一般的に、頭蓋損傷を受けた患者は、頭蓋内圧や頭蓋内温度の観察が必要となり、その観察期間は少なくとも5日間とされている。しかし頭蓋内の観察は実際には容易なことではない。そんな中、アメリカのJohn Rogers教授が率いる研究チームが、弾力性と伸縮性を持ち、可溶性を持つことができるセンサーチップの研究開発をしているという。そしてこのチップの性能は、ちょうど5日前後の正確な観察要求を満たすものだという。
このアメリカ・イリノイ大学の研究チームの以前の研究成果として、タトゥー(入れ墨)センサーフィルムが挙げられる。軽くて薄くしかも見た目がよく、そしてデザインも豊富なセンサーは、身体に貼り付けて「携帯」することが可能だ。もちろん便利なだけではなく、紫外線や汗の成分などを正確に測定できる。正にブレスレットタイプよりもかっこよくしかも役に立つというスグレモノだ。
現在世界中で伸縮可能なセンサーを研究しているチームは少なくないが、Rogers教授の先見性と将来性は群を抜いているといわれている。
数日前、Rogers教授は学術論文誌の《Nature》で、最新のバイオテクノロジーを利用したシリコンフィルムチップの研究結果を発表した。このフィルムチップは温度と圧力の測定に用いられ、頭蓋内に埋め込むことができ、また数週間後には完全に分解されるという。Rogers教授の研究レポートでは、このチップがマウスの大脳に埋め込まれた例を挙げ、電線が分解されることで信号を送るという例や、データケーブルを使って信号を送る例が示されている(後者は無線でのデータを伝送することはできるが、完全には分解されない)。
このテクノロジーを基礎としてテストを繰り返すことで、流体や動き、そして酸性やアルカリ性などのデータのセンサーを作り上げ、また頭蓋内だけでなく心臓や皮膚、そしてその他の体内器官にも応用できるという。
Rogers教授のチームが研究開発しているこのフィルムチップはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)の範疇に入り、原材料は主にPLGA(生分解性ポリマー)となっており、現在のところ医療用の体内に吸収されるタイプの縫合糸の材質と近いものとなっており、主にナノシリコンや金属箔を基底にしている。箔の上に刻まれた模様が気孔を発生させ、フィルムチップが流体圧力を受けた際に傾けることができるようになっている。またフィルムチップ上の圧力抵抗チップがデータの変動を感知するという仕組みになっている。
そして更に研究レポートでは、このフィルムチップは少なくとも5日は安定した機能性を保持し、そして3週間以内に完全に分解され、体内に雑物を残すこともないと説明されている。
現在、ワシントン大学の神経外科医がテストに協力しており、Rogers教授はこのフィルムチップが大型の動物の体内における複雑なテストができること、また人体による臨床実験が5年以内に始まることを期待している。またRogers教授も更にテクノロジーを進化させ、体内への残留期間を4週間(1ヶ月)に延長するように計画しているという。
可溶性のフィルムチップの研究が軌道に乗った今、Rogers教授とチームには新たな課題が与えられている。センサー以外にも、このチップに更に別の機能をもたらすことができないか、ということだ。例えば微電流によって損傷した神経の回復を促進させたり、またプログラムによる操作が可能なマイクロデバイスによって、一定の薬剤を微妙に注入するなどの機能だ。
画蛇添足 One more thing…
もし複雑な機能が実現できるようになったら、そして体内に残る時間が稼げるようになったら。。医療だけではなく、体内埋め込みスマートデバイスが実現し、スマートフォンなどはいらなくなるかもしれない。
人体への悪影響は気になるところではあるが、将来的にはかなり期待できるテクノロジーではないだろうか。
記事は以上。
(記事情報元:TECH2IPO)