先週当ブログでもお伝えしたとおり、Appleの実験室には数種類のタッチペン(スタイラス)のプロトタイプがあったことが元Apple社員のエンジニアから暴露された。これらのAppleのタッチペンのプロトタイプを見たことがある人はごくごく少ないと思われるが、確実に存在していたということだ。約4年前、Appleは少なくとも3種類のタッチペンを開発していたといわれている。そしてその3種類にはそれぞれ別のタッチテクノロジーが使われていたというのだ。
しかしAppleとタッチペンの歴史は実はその4年間だけに留まらない。当記事は中国のメディアWeiPhoneの記事の翻訳+意訳だ。この記事ではAppleとタッチペンと共に歩んだ日々を振り返り、そしてこれからのAppleとタッチペンの将来の展望も予測されている。
タッチペンが付属していたNewtonは打ち切りに
1992年に発表され、以前“パームトップコンピュータ”と呼ばれたデバイスの走りとなった、パーソナルデジタルデバイス【Newton】は、Appleにとってもスマートパームデバイスの初めてのテストマシンとなった。多くのAppleの初期製品にはタッチペンが付属しており、手書き文字認識もついていた。ユーザはNewtonでスケジュールや連絡先情報の管理ができた。大きさはiPad miniほどだったが、かなり分厚かった。
Newtonはタッチペンで直接ディスプレイの上で字や絵を描くことができた。ちょうど今のSAMSUNG Galaxy Noteのような感じだ。しかし当時のNewtonの手書き認識ソフトはとても使いにくく、多くの人がNewtonにはその欠点があることを指摘していた。というのも、手書き認識辞書にはたったの10,000単語しか入っていなかったからだ。
当時、Garry Trudeauは4コマ漫画”Doonesbury”でNewtonを嘲ってこんなことを描いていた。Newtonで「テストのために書き込みをしています(I am writing a test sentence)」と書いたら、「シャムは原子兵と戦っています(Siam fighting atomic sentry)」と認識された。もう一度同じことを書いたら、今度は「イアンは味覚に乗っています(Ian is riding a taste sensation)」と認識されたという。
しかしApple Newtonはある意味先を行きすぎていたデバイスだったともいえる。市場ではまだこういったデバイスの需要があまりなく、数十万台しか売れなかった(革命的な製品にとってはそれでも十分な数が売れたという人もいる)。この販売台数はAppleの予測よりあまりにも低すぎた。あのスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)が1997年にAppleに復帰後、まずやったことが製品ラインの簡素化だった。そしてその過程でNewtonは完全にジョブズによって打ち切られてしまったのだった。
ジョブズはタッチペン(スタイラス)を嫌っていた
2007年、スティーブ・ジョブズはサンフランシスコで行われたMacWorldで初代iPhone(iPhone 2G)を発表したとき、タッチペン(スタイラス)への嫌悪感をあらわにした。「誰がスタイラスなんか必要とするんだ?持ち運ばなくてはいけないし、もしなくしたら面倒なことになる。だから我々にはスタイラスは必要ないんだ」。
また米CNNによると、ジョブズの伝記本を執筆したウォルター・アイザックソンに対し、ジョブズは次のように語ったという。「我々には神が与えてくれた10本のスタイラスがある。それに代わるものを発明するのはやめようと考えた。」
2010年、ジョブズは更に「もしスタイラスが付属している製品を見かけたら、それらはぶっ壊されるということを意味している」とまで語っている。
Appleの新製品の噂情報を頻繁に出すことで有名なKGI証券のアナリストMing-Chi Kuo(郭明錤)氏のレポートによれば、Appleは従来よりも大型の12.9インチディスプレイを搭載した”iPad Pro”をリリースし、それにはタッチペンが付属するとしている。Kuo氏によれば、人の指に比べ、タッチペンは更に正確にタッチすることができ、マウスやキーボードよりも便利だと指摘し、「そういうわけで、我々はAppleのタッチペンは、12.9インチのiPad Proのユーザ体験をよりよいものにしてくれると考えている」としている。
Ming-Chi Kuo氏は更にレポートで、大部分のユーザは最初はタッチペンを使わないだろうとしており、そのためAppleはタッチペンをこの大型タブレットデバイスiPad Proのオプションとするだろうとしており、必ず買ったらついてくる付属品にはしないだろうと予測している。その他、もしタッチペンが付属するとそのことが12.9インチiPad Proの価格の上昇に繋がり、それが消費者の購買意欲を削ぐ可能性があることも指摘している。
Ming-Chi Kuo氏はAppleのタッチペンは最初の1年はそれほど複雑な機能を搭載しないと予測している。しかし今後アップグレードしたバージョンではコンパスや加速度センサーを内蔵し、先進的な機能が追加されるかもしれないとしている。例えば、3D手書き認識などだ。
Appleの主なタッチペン(スタイラス)の特許
Appleはここ数年、タッチペン(スタイラス)に関する重要な特許を数多く取得している。
まずはタッチペン全体の性能を強化する技術特許だ。この特許は“Active Stylus”と題されており、このテクノロジーによって尖った電極を持ったタッチペンが「電子タッチセンサーパネル」とインタラクティブに反応し、ユーザがメニューやボタン、文字をタップするのをサポートするという。このテクノロジーはタッチペンの徹底的な改造というよりも手のひらサイズのデバイスのためのもので、またこの機能は以前のタッチペンとは異なるものだ。しかしこの技術特許を使えば、コストを上昇させることなくタッチペンの正確性を高めることができるという。
またAppleは最近更に重要なタッチペンの特許を取得した。Appleの記述によれば、デジタルデバイスがタッチペンとスクリーンの接触を感知し、ディスプレイされる情報を選択し、またバイブレーションによって表面の質感をバーチャルに表現されるというものだ。タッチペンの中に埋め込まれたカメラやセンサーで、ユーザはタッチしたり動かしたりしているところに描かれている場所の質感、例えば木材や紙、ガラスなどを感じるようになる。またタッチペンを動かす力の入れ具合もバイブレーションで反応が返され、聴覚やその他のシグナルによってユーザにそれが伝わるという。このタッチペンの使用範囲はデジタルパネルのみならず、ペンで実物にタッチすると接続されたデバイス上にその3D画像が表示されるという使い方もできるようになるという。
これはかなり未来を感じさせるテクノロジーだ。
まとめ
当時のApple Newtonの先を行きすぎたテクノロジーと概念は、業界に十分に理解されなかった。また自身のソフトウェアの欠陥があったため(技術が追いついていなかったともいえる)、タッチペンの本来の効果を思い通りに発揮できなかったという一面もある。あれから時代は進み、ハードウェア技術や性能もソフトウェア技術も、そしてタッチペンそのものの技術も、現在ではそれほど難題ではなくなった。またiPadのタッチペンに対する市場の需要についても、先見の明があるメーカーはどんどんタッチペンの競争に入ってきている。例えばWacomのBambooシリーズや、Adonit JotやApplydea Maglus等、既にiPad用のタッチペン市場ではかなりホットで受け入れられている製品も存在する。これらを見れば、iPad用タッチペンの市場での潜在需要は推し量れるというものだろう。
ある人はこう思うだろう。今のAppleがタッチペンをリリースしたら、ジョブズが天国で怒りまくるのではないかと。しかし多くのiPadのディープでギークなファンは、諸手を挙げてAppleがオフィシャルにタッチペンをリリースすることを歓迎するに違いない。iPadの専門性が高まる中、Appleはもう一度自らとタッチペンとの関係を見直し始めているのかもしれない。今やAppleがタッチペンをリリースするかしないか、という段階よりも、いつリリースするか、という段階に来ているといっても過言ではないかもしれない。
記事は以上。
(記事情報元:WeiPhone)