USBメモリ、SSDへと記憶媒体は変化していきました。ちなみにフロッピーディスクの前はカセットテープでした。

当時、全てのソフトウェアは5インチ(正確には5.25インチ)のフロッピーディスクに入れられて販売されていました。今考えると非常に遅く、しかもコストがかかる方法でした。そこで、ジョブズはこんな代替案を出したのです。「オンラインでソフトウェアを買えるようにしよう」と。ジョブズは、「ソフトウェアは情報で、情報は大量の1と0で埋められているものです。私たちは電話回線上で電子的にそれを”翻訳”すればいいのです。もしソフトウェアを買おうと思ったら、1と0を使えばいいのです。。そして直接コンピュータからもう1台のコンピュータへ伝送すればいいのです」と話しています。

ジョブズはスピーチの中で、オンラインでソフトウェアを購入できるメリットとして、ユーザが購買する前に試すことができることを挙げています。

当時はインターネットもなく、AOLも誕生していなかった

現在では当たり前ですが、当時としては大変画期的なこのアイデアをジョブズがスピーチで発表した頃、もちろんまだ世界にはインターネットはなく、インターネットの起源となるコンピュータ同士を繋ぐネットワーク、ARPANET(アーパネット)が米国国防総省や米軍内で用いられていただけでした。

その後一世を風靡するAOL(America OnLine)も、ジョブズのスピーチの2年後にならないと登場しません。そしてオンラインでのソフトウェアのショッピングは、更に世代を跨がないと実現しませんでした。しかも、最初に実現したのはスティーブ・ジョブズの手によるものではありませんでした。

ジョブズのApp Storeを予言したスピーチ音声はこちら

以下が、スティーブ・ジョブズが1983年に自らの言葉で将来のApp Storeについて予言したスピーチ音声です。

ジョブズのApp Storeの予言は「不完全」だった?

ただ、皮肉なことに、ジョブズが自ら語ったオンラインでのソフトウェアストアでのメリットとして「ユーザがお試しできる」としていたことは、ジョブズが生きている間には自社のサービスでは実現しませんでした。iOSのApp Storeで、全てのユーザが時間制限付きで有料アプリの「お試し」ができるようになったのは、ジョブズがスピーチを行った1983年から35年経った今年2018年6月に行われたWWDC(世界開発者会議)でやっとのことで発表され、実現する運びとなったのです。

これまでは”定期購読サービス”のみお試しができていましたが、有料アプリの「お試し」は不可能で、しかも返金の手続は非常に煩雑でした。このことは多くのユーザの不満を買っていました。

というわけで、ジョブズのApp Storeに関する予言は不完全なものだったと言わざるを得ません。

ジョブズはApp Storeの開設に否定的だった。自らの予言と主張を否定?

それだけではありません。ジョブズはiPhoneやiOSをクローズドなアプリで運用すべきと考えていて、iOSアプリのサードパーティへの開放、つまりApp Storeの開設に反対していたのです。

それを当時の現在もマーケティングのトップのフィル・シラーSVP、取締役会、更にアーサー・D・レビンソン取締役会長までもが束になって説得して、ジョブズの考えを変えたことで、ようやくApp Storeは開設に至りました。それによってAppleには巨万の富と、iOSの素晴らしいエコシステムがもたらされたわけです。もしApp Storeがなかったら、iPhoneはここまで成功していなかったでしょう。

applekeynotes_appstore_Steve-Jobs

そんなわけで、ジョブズは凝り固まった考えで自ら予測した未来を閉じようとしていたことも注目に値します。

さすがのジョブズもワイヤレスでのやりとりまでは予言できなかった?

また、さすがのジョブズも「電話線上でやりとり」と言っているくらいで、現在のようにワイヤレスでデータがやりとりできるようになることまでは予測していなかった可能性があります。

もちろん、インターネットは光ケーブルが普及するまでは電話線によるダイヤルアップ接続とその後のADSLなどで、実際に電話線を使っていた時期も長いのですが、現在は光ケーブル+ワイヤレスLAN、それから携帯電話ネットワークを使った無線通信が主流となっています。

Apple Storeのオープンの頃には、ジョブズもワイヤレスの世界にかなりどっぷりはまっていたようですが。

本質的なところは当たっている、さすがの予見能力

とはいえ、本質なところはまさにジョブズの予言どおりで、ソフトウェアは1と0のデジタルデータで記述されているので、その1と0をオンラインでやりとりすればソフトウェアを売ったり買ったりできるという考え方は、素晴らしく画期的なアイデアでした。

そしてそれを何とジョブズのこの発言から3年で実現してしまったのが、なんと日本のブラザー工業でした。

実は日本の「ソフトベンダーTAKERU」がジョブズの講演と同じ年に構想開始、3年後には本格サービス開始していた

私自身は20〜30年前にはMSXやPC-98などを所有して使っていて、まだソフトウェアはパッケージ販売全盛期の時代に、「ソフトベンダーTAKERU(初期は武尊、Wikipedia参照)」という、コンピュータショップに設置されたオンラインソフトウェア自動販売機が存在しました。私もよく使っていたこの仕組みは、実はブラザー工業の安友雄一氏が1983年に既に構想していて、スティーブ・ジョブズが上記で語っていたのと同じ年になります。そして2年後の1985年にはシステムが完成して試験運用を開始、そして翌年の1986年には本格サービスを開始しています。

もちろんソフトベンダーTAKERUはコンピュータ同士を繋いだ直接のオンライン販売という形ではないのですが、実際オンラインで販売機にデータを送っていて在庫の心配がないことから、構想的には似たようなものでした。実際にジョブズが語っていたのと同じ時期に具体的な構想を始め、そしてすぐに本格的に運用したのは日本のブラザー工業の安友氏だったのです。ジョブズと同じくらい、いやそれ以上に偉大なことかもしれません。

このソフトベンダーTAKERUは、当時電電公社から民営化して外部からも接続することが可能となったNTTの電話回線を使って、サーバからネットワークでデータを送り、それをフロッピーディスクに書き込んだり書き換えたりできるというものでした(一部の容量の大きいソフトウェアは、各TAKERUの中にあるハードディスクの中に夜の時間を使ってダウンロードして保存し、そこからフロッピーディスクに書けるようにしたなどの涙ぐましい努力をしていたようです)。当時はまだ回線使用料が高く、売上よりも回線使用料の方がかさんでしまって赤字だったそうですが、安友氏が会社から引き出した撤退費用を使い込んで改良したところ黒字化し、それがその後のMIDIデータ配信によるカラオケ事業(JOYSOUND)の大成功に繋がっていったことを考えれば、すごいことだったと思います。

実は当時6社ほど日本で同じことをやろうとしていたところがありましたが、最終的に商業化できたのはブラザー工業のソフトベンダーTAKERUだけでした。

※ソフトベンダーTAKERUについては、ASCIIさんの安友氏へのインタビューNIKKEI STYLEのインタビューが非常に詳しいですので、ぜひご覧ください!それから、ブラザー工業公式の動画になりますが、こんな面白い紹介動画もあります。

しかし私自身がTAKERUを使用していた当時は、まさか今のようにオンライン、しかもワイヤレスでソフトウェアのやりとりがここまで便利にできるようになるとは思ってもみませんでした。もちろん、端末の高性能化や、安定したネット環境と速い伝送速度が実現したからこそ、今の環境が実現できているのですが。。

ジョブズもさることながら、安友氏の本質を見抜く力と、枠にとらわれない思考法と実行力はやはり大切だなと感じました。あなたはどんなことを感じましたか?

記事は以上です。

(記事情報元:Cult of Mac

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