Appleが今月12日にリリースした2018年モデルのMacBook Pro 15インチで、CTOで選べる最高スペックのCPU、第8世代(Coffee Lake)Intel Core i9プロセッサは、メインクロックが2.9GHzの6コアで、ターボブーストモードでは最大4.8GHzまでクロックアップできるというその性能もすごいですが、CPUをi9にアップグレードし、32GBのメモリと1TBのSSDに変更すると、税別でも40万円を超えるというその価格にもちょっと痺れます。
MacBook Proのi9チップは、その本領を発揮できるのか?
しかし、このアップグレードしたCPUは、MacBook Proでその本領を発揮できるのでしょうか?というのも、一部のMacファンから、MacBook Proの放熱(排熱)能力に疑問の声が上がっているからです。昨今のMacBook Proはかなりボディが薄くなり、体積も小さく、内部も巨大化したバッテリーなど様々なものを詰め込んでスペースがほどんどなくなっていて、発熱は避けられない問題です。そんな中で、最高スペックのi9にアップグレードすると、その放熱機能は追いつくのでしょうか?
実際にi9チップを搭載したMacBook Proを試した結果:購入は慎重に!?
海外のYoutubeユーザのDave Lee氏が本日、最高スペックのi9チップにアップグレードしたMacBook Pro 15インチの放熱機能をテストした動画をリリースしています。そしてLee氏は、AppleはまだIntel Core i9のために放熱機能を完全に設計し切れていないと結論づけています。なぜなら、CPUが放熱能力が足りないためにその速度が著しく制限されているためで、Lee氏はこの最高スペックを購入するのは慎重に考慮した方がいいと警鐘を鳴らしています。
i9チップのMacBook Proは2.2GHzにクロックダウン、性能は昨年のi7チップモデルに劣る
Lee氏のテストによると、Adobe Premiere Proを実行している間、Inter Core i9プロセッサのクロックは2.2GHzにまで落ちてしまい、ベースクロックの2.9GHzまでも満たないということで、ターボブーストモードなど望むべくもないというのです。いくらプロセッサが強力でも、その潜在能力はその箱の中に収まってしまい、Appleがもっとよい放熱モジュールを作り出さない限り、今後内部スペックのアップデートによって、厳しい放熱問題とクロックダウンという屈辱的な状況を招くのは避けられません。
Dave Lee氏は更にPremiere Proの動画レンダリングに要した時間のデータも公開しています。それによると、Core i9を搭載した2018年版15インチMacBook Proの性能は、2017年のCore i7のMacBook Proよりも劣っているということです。2018年版のi9チップを搭載したMacBook Proは、レンダリングに39分かかっていますが、2017年版のi7搭載MacBook Proは35分しかかかっていません。
更に、同じi9チップを搭載したWindowsのラップトップ、GigabyteのAero 15Xは同じ動画のレンダリングでやはりi9搭載のMacBook Proよりも7分速いという結果になっています。
Premiere Proは確かにmacOSに最適化されていないものの、同じmacOS、同じMacBook Proで実験した結果でも差があるので、やはり2018年モデルのMacBook Proでは、i9の性能が十分に発揮されていないどころか、性能がダウンしていることは明らかです。
冷凍庫の中では最高の性能を発揮。。しかし非現実的
Dave Lee氏は試しに、2018年版15インチMacBook Proを冷凍庫に入れてテストをしたところ、上記のPremiere Proのレンダリングが27分で完了したということです。しかしさすがに冷凍庫のような環境で仕事をするわけにいかないので、こんな状況は非現実的です(熱狂的なApple信者の中には、たとえ火の中水の中!という方もいらっしゃるかもしれませんが)。
排熱を助けるような、クーラー機能つきのサポート台などを導入するのも手かもしれませんが、どのくらい効果があるかどうかはわかりません。
Appleなら、MacBook Pro専用の冷凍庫をリリースするかも。。いやいやそれは冗談にしても、もしかしたらサードパーティが何か考えるかもしれません。
高い金を出して最高スペックを買っても、性能が発揮できない可能性も
そんなわけで、Premiere Proの動画レンダリングテストのみですが、Core i9チップを搭載した15インチMacBook Proの発熱による速度制限によって、昨年の型落ちのMacBook Proの、しかもi7チップモデルに劣ってしまう結果になってしまいました。
そうなると、ユーザにとっては高い金を出したのに性能が制限されるということになり、さすがに大きな不満や不公平感を感じてしまうのは避けられないでしょうね。そしてプロユーザにとっては尚更、そのスピードダウンは直接業務効率にも影響するため、許せるものではないでしょう。
Lee氏のテストは非全面的だが、指摘は正しい
このLee氏のテストはもちろん全面的なものではなく、一部の性能ダウンを示唆しているものにすぎません。しかもかなり極端に、CPUに負担をかける処理をしています。また、異常な発熱によってクロックダウンをすることでCPUを保護するのは、ポータブルデバイスでは当たり前に行われていることです。
そんなわけで、Lee氏の動画を見たからといって、買うか買わないかの結論を出すのは些かやりすぎかもしれません。しかしLee氏がMacBook ProはCPUをアップグレードするのであれば放熱モジュールも同時にアップグレードすべきで、Appleはi9プロセッサ(だけではなく今後更新されるCPUも)、もっと最適化すべきではないかという指摘は、的を射ているともいえます。
Appleからはコメントなし(追記:その後対策)
現在のところこの動画について、Appleは何らコメントは出していませんが、以前MacBook Proで32GBのメモリを採用しないのはバッテリーの持続時間を気にしているからとAppleの幹部達がメディアのインタビューに答えていたことがありました。もし当時の幹部達の言うことが正しければ、本来AppleはMacBook Proに対して慎重なアップグレードをしてきたということになります。
しかしここに来て、まだ発売後数日の間に1ユーザの実験によって、放熱性が甘く、型落ちのデバイスよりも遅くなってしまう実証をされて指摘されてしまうとは、Appleにしてはあまりに事前のテストが甘かったとはいえないでしょうか。
※追記:その後AppleはmacOS 10.13.6追加アップデート(パッチ)をリリースし、速度制限を改善していて、性能にはかなりの改善がみられていますが、Core i9の最大の性能を発揮するのはやはり難しいようです。それよりも、蒸気のような状態で出荷したということの方が問題のような気がします。
小龍のひとりごと:MacBookは更に排熱問題を抱えるので、アップグレードは難しい?
私自身は今年の新型MacBook Proのi9モデルにちょっと食指を動かされていたのですが、今回の動画を見てさすがに買う気がなくなってしまいました。秋にアップグレードされると噂されているMacBookにも興味があったのですが、MacBookはファンレス設計なので、放熱性の限界点は更に低く、これ以上のアップグレードは望めないかもしれません。
思わぬところでボトルネックが来てしまった感のあるAppleのMacBook Pro。来年以降は全体のデザインを含めて見直しを迫られる可能性もあります。そして、今年のi9にアップグレードした15インチMacBook Proを買った人はババを引いたということになってしまうかもしれません。。
もちろん、実際にこの最強スペックのi9チップ搭載MacBook Proを購入した人の使用レビューが多く出てくれば、その真相が明らかになってくることでしょう。そこまでスピードダウンを感じないという方は、普段の作業にそこまでの処理を必要としない方なのでしょう。ただ、動画処理などでバリバリに使っている本当のプロの人にとってはもともとMacBook Proは物足りないデバイスで、恐らくiMac Proを買っているはずですよね。
また外付けGPUの「eGPU」などを使えば、内蔵GPUの負荷が減るため、熱対策にはかなり効果的かもしれません。ただ、そのためにまたお金をかけるのは。。というのはあります。
記事は以上です。
(記事情報元:Apple Insider)