AppleとQualcommが、世界的な特許ライセンス契約を更新しました。Qualcommが9月24日(米東部時間)に発表し、新契約は2027年4月1日に発効します。モデムの自社開発を進めるAppleが、通信技術の特許を使う契約は継続するということになります。

2019年の和解から続く8年の契約
当ブログでもお伝えしていたとおり、両社は2017年、特許ライセンス料を巡って訴訟で争っていた関係です。Appleが返還を求めたロイヤリティは、現在の円換算で約1,600億円(約10億ドル)です。9to5Macが振り返る経緯によると、FTC(米連邦取引委員会)の提訴やQualcommの反訴も重なり、対立が広がっていたのです。
しかし転機は突如、2019年4月の両社による和解で訪れました。AppleからQualcommへの支払いと、世界中の訴訟を取り下げることに合意しました。同時に、2019年4月1日発効の6年間の特許ライセンス契約と、複数年のチップ供給契約を結ぶなど、喧嘩していたのが突如として蜜月関係に戻ったのです。
特許契約には2年間の延長オプションがあり、Appleが行使して2027年3月まで延長したことを、Qualcommは2024年1月の決算説明会で明らかにしています。6年+延長2年=8年となっていました。そしてその期間を終える来年2027年4月1日に、今回の新契約へ切り替わることになります。
モデムの代金と、通信技術を使う権利
モデムチップの購入は、通信を処理する部品を買う取引です。一方、特許ライセンス契約で得るのは、特許で保護された技術を使う権利です。Appleが部品の設計を自社で行っても、その中で他社の特許技術を使うなら、権利の処理が必要になります。当然のことですね。もし処理しなければ逆に権利者に訴えられてしまいます(だからこそAppleはパテント・トロールと言われるならず者による権利訴訟を多く抱えているのです)。
Qualcommの2025会計年度の年次報告書では、QTL部門が3G・4G・5Gの標準必須特許などを端末メーカーにライセンスすると説明しています。標準必須特許とは、通信規格に準拠するために使う必要がある特許のことです。チップの販売を担うQCT部門とは別に、QTL部門は権利・特許で利益を産む構造になっているのです。
同じ年次報告書で、Apple、Samsung、Xiaomiはそれぞれ連結売上高の10%以上を占める顧客・ライセンス先に挙げられています。この10%はチップと特許料などを含む全社売上高に対する数字です。Qualcomm自身も、Appleの自社モデムへの移行はQCTの売上高や利益に大きな悪影響を与えると説明しています。QCT部門(チップそのものの販売担当)のお仕事が減ってしまいますからね。
iPhone 18 Pro世代でも続く自社製と他社製の併用
Appleの自社モデムは、2025年2月19日発表のiPhone 16eに搭載したC1から始まりました。約1年7か月後の今月には、C2とQualcomm製モデムを併用するiPhone 18 Proシリーズが登場しています。
日本向けの仕様表には、iPhone 18 ProとiPhone 18 Pro Maxの通信仕様として「Apple C2モバイル通信モデム」が記載されています。米国版の仕様では、AppleはiPhone 18 ProにC2を搭載すると明記しています。一方、TechInsightsの分解調査が確認したのは、米国版iPhone 18 Pro Max(A3473)のSnapdragon X80です。同調査は地域別の搭載状況について追加分析が必要としています。日本版などとの違いは、地域別のモデムを扱った過去の記事にまとめています。
また、米国版の仕様表では、iPhone 18 ProとiPhone 18 Pro Maxの双方がミリ波5Gのn258・n260・n261に対応しています。「ミリ波対応のために必ずSnapdragon X80が必要」というわけではなく、Apple C2でもできるということになります。もちろん、Apple側も特許料を支払った上で実現させているという話になりますね。
新契約の期間と料金は非公表
今回の発表で示されたのは更新と発効日です。ただし、契約期間やライセンス料、個々の特許の範囲は非公表となっています。QTLを率いるJohn Han氏も、契約延長を歓迎するコメントにとどめています。ここから読み取れるのは特許ライセンス関係の継続までで、次のiPhoneに搭載するモデムの選定は、現在高騰し世界的に供給不足となっている半導体チップのパイの取り合いの結果に左右されるということになります。
小龍的にはこう思った
小龍的には、今回の更新から分かるのは、Appleの自社モデムへの移行と特許料の支払いが両立することです。Appleが自社設計でコスト削減できるのは、まずQualcommから購入していたモデムチップ(ベースバンドチップ)という部品の設計と製造に関して内製化をすることで調達代金を下げ、設計や製造に関してQualcommにとられていた手数料ということになります。ただし、通信規格に使う特許・権利にかかるお金は、払わないと法律違反になってしまいます。
Qualcommにとっては、チップの採用を失う場合にも特許ライセンスの取引が続きます。ただし、その収入でチップ売上の減少をどこまで補えるかは、新契約の料金と端末の販売状況次第です。今回の発表で、AppleとQualcomm間のチップ部品の取引は縮小し得る一方、通信技術を使う取引は続く、という関係が暫く今後も保たれることが確定したということになります。
ちなみに今iPhoneを選ぶ人は、購入する国の仕様表で対応周波数やSIM構成を確かめる方が実用的です。日本で買う場合はAppleの日本向け仕様、中国本土・香港版も候補なら地域別のSIM仕様と価格比較が判断材料となります。ただ、搭載されているチップが自社であろうとどこのものであろうと、今のAppleでは調達評価の段階でメーカーによる差異はほぼないようにしているため、気にすることはありません。ただ、iPhone等Apple製品の購入代金の約10%がAppleの特許支払いに使われていることを頭の片隅に置いておくと、その膨大な金額によって食べている企業や人たちが大勢いることが想像できます。もちろんそれらの企業の株主や経営陣が独り占めしているかもしれませんが、そこは資本主義なので仕方がありません。
iPhone Duoの最低仕様でもをきっかり36万円だとすると、3.6万円が今回のQualcommのような特許支払いに使われているということになります。それだけでも中国産の格安スマートフォンが買えると考えると、なかなか痺れますね。
記事は以上です。
(記事情報元:Qualcomm発表、9to5Mac、Qualcomm年次報告書、本文中のApple公式資料・TechInsights。※円換算は1ドル=158.78円、三菱UFJ銀行の公表相場の仲値TTM(2026年9月25日時点、出典)を使用)


