9月1日、ジョン・ターナス氏のCEO就任の初日に、Apple公式サイトのリーダーシップページが書き換わりました。経営陣リストの先頭は【ティム・クック】から【ジョン・ターナス】へ。クック氏は経営陣の一覧から外れて取締役会のセクションに移り、肩書きは「Executive Chair(エグゼクティブ・チェア)」。そして掲載写真も新しいものに差し替えられています。当ブログで英語・日本・中国の3サイトを確かめたところ、いずれも更新済みでした。

何が変わったのかの一覧
- 経営陣(Executive Profiles)の先頭がターナスCEOに。1997年のジョブズ復帰以来、常にこのページの顔だったクック氏の名前が、経営陣の一覧から消えた
- クック氏は取締役会(Board of Directors)セクションの筆頭に移動。肩書きは「Executive Chair」
- クック氏の写真が一新。メガネをかけ、紺のセーターをまとった穏やかな表情の新しいポートレートになった
- フィル・シラー氏はApple Fellowとして掲載継続。App Storeとイベントの統括からは退いたが、ページには残っている
- エディ・キュー氏の肩書きは「サービス・ヘルスケア担当上級副社長」。ハードウェアは4月に新設された「Chief Hardware Officer」のジョニー・スルージ氏(Apple公式発表)が担う布陣
見逃せないのは、レビンソン氏の静かな交代
今回の更新でいちばん報じられていないけれど大きいのは、ここだと思います。取締役会の名簿で、アーサー・レビンソン氏の肩書きが「Chairman」から「Lead Independent Director(筆頭独立取締役)」に変わっているのです。

レビンソン氏は、ジョブズの死後まもない2011年11月から、およそ15年にわたってAppleの取締役会会長を務めてきた人物です。いわばジョブズ亡き後のAppleの後見人。その会長職が、今回クック氏に引き継がれました。ジョブズの後見人が会長の座を降り、ジョブズの後継者だったクックがそこに座る。CEO交代の裏で、取締役会でも世代交代がひっそりと完了していたわけです。
ちなみに上のレビンソン氏のポートレートも、今回初めて載ったものです。これまでのリーダーシップページでは、取締役は名前のテキストリンクだけで顔写真がありませんでした(当ブログが8月時点の保存版ページと突き合わせて確認)。取締役会に顔写真が付いたこと自体が今回の刷新の一部で、クック氏を頂点とする新しい取締役会を「見せる」意図を感じます。レビンソン氏がどんな人物かは、10年前になりますが当ブログで詳しく書いています。
スティーブ・ジョブズの後を継いだ本当のトップ、Appleの今の取締役会長はどんな人?
【肩書きは変わっても、愛は変わらない】ティム・クック、CEOとして最後の1日。同じ日にシラー氏もApp Store統括を退き、Appleの顔ぶれが一斉に変わった
ターナス氏は、半世紀で8人目のCEO
ところで、ターナス氏はAppleの歴史で何人目のCEOかご存知でしょうか。答えは8人目。1976年の創業から50年で、たった8人です。まず並べてみます。
| 代 | CEO | 在任 | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 1 | マイケル・スコット | 1977〜1981 | 初代、「大人の監督役」として招聘 |
| 2 | マイク・マークラ | 1981〜1983 | 初期投資家によるつなぎ登板 |
| 3 | ジョン・スカリー | 1983〜1993 | 元ペプシ、ジョブズを追放 |
| 4 | マイケル・スピンドラー | 1993〜1996 | 会社の身売り交渉に奔走 |
| 5 | ギル・アメリオ | 1996〜1997 | 在任約500日、ジョブズを呼び戻す |
| 6 | スティーブ・ジョブズ | 1997〜2011 | 倒産寸前から世界一へ |
| 7 | ティム・クック | 2011〜2026 | 時価総額を10倍に |
| 8 | ジョン・ターナス | 2026〜 | 生え抜きのハードウェア屋 |

最初の5人の顔ぶれは、いま振り返るとなかなか味わい深いものです。初代のスコットは、当時22歳のジョブズにはまだ会社を任せられないと、投資家マークラが連れてきた半導体業界の製造畑の実務家。「ブラック・ウェンズデー」と呼ばれる独断の大量解雇で職を追われ、退任後は宝石の世界的コレクターに転身しました(400カラットのサファイアを含むコレクションは博物館の本になっています)。2代目は、そのマークラ本人によるつなぎの登板。3代目のスカリーは「このまま一生、砂糖水を売り続けるのか」という殺し文句でペプシから引き抜かれ、その殺し文句を言った本人であるジョブズを1985年に追放しました。4代目のスピンドラーは、傾いた会社をIBMやSunに売ろうと奔走した末に解任。5代目のアメリオは再建屋として乗り込み、在任約500日ながらNeXT買収でジョブズを呼び戻すという結果的に社史上いちばん重要な決断をして、そのジョブズに退場させられました。
6代目は、その追放された創業者本人の帰還でした。倒産90日前とまで言われた会社に戻ったジョブズは、以後2年半も年俸1ドルの「暫定CEO」を名乗り続け、正式に肩書きを受け入れたのは2000年になってから。そこからiMac、iPod、iPhoneへと続く復活劇は、もう説明不要でしょう。7代目のクックは病床のジョブズから直接バトンを受け、15年かけて会社の時価総額を10倍にして、昨日去りました。そして8代目のターナスは2001年入社、iPodの時代からハードウェア開発ひと筋の生え抜きです。実は50年の歴史で、エンジニア出身の生え抜きがこの椅子に座るのは初めてだったりします。
つまり最初の20年、AppleのCEO職は追放と解任と身売り未遂の連続でした。ジョブズ復帰後の29年でCEOは3人だけ。そして「健康な前任者が後継者を指名し、円満に交代して会長に残る」形は、実は8人の歴史で今回が初めてです。ジョブズからクックへの継承は円満でしたが、あれは病がもたらした悲しい交代でした。当たり前のようにページが書き換わる静かな9月1日は、Appleの歴史ではまったく当たり前ではないのです。
英語・日本・中国、3サイト同時に切り替え
ここからは中国在住者としての話です。今回の更新で確かめたかったのは、中国サイト(apple.com.cn)の反映がいつになるかでした。ローカライズ物の更新は本国から数日遅れることも珍しくないからです。結果は、9月1日のうちに英語・日本・中国の3サイトとも切り替え済み。中華圏の担当として葛越(イザベル・ガー・マー)氏が引き続き掲載されている点も含めて、中国向けの扱いに手抜かりはありませんでした。
昨日の記事で、ジョブズ時代に軽視されていた中国が、クック時代に最重視へ転じた話を書きました。CEO交代の初日に中国語ページまで一糸乱れず切り替わっているあたり、その姿勢はターナス体制でもそのまま続くとみてよさそうです。
新しい写真の顔

最後に、差し替わったクック氏の写真の話を。新しいポートレートは、メガネに紺のセーター、力の抜けた笑顔です。CEO在任中の写真と見比べると、明らかに柔らかい。重荷を降ろした人の顔というのは、こういう表情のことを言うのだと思います。
記事は以上です。
(記事情報元:Apple Leadership〈英語・日本・中国の各版を2026年9月1日に当ブログが確認〉)
※アイキャッチ画像はイメージです。人物写真の出典: クック氏(新旧)・レビンソン氏・ターナス氏はApple公式サイトおよび同社サイトの保存版より引用。スカリー氏は Web Summit(CC BY 2.0)、ジョブズ氏は Matt Yohe 氏撮影(CC BY-SA 3.0)、いずれも Wikimedia Commons より。
