今週火曜日、Appleのティム・クック(Tim Cook)CEOが11月11日にリリースが開始された新型iPad【iPad Pro】について、「私はiPad Proの登場でもうこれだけで仕事ができるので、ノートPCを買う理由が見つからなくなった」とインタビューでかなり自信たっぷりにiPad Proの宣伝をした。
物議を醸したティム・クックCEOのiPad Proに関する発言、その後クックCEOはMacとiPadの統合を否定
しかしこの発言がかなり物議を醸した。自社のMacBookの存在を危うくする、或いはMacとiPadの統合を示唆するような発言であったからだ。これに対して、Appleの共同創業者のスティーブ・ウォズニアック(Steve Wozniak、Woz、以下ウォズ)は「私はラップトップ男だ、ティム・クックがどう言おうと」とコメントし、暗にクックCEOの発言を批判した。
その後Appleがモバイルデバイス用OSのiOSとMac用OSのOS Xを統合を加速するのではないかという憶測がメディアで飛び交うにつれ、とうとう本日、ティム・クックCEOはその噂を打ち消し、iPadとMacが統合されることはない、とはっきりと否定した。
上記の記事によると、ティム・クックCEOは「消費者がMacとiPadの統合を望んでいない」ということを述べているが、正にその通りだ。そしてiPad ProのライバルであるマイクロソフトのSurfaceを意識してか、「統合することによる妥協を消費者にさせたくない」とまで言っている。
iPad ProはノートPCの代わりにはならない、その上様々な準備不足が指摘されている
そもそも、iPad ProにはiOSというモバイルOSの制限がある。マウスやトラックパッドなどのポインタが存在しないため、繊細な操作が不可能だ。またウインドウシステムではないことやマルチタスク切り替えの面でもOS XなどのOSに比べ機能に大幅な制限がある。そんなわけで、ノートパソコンやラップトップパソコン、ウルトラブックなどに取って代われる存在かというと、もちろん用途によるが多くの場合難しいのではないかと思う。上記のウォズの指摘するところでもある。
その上、iPad Proは発売に当たって多くの準備不足が指摘されている。iPad Proの準備不足に関わる現状の問題点をまとめると以下のようになると思う。本体を年末商戦に間に合わせるためだったのかもしれないが、さすがにちょっと拙速なリリースだったのではないだろうか。
目玉商品のはずのApple PencilとSmart Keyboardが明らかに在庫準備不足
9月のiPhone 6s/6s Plus及びiPad Proの新製品発表会の時に、iPad Proのオプション製品としてのみならずiPad Proの目玉製品として紹介されたApple PencilとSmart Keyboard。しかし蓋を開けてみれば、11月11日のiPad Pro発売当日でもApple PencilとSmart Keyboardを購入しようとすると納品までに1〜2週間かかるという状態だった。iPad Pro本体に関しては即日出荷可能に関わらずだ(ちなみに現在は5〜7営業日)。そして記事投稿現在はApple PencilとSmart Keyboardは4〜5週という納期になっている。
この目玉オプション製品の在庫準備不足の状況は多くの消費者の不満を生み、またメディアの評価もよくない。Appleのようなテック業界の最大手がこのような状況を作り出すべきではないとさえ言われている。あのSAMSUNGでも、ペンについてはセットで同日に販売しているのだ。しかも、SAMSUNGはタブレットでAppleに大幅な遅れをとっているにもかかわらずだ。
結局一部の恵まれたメディアや特別な人物以外はApple PencilとSmart Keyboardを手に入れられず、満足のいくレビューがネットに出回らないという結果になり、これはiPad Proそのものの売れ行きにも影響するだろう。
そもそもApple Pencilについては基本的にiPad Proとセット販売するべきだったのではないだろうか。収納方法も用意して。。そこはやはりApple共同創業者のスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)の怨念がそれを邪魔させたのだろうか(ジョブズはスタイラスペンを極端に毛嫌いしていた)。しかもApple Pencilだけでも非常に価格が高い(税抜11,800円)のはいただけない。
また、Smart Keyboardの価格も税抜き19,800円と高く、しかも英語キーボードしかないのは日本の消費者に売るには命取りだ。
Apple Pencilの充電方法があまりに奇抜すぎる
Apple Pencilは満充電の状態からのバッテリー持続時間は12時間なので、比較的頻繁に充電しなければならない。自宅など固定された環境であればアダプタ・コネクタを使って充電可能だが、外にいる場合は、多くの人は直接iPad Proから充電することを選択するだろう。しかし、そのためにはiPad ProのライトニングコネクタにApple Pencilを差し込むことになる。そう、上の画像のように。。
さすがにこの”体位”の見た目のカッコ悪さと、Apple Pencilの充電コネクタ部分が折れる危険性を大いに高めていることを考えると、本当にAppleが、しかもあのジョニー・アイブCDOがデザインしたものなのか?と真剣に疑いたくなるほどあまりにAppleに相応しくないではないか。
まあ、Magic Mouse 2でもやってしまったからもう味をしめたのだろうか。。
公式Smart Keyboardの使い勝手がサードパーティ製品に劣る
なぜなら現在Appleの公式オンラインStoreでも購入可能なLogitech CREATEバックライトキーボードカバーがあるからだ。こちらもSmart Keyboardと同様Smart Connectorによってコネクタ接続しなくても無線充電が可能で、しかもBluetooth接続しなくてもいいという特徴を持つ。その上にSmart Keyboardにはないバックライト機能もある。
この製品は上の画像の通り、Appleの公式サイトではブルー・ブラック・レッドの3種類しか色が選べないが、実はLogitecの公式サイトからではスペースグレイ+ブラックと、ブルー+シルバーの2色を加えて全5色から選べるのに対し、Apple公式のSmart Keyboardはブラック一色しか選べない。
上記のようにLogitech CREATEキーボードの方が断然優れているため、Appleも優先的にこのサードパーティ製キーボードを推薦してしまっているほどだ。
もう1つ、最重要なのは値段だ。Logitech CREATEキーボードは税抜18,800円で、公式Apple Smart Keyboardの税抜19,800円と1,000円も安いことだ。コスパがどちらがいいかは一目瞭然だろう。
バッテリー容量が10000mAhを超えたが充電効率がよくない
iPad Proのバッテリー容量は10,307mAhとこれまでのiOSデバイスの中で最大となった。
しかしAppleはこの大容量バッテリーのために最適化されるべき、もう少し大きな電圧の電源アダプタを用意しなかった。iPad Proについてくるのは依然としてこれまでのiPad Air 2と同様2.1Vのもので、iPad Proのバッテリの充電状態を0%から100%までの満充電するために最低5時間かかる。これは多くのハイエンドノートPCの充電必要時間よりも長い。
iOS 9がまだiPad Proの解像度に最適化されておらず、サードパーティアプリはもっと悲惨に
iOS 9.1はiPad Proのために相当早い段階から準備されていた。そのため、多くの人がiOS 9.1はiPad Proに最適化されていると考えていたが、まさかAppleが全然それをやっていなかったことは誰が想像できただろうか。
iPad Proのデスクトップ(Springboard)画面のアイコンとアイコンの間には以前の当ブログ記事で紹介したように解像度でいえば初代iPhoneの画面がすっぽり入って更にあまりあるほど開き、実際の距離でも指二本は軽く入るほどだ。この空間の利用の仕方はあまりに”もったいない”。その上、サードパーティアプリのiPad Proのサポート状況もまだまだ悲惨な状況で、まるでiPhoneとして画面の大きさが初めて変更されたiPhone 5発売当初を彷彿とさせる。Appleがこの問題を短時間で解決しない限り、iPad Proの訴求力は落ちるばかりだろう。
iPad Proとオプション製品セット価格でほぼMacBook Air 13インチの128GBストレージモデルが余裕で買える
上に書いたとおりコスパの話をすれば、iPad Pro全体から考えてもコスパが高いかどうかは疑問だ。
iPad ProをラップトップPCと同じように使えるようにするとして、iPad Pro 32GB Wi-Fiモデル(最低価格モデル)と、Apple PencilとSmart Keyboardを買おうとすると税抜126,400円となる(上の画像参照)。ところが同じAppleのMacBook Airの13インチ SSD128GBモデルで、メモリを8GBに拡張しても税抜124,800円でiPad Proのセット価格より安い。ちょっとだけお金を追加すれば(つまりiPad Proのセルラー版を買うくらいのお金があれば)、税抜148,000円のRetinaディスプレイつきのMacBook Pro 13インチの最安モデルが買えてしまう。
ちなみにただでさえコスパが悪いといわれている12インチRetina MacBookも、1.1GHz 256GBモデルがMacBook Pro 13インチの最安モデルと同じ価格で買える。
更に納期の面でも、記事投稿現時点でMacBook Proや、MacBook Airはメモリ8GB増設版でも1〜3営業日で手に入る。12インチMacBookに至っては在庫ありで、次の日には手に入る。かたやiPad Proは4〜5週間、つまり1ヶ月以上経たないとキーボードもペンも届かない。
iPad ProはMacやその他ノートPCの代わりに選ばれるほどのものなのか。。
もしAppleファンではない一般ユーザが、何もわからずこのiPad ProとMacBookを価格と納期で見比べた場合、iPad Proを選択する人がいるのかどうかがちょっと疑問だ。
iPad ProはiPad Air 2やiPad mini 4のように電車の中で気軽に取り出せて使える大きさでもない。サイズ的には雑誌の電子書籍を読むのにも最適というが、単に電子書籍リーダーとして買うのであればあまりにも高いといわざるを得ないだろう。
それを補ってあまりある魅力がiPad Proにあるのだろうか。。私は用途が見つけられないためiPad Proを買っていないので何とも。やはりApple Pencilを使うようなクリエイティブな仕事をしている人にはいいのかもしれない。あとはAppleが狙う教育やエンタープライズ市場向けなのだろう。
記事は以上。