Wall Street Journal(以下WSJ)の報道によると、Appleは日本で最も早くて来週から、iPhone XRを値下げするということです。ちょっとびっくりですね。
Appleとしては非常に珍しい、販売直後の値下げ
Appleとしては、製品販売開始1ヶ月後に価格を下げるというのは滅多にないことで、特にiPhoneはこれまでは1年経って次のモデルが出るまでは値下げをすることはほぼありえませんでした。しかし今回iPhone XRにのみそのような特別措置をするというのは、やはりiPhone XRの売り上げが特に日本で思うように伸びていないからということがいえそうです。
日本では今もApple公式で購入可能なiPhone 8が人気ですが、その理由はやはり価格が安いからでしょう(もちろん、Face IDではなくホームボタン+Touch IDを使いたいというニーズもあると思います)。
ちなみに、日本での2018年10月26日〜11月20日のスマートフォン売り上げ人気機種ランキングは以下の通りです(調査:BCN)。
背景としてiPhone XRの売り上げが伸びず、生産調整も
また、サプライチェーンの内部の人がWSJに語ったところによると、Appleは既に昨年モデルのiPhone Xの製造再開をしているそうです。これはiPhone XS用にサムスン(SAMSUNG)から発注契約に従って一定数購入している有機ELディスプレイ(OLED)がiPhone XSの販売不振により余り気味になっているため、1世代前の廉価で販売可能なiPhone Xにも流用可能なため、製造を再開して売りさばこうという意図が見え見えです。ただ、iPhone XはiPhone XS/XS Max/XR発表イベント後Apple公式ストアでは買えなくなってしまっています。恐らくキャリアやプレミアムリセラーなどに流していく方針なのかもしれません。
なおReutersが報じたBloombergの情報によると、Appleの最大のiPhone組立委託先、Foxconn(フォックスコン、富士康)内部から流出したメモから、Foxconnはコスト削減に入っていて、その金額は200億人民元(約3,258億円)にものぼるとされています。その理由は、非常に困難で競争に満ち溢れた2019年を乗り切るため、ということで、そのうち10%は非技術的な労働力の削減、つまりリストラによって実現するというものです。Foxconnの組立業務全体のコストが60億人民元で、削減目標の3分の1を占めています。
Appleは年末ホリデー商戦が始まる前に今年の新型iPhone 3機種(iPhone XS/XS Max/XR)の発注を減らしています。Lumentum、QorvoやJDIなどでは既に生産キャパの超過によるラインの停滞や在庫による経営圧迫が発生しています。特にその中でも、iPhone XRの発注が最大に削減されたようです。
AppleはiPhone XRがリリース発表されてからその発注台数を総生産数の50%に増やしましたが、その後発注台数をその7000万台から3分の1を削減したとされていて、その影響が各サプライヤーにも出ています。一部のサプライヤーでは、従業員から人員削減に対する抗議も出ているということで、今後のiPhoneの発注状況や値付けの動向が注目されます。
iPhoneは価格が高くなりすぎた、ただ日本は状況が特殊なのでどう値下げ調整するのか?
iPhoneはここ数年、毎年値上げされています。さすがにちょっと高くなりすぎていて、その価格が上がった分の新機能がそれほどないという感覚をユーザに与えているのかもしれません。
ただ、日本ではiPhoneの殆どはキャリア経由で販売されていて、Apple Storeで単独で定価通りに買う人の割合は少ないといわれています。ユーザの殆どは大手三大キャリアの2年縛りの契約で、月賦払いをしているパターンが多く、そこまで高いイメージはないのかもしれません。Appleが値下げをしても、キャリアがどこまで値下げをするのかが焦点となってくると思われます。
日本だけ値下げをすると、周辺他国との価格差が生まれる
更に、もしApple Store公式価格も含め日本だけ値下げをすると、周辺他国との価格差が生まれてくるのも問題です。もし価格差が相当生まれるようになれば、中国から転売ヤーが利ざやを狙ってこぞって購買に来る可能性があります。しかしもしそのようなブームが起こってニュースとなったならば、逆に炎上商法でiPhone XRが話題となって更に売れるかもしれません。Appleはそれをわざと狙っているのでしょうか?
iPhone 5cの失敗を彷彿とさせる?
既に多くのところで書かれていることとは思いますが、この状況はかつてのiPhone 5cの失敗を彷彿とさせます。当時、iPhone 5sというフラッグシップモデルに対して、カラフルなプラスチック筐体を採用した廉価版のiPhone 5cを出したところ、Appleは機種毎の出荷台数を発表していないものの、外部のマーケティング調査の結果それほど売れずに失敗に終わってしまったからです。カラーバリエーション豊富なiPhone、という意味ではiPhone XRとiPhone 5cは似ています。iPhoneは基本的にはカラーバリエーションは大変シンプルなものでした(iPhone 5までは初代iPhone 2Gのアルミ+黒ツートンを除きブラックとホワイトしかありませんでした)。Appleはスティーブ・ジョブズの復帰と会社の復調の象徴ともなったiMacやクラムシェルのiBookのカラーバリエーションが非常に豊富だったため、そこで味をしめたのかもしれませんが、iPhone 5cは明らかに失敗でした。
ただ、今回のiPhone XRがiPhone 5cの時と状況が異なるのは、メインプロセッサ(SoC)はフラッグシップモデルのiPhone XS/XS Maxと同等のA12 BIONICチップを搭載していること(iPhone 5cは1世代前のiPhone 5のSoC搭載でした)、そして発売時期がiPhone XS/XS Maxよりも1ヶ月遅れたこと、また価格がiPhone 5cほど安くはならなかったことです。
iPhone XRはiPhone XS/XS Maxと異なり有機ELディスプレイではなく液晶ディスプレイを採用し、3Dタッチをなくして背面カメラもシングルレンズにしたという機能上の制限はありますが、それでも実用には十分なレベルです。価格だけ調整すれば売れるとAppleは踏んだのかもしれません。ただ、やはり日本だけ値下げするというのは少々不可解です。もっと大きな市場、米国に次いで世界第二位の市場となっている大中華圏などで値下げに踏み切らないのは何か理由でもあるのでしょうか。
記事は以上です。
(記事情報元:MacRumors、Wall Street Journal、Reuters)