Appleのハードウェアエンジニアリング担当副社長デイブ・パクラ氏が、YouTuberのクリストファー・ローリー氏のインタビューで、新しいiPad mini(A20 Pro)の画面がOLEDになったのにProMotionに対応せず60Hzのままである理由を説明しました。9to5MacとMacRumorsが10月29日(米国時間)に報じたもので、パクラ氏は「画面の体験は1つの数値だけで決まるものではない」と述べ、OLEDの画素の応答速度がLCDより1桁以上速いので動きのぼやけが大幅に減る、と語っています。同じインタビューでは、スピーカーの穴を無くした「Acoustic Display」が画面そのものを振動させて音を出す仕組みも説明されました。新しいiPad miniは日本では119,800円(税込)からで、Apple日本公式ページには11月6日発売と出ています。当ブログでも発表時にお伝えしたとおり、Appleの仕様ページはリフレッシュレートの数字を省いたままです。

「画面の体験は1つの数値では決まらない」パクラ副社長の説明
MacRumorsが引用したパクラ氏の発言は「Display experience is about more than just a single spec(画面の体験は1つの数値だけの話ではない)」です。続けてOLEDの画素の応答は「more than an order of magnitude faster(LCDの画素の応答時間より1桁以上速い)」で、「Motion blur is significantly reduced compared to LCD(動きのぼやけはLCDと比べて大幅に減る)」とし、コントラスト・輝度・色も挙げて「this is just a killer display(とにかく最高の画面だ)」と締めています。動画はローリー氏のチャンネルで公開されています。Appleの日本語のプレスリリースもパクラ氏のコメントを載せていますが、ProMotionとリフレッシュレートの話は省かれています。
Appleの仕様ページで確かめると、画面は8.5インチのSuper Retina XDR OLEDで、解像度2,316×1,512ピクセル、326ppi、全画面の輝度が600ニト、HDRのピーク輝度が1,200ニト、最小輝度が1ニト、コントラスト比は2,000,000:1です。前のiPad mini(A17 Pro)はAppleのサポートページによるとIPS方式のLCDで輝度500ニト、326ppiでしたから、画素の細かさは同じまま、通常の明るさが2割増し、ピークは2倍超、黒はOLEDなので画素単位で消灯できる、という進化です。ここだけ見れば確かに大幅な進化で、パクラ氏の言う通り数値はほぼ全部よくなっています。ただし、その仕様ページのどこにも「Hz」の数字が無いのは前のモデルと同じです。
応答速度とリフレッシュレートは別の数字
パクラ氏の説明で注意したいのは、画素の応答速度とリフレッシュレートは違うものを測っている数字だという点です。リフレッシュレートは1秒間に画面を何回描き換えるかで、60Hzなら1コマ約16.7ミリ秒、ProMotionの最大120Hzなら約8.3ミリ秒ごとに新しいコマが来ます。一方の画素の応答速度は、1つのコマから次のコマへ色が切り替わるまでにかかる時間で、一般にLCDは数ミリ秒、OLEDは1ミリ秒を切るとされています。パクラ氏の「1桁以上速い」はこの数字の話です。
つまりOLEDになったことで、スクロール中に前のコマの色が尾を引いて文字がにじむ「残像」はLCDより確実に減ります。これはパクラ氏の言う通りです。しかし1秒間に60コマしか描かないことは変わらないので、iPhone 18 Proのように120Hzで描く画面と並べた時の「なめらかさ」の差はそのまま残ります。スクロールのコマ数そのものは前のiPad miniと同じということになります。MacRumorsのフォーラムで票を集めたコメントが「答えになっていない答え」「60HzのOLEDは60Hz」と反応しているのは、まさにこの点を突いています。残像の話で答えて、コマ数の話には答えていないからです。
もう1つ、前のモデルから持ち越された論点があります。2021年の第6世代iPad miniで話題になった、縦持ちでスクロールすると画面の左右で描き換えのタイミングがずれて見える「ゼリースクロール」です。当時Appleは「LCDの画面では正常な動作」と説明していました。今回Apple自身がLCDとの応答速度の差を売りにした以上、OLEDになった新しいiPad miniで縦持ちのスクロールがどう見えるかは、発売後のレビューで真っ先に検証される項目になるでしょう。
なぜProMotionを載せなかったのか、鍵はパネルの種類と値付け
AppleはProMotionを載せなかった理由そのものについては口を閉ざしています。ただ手がかりはあります。MacRumorsが7月に伝えたリークでは、新しいiPad miniのパネルはLTPS(低温ポリシリコン)のバックプレーンを使ったハイブリッドOLEDで、Samsung Displayの韓国・牙山(アサン)のA2ラインで量産中、リフレッシュレートは60Hz固定ということでした。iPad Proが使っているのはLTPO(低温多結晶酸化物)の2層タンデムOLEDで、Appleの製品ページにも「ProMotion 10Hz〜120Hzアダプティブリフレッシュレート」と書かれています。ProMotionは単に120Hzで描くだけでなく、静止画の時は10Hzまで落としてバッテリーを節約する可変式ですから、LTPOのパネルが要ります。リークどおりLTPSなら、ProMotionは載らないことが決まっていたと考えるのが自然です。
そしてLTPSを選んだ理由は、ほぼ間違いなく価格です。新しいiPad miniは128GBのWi-Fiモデルが119,800円、Appleの購入ページで11インチiPad Proは209,800円からですから、差額は90,000円です。iPad ProとiPad miniの値段の壁を保ったまま、OLEDだけを下ろしてきた形です。ちなみにiPad(A16)もiPad Air(M4)もIPS方式のLCDで、仕様ページもリフレッシュレートの数字を省いています。iPadの中でProMotionがあるのはiPad Proだけという線引きは、今回も守られました。一方でiPhoneはiPhone 18 Proが最大120HzのProMotionに対応していますから、iPhone 18 ProとiPad miniを一緒に持ち歩く人が一番この差を感じるはずです。
Acoustic Displayの仕組み、画面がウーファーで両端にツイーター
同じインタビューでパクラ氏はスピーカーの穴を無くした「Acoustic Display」の仕組みも説明しています。9to5Macによると、iPad miniの画面の大きさと形状は、ちょうど可聴域に共振周波数があり、従来のスピーカーのウーファーと似た振る舞いをするのだそうです。そこで専用のドライバーで画面そのものを励振し、筐体を通して音を出します。パクラ氏によるとこの方式で出せるのは中音域と低音域だけで、高音域は本体の両端に1基ずつ置いたカスタムツイーターが担当し、ガラスとアルミの隙間に隠したポートから音を出します。Appleの日本語の製品ページでは「カスタムツイーターとウーファーをガラスと筐体の下に収めました」という表現です。
穴を開けないので筐体を密閉でき、その結果iPadとして初めてIP67の耐水防塵を取りました。Appleの仕様ページの注記では水深1メートルで最大30分です。画面を振動させる方式は、前のモデルの横向き用ステレオスピーカーと比べて音がどう変わるか、特に机に置いた時と手に持った時で低音の出方が変わらないかが気になるところで、ここも実機レビュー待ちです。音のために画面を振動させているので、Apple Pencil Proで書いている最中に音楽を鳴らしたらペン先に振動が伝わるのか、という素朴な疑問も湧きます。
小龍的にはこう思った
パクラ氏の説明は事実として正しいのですが、聞かれたことには答えていません。応答速度が上がって残像が減るのは本当で、黒が沈むOLEDの画質も本物でしょう。しかし「なぜ120Hzにしなかったのか」への答えは、上で見た通りLTPSのパネルで値段を抑え、iPad Proとの線を守ったからだと考えるのが自然で、それを「画面の体験は1つの数値では決まらない」と言い換えただけです。MacRumorsのフォーラムに「次のiPad miniで120Hzになって、その時はAppleが大々的に宣伝するはず」というコメントがあり、個人的にも今後の商品のために先延ばししたんだろうと考えます。LTPO化は時間の問題で、その時にはProMotionが目玉として売られるのでしょう。
となるとiPad miniは今買うべきか?という考察をしなければなりませんが、電子書籍・動画・ウェブの閲覧が中心で、今までiPad mini(A17 Pro)やLCDのiPadを使ってきた人には、OLEDの黒と1,200ニトのピーク輝度だけで買い替える価値はありそうです。60Hzは今までと同じですから、スクロールの使い勝手はそのまま引き継げます。逆にiPhone 18 ProやiPad Proの120Hzに目が慣れている人は、11月6日以降に店頭で同じページをiPad Proと並べてスクロールしてみてから決めた方がよいでしょう。残像が減った分、60Hzのコマ送り感がかえって目立つ可能性もありますので、そこは皆さんがご自身の目で確認する必要があるといえます。
記事は以上です。
(記事情報元:9to5Mac、MacRumors、Apple(日本)iPad mini 仕様)

