当ブログでもお知らせしたとおり、Apple Payが2月18日、中国大陸でサービス提供を開始した。
当ブログでもお知らせしていた、中国でのApple Payが2月18日から開始するというニュースは本当だった。本日2月18日、Appleは公式サイトで正式に中国でApple Payサービスを開始したことをアナウンスした。 Apple、中国でApple Payのサービスを正式に開始、各銀行やアプリも対応開始 - 小龍茶館 |
中国でのApple Payのサービスについて、当ブログではその後あまり知られていないマニアックなことをまとめて記事にしている。
当ブログでもお伝えしたとおり、2016年2月18日、Appleのモバイル決済サービス【Apple Pay】が中国でサービスを開始した。 中国でもサービス開始したApple Pay、あなたの知らないちょっとマニアックな話 - 小龍茶館 |
中国でのApple Pay、サービス開始直後は爆発的に利用者が増加、メディアも大騒ぎ
そして中国でのApple Payでは、サービス開始12時間で3800万枚もの銀行カードや銀行発行のクレジットカードが関連づけられた。
台湾のDigitimesの報道によると、匿名の中国銀聯(Union Pay、ユニオンペイ)の内部の情報筋が、昨日18日午後5時、つまりサービス開始12時間後に内部で発表されたレポートによると、中国のAppleユーザが3800万枚もの銀聯に対応した銀行カードを紐付けしたということを明らかにしたという。 Apple Pay、中国ではサービス開始12時間で3800万枚のカードが紐付けか - 小龍茶館 |
このApple Payの中国での初日の成功は、中国国内でも多くの伝統的なメディア(新聞やテレビやラジオ等)でもセンセーショナルに伝えられた。
Apple中国の副社長はこの初日の成功について、得意げに自らに1000点をあげたいと豪語し、メディアで騒がれた。
Apple Pay副总裁:给入华首日表现打1000分 Apple Pay副总裁:给入华首日表现打1000分 - |
あるメディアの記者はセブンイレブンの前で一晩夜を明かし、Appleが朝5時にサービスを開始すると、眠そうな店員に声をかけ、「おいおい、ねーちゃん、俺支払いたいんだけど」と声をかけた。店員は全く乗り気ではなかったという。なぜなら30分の研修を受けたのに、最終的に1秒でミネラルウォーター1本が売れただけだったからだ。
記者はミネラルウォーター1本だけを買った後コンビニの外の路上に座り、パソコンを開き、数分後には≪中国で初めてApple Payを実際に使った人になってみた≫的な記事がメディアに送り出されたのだ。
もはや、ほとんど【中国Apple Pay狂騒曲】の様相を呈していた。
その後の続報で、中国でのApple Pay失速が伝えられる。。クックCEOの言う通りにはなっていない?
しかしどうやらその狂騒曲は空騒ぎに終わったかもしれない。その後、Apple Payを実際に使用している人は少なく、関連づけされているカードの数量も伸び悩んでいるという続報が伝えられているからだ。
中国国内の各テック系メディアの情報によれば、中国でのApple Payの実際のユーザ体験(UX)は、ティム・クックCEOが豪語するような簡単で便利、という状況からはほど遠いことに大きな原因がありそうだ。
ということで、中国の各メディアの情報や私自身の体験をもとに、当ブログにてApple Payが鳴り物入りで登場した後すぐに失速した原因を分析し、6つにまとめてみた。
原因1:銀行カードやクレジットカードの関連付けに失敗したり、時間が非常にかかることもある
Appleファンの一般人、金さんは2月28日、わざわざ朝早く起きてすぐにApple Payを試そうとした。「私のWalletはずっと変わらず、カードを関連づける入り口が見つからなかった。私は最初Apple Payのリリース時間が延期になったのかと思いましたよ」。
金さんは自分の端末がiPhone 6sで、iOSも最新バージョン(iOS 9.2.1)なのに、なぜ使えないのかと思ったという。その後ネットで調べたところ、Appleは中国で1億人を超えるユーザを抱えているため、Apple Payの関連付けを何度かの段階的に開放しているということがわかった。
そのため金さんは1時間毎にWalletアプリを開いて、カードを関連付けられないか確認しなければいけなかったという。もう諦めて情熱も冷めかけていた金さんだったが、夜の8時になって、ようやくカードの関連付けの画面がWallet上に現れたという。
「Walletにカードの関連づけのリンクを見つけたんですよ。でも関連づけのステップに非常に時間がかかりました。基本的に1つ1つのステップを進めるために長時間待たなければならなくて、最終的に関連付けできるまでに30分くらいかかりました」と女性の王さんは言う(2G・Edge・GPRS環境下で関連づけ作業を行っていたのではないかという疑念は消えないものの)。
長い時間はかかったものの、やはりまずはスクショを撮って、WeChatのモーメントで友達に自慢したという。「リリースされて初日で関連付けに成功したなんてやっぱり簡単なことではないでしょう。まるで期間限定セールで買えたようなものだわ。私の友達なんて、職場の事務所に20人の同僚がいて、朝の8時半から午後3時までで、1人しか関連付けに成功しなかったって言ってたわ」と王さんは語る。
原因2:使用できる実店舗が圧倒的に少ない、使えるとされている店でも支払いに失敗したり店員が慣れていないなど不便
ネットメディアのある記者が自身でApple Payを関連付けしようとしたところ、上記の金さんと同様、関連付けの画面さえ出てこなかったため、結局関連付けに成功した友人を連れて、リリース初日の2月18日に街中に早速テストに出かけたという。
まず始めに、近くの小型のスーパーマーケットにいったところ、レジに3〜4台のPOSレジを見つけたが、それらのPOSマシンはApple Payが使えるようになるには必須条件の銀聯(ユニオンペイ)のQuick Pass(闪付)に対応していなかった。レジ担当の店員にApple Payについて聞くと、そんなものは初めて聞いたといい、iPhoneをクレジットカードのようにさっとかざすだけで支払えるんですよと話したら、そんなことできるの、と顔中が疑いの表情に満ちあふれていたという。
次にApple Payが使えることを公表しているスターバックスに入ってみたところ、店員は非常に熱心に「もうこれまでお2人、Apple Payでのお支払いに成功していますよ」という。そして早速コーヒーを買ってApple Payで支払おうとしたところ、POSマシンには”カードが無効です””もう一度取引をやり直してください”という表示しか出なかった。
4〜5回試した後、店員は仕方ないという表情で、「カードを発行した銀行にお問い合わせください」とアドバイスしたという。その後同僚がまた別のカードを関連付けてスターバックスにわざわざ行ったが、やはり支払いに失敗したとのこと。
そして最後に有名なチェーンのパン屋さんに行ってパンと飲み物をApple Payで買おうとしたところ、銀聯のQuick Passに対応したPOSマシンが壊れたため、現金を持っていない人はアリペイ(Alipay、支付宝)でしか支払えませんと言われたという。
同僚が関連付けたiPhoneによるテストだったからまだいいが、上記の金さんのように大変な苦労をして関連付けたのに結局使えないとなると、これまでの努力は何だったんだということになる(ちなみに既存サービスのアリペイやテンペイ(TenPay、微信支付)ではこのようなことは滅多に発生しない)。
そんなわけで、中国ではこのような目に遭った人が笑って「王思聡(万達集団=ワンダーグループの総裁の息子、中国一の大富豪の一人息子でつまり中国最強のおぼっちゃまくん。上の画像の人)が怒って既に6台のiPhoneを床に叩きつけて割ったが、まだ今でも彼のブラックカードを関連付けられていない」ということを言いだし、この言葉はあっという間に中国のネット上で流行ったほどだ。
他のメディアでは、実際にApple Payリリースの初日に上海の長寿路の近くのマクドナルドに入ってテストしたという。その時従業員はPOSマシンのアップグレード中で、Apple Payは2〜3日しないと使えませんというので、5日後の2月23日に同じマクドナルドを訪れた。
その時POS機にはApple Payの文字は見かけなかったが、店員はApple Payが使えると答えた。そしてその従業員はApple Payによる支払いの受け方の研修を受けたばかりで、当日来店してApple Payを使った顧客は3人しかいなかったという。
「Apple Payがリリースされたばかりの時はApple Payを使うお客様が多かったですね。なぜなら当時多くの銀行が値引サービスキャンペーンを行っていたからです。1日十数件のApple Payの支払いがありました。でも今は使用する人が減ってきています。なぜならそれほど値引がなくなって魅力がなくなったからではないでしょうか」
記者はマクドナルドで更に30分ほど待って観測をしたところ、十数人が買い物をしたがそのうちApple Payを使ったのは1人だけだったという。
カルフールもApple Payが使用できるとされている店舗の一つだ。記者は、全国のカルフールでApple Payが使用できることを調べた上で、カルフール浦江鎮店に行って、レジ担当の店員がApple Payで支払おうとしている顧客に応対しているのを見たが、明らかに操作に慣れていないのがわかったという。店員もわざわざ顧客に対して「アリペイにしませんか、もっと早く処理できます」と提案していたという。
まだ多くの店舗が準備中という状況で、また店員への研修もままならないといった感じのようだ。ある店舗では、研修を受けた店員が今日は出勤していないのでまた日を改めてきてください、と言われるようなこともあるようだ。
原因3:ユーザ体験がよくない、使用後にパスコードやサインを入れる必要があるところもあり、不便
杭州市の黄さんは2月18日のApple Payリリース初日に朝早くなんとかWalletアプリで広州発展銀行のクレジットカードの関連付けに成功し、昼に会社の近くのマクドナルドで早速Apple Payを使ったところ、POSマシンでパスワードを入力するよう求められたという(中国の銀行パスコードは6桁)。その原因は、銀行アプリなどで”少額決済パスワード入力省略設定”をオンにしていなかったためだという。
ちなみに”少額決済パスワード入力省略設定”は、これまでアリペイやテンペイをしょっちゅう、特にタクシーアプリなどで使ったことがある人は設定している人も多いと思われるが、そういったモバイル決済サービスを使ったことがなかった人は設定していない可能性が高い。
なお、店舗によっては更にサインを求められるところもあるようで(銀聯カードでの決済では必ずパスコードとサインの両方が必要)、まだまだシステムや研修がうまくいっていないことを物語っているといえよう。
原因4:Apple Payに銀行カードを関連付けするとスキミングされるというデマ
速くて簡単で便利というのがApple Payの売りではあるが、もう一つの売りはセキュリティ、安全だ。指紋認証センサーを使った認証によって、iPhoneをなくしても他人に使われることはないのが特徴だ。しかし2月23日午後に、Apple Payによってはマイナスとなるニュースが流れた。ある人がApple Payにクレジットカードを関連付けようとしたところ失敗し、その1時間後に数万元(数十万円)が勝手に使われていた、というものだ。
またメディアの報道によれば、王さんという女性がApple Payにクレジットカードを関連付けたところ成功せず、次の日にクレジットカードが7回も不正取引されており、しかもApple Storeで使用されていたとされ、1862ドル(約21万円)消費されていたという。王さんは相手がApple IDによってクレジットカードの番号を特定したのではないかと疑ったが、カード発行元の銀行は、銀行カードがスキミングされたかApple Payと関係があるのかは原因が特定できないという回答をしたという。その後カード発行元の中国銀行が、もともと中国銀行のクレジットカードはApple Payに関連付けられないため、これは単にクレジットカードのスキミング事件で、Apple Payとは関係がないとしている。セキュリティ専門家も、これはApple Payとは関係がなく、単にこの王さんは以前クレジットカードを安全ではない環境で使用してスキミングされた可能性が高いだろうとみなしている。
しかしこの報道によって、Apple Payのマイナスイメージが拡がってしまったこともあるようだ。
原因5:ライバルのアリペイやテンペイのキャンペーン
既に中国には普及しているといっても過言ではない、Apple Payのライバルとなるモバイル決済サービスアリペイ(Alipay、支付宝)とテンペイ(Tenpay、微信支付)。
Apple Payで支払いが可能とされているマクドナルドで、まさにApple Payリリース日の2月18日から3月10日までの毎週木曜日に、テンペイで支払うと25元(約430円)以上買うと10元(約172円)値引きというキャンペーンを私自身が偶然見つけてしまった。これ、普通にマクドナルドでセットを買うと必ずついてくるちらしだ。テンペイがいかに気合いを入れているかがわかる。
ちなみにアリペイもちらしは入れていないが、マクドナルドで同様に値引を行っており、レジの店員が教えてくれたので私はアリペイで支払った。10元とはいかないが、数元値引きされていた。レシートをなくしてしまったが。。
原因6:ATM現金引き出しも可能だが、対応ATMが少なく手数料がかかる
便利でクイックな支払い以外にも、Apple Payにはあまり人に知られていない機能がある。それはカードなしでも銀行のATMでの現金の引き出しに使えることだ。非接触ICカードに対応しているATMでは、iPhoneをICカードセンサーのところにかざして金額を入力し、銀行カードのパスコードを入力すれば、ATMで現金を引き出すことができるのだ。またWalletアプリ上でもその取引記録を見ることができる。
ただ、既にこのApple Payでの現金引き出しを利用した人によれば、その速度は支払いに比べると速度は遅く、特にメリットはないという。単にカードを忘れて外出し、手元に現金がなくて必要な場合のみ、使えるかもしれないという。更に、銀行や引き出し金額によって2〜50元の引き出し手数料がかかるとのことで、カードを使った方が同じ銀行の同じ都市の口座では手数料がかからないことを考えると、多少不便でもカードを持って出た方がいいと考える人がいるかもしれない。
まとめ:Apple Pay、中国への普及の道はまだ遠い。。
ということで上記の原因のうちいくつかをつぶしていかないと、普及するとは言いがたい状態だ。銀聯のQuick Passの普及がまずは必須条件で、また上記のアリペイやテンペイのようなライバルの既存サービスに優るようなキャンペーンによって爆発的な普及を図らない限り、Apple Payは中国ではマイナーなまま終わってしまうことになる。
もともとAppleはアリペイやテンペイと共に三つ巴による”三国志”状態を狙っていたのかもしれないが、このままではそれさえも怪しそうだ。最初は交渉していたジャック・マー(馬雲)率いるアリババ(Alibaba、阿里巴巴)やアリペイ(Alipay、支付宝)と組めなかったことがかなりの痛手になったに違いない。
画蛇添足 One more thing…
日本でApple Payが始まるとしたら。。中国を他山の石としたいところ。中国の場合は、どんなものにでも「プレオープン(試運転)」期間の設置が認可されている感じがする。民間でも大規模な百貨店でさえ、サービスも品揃えも全然ダメというプレオープン期間が存在する。
まずは始めてみて、実際の運用の中で調整していくのだ。初めからなんでもかんでも完璧にしてからスタートなんて事はできないと考えているからだ。そしてその期間中にそれで調整を進めていって、最終的には顧客の満足できるような形に変えていく。悪くいえば行き当たりばったり、良くいえばフレキシブル、臨機応変なのだ。
たぶん現在のApple Payもそんな感じなのだろう。ただし、万年プレオープンのような銀聯(ユニオンペイ)のQuick Pass(闪付)に乗っかってしまったため、もしかしたらApple Payも今後同様に万年プレオープン状態になってしまう懸念はある(365日年がら年中閉店セール中のお店とどっちがたちが悪いかという話はおいといて)。
そう考えると、日本のようにトラブルが起こらないようにともかく用意周到に準備して、そして実際に何かトラブルが起こったら現場責任者が責任を負わなければならないというシステムも残酷に感じてくるし、全くフレキシブルではない。何が起こるかはシミュレーションはある程度はできるものの、そこに時間とお金をかけすぎて、商機を逸していることはないだろうか。
Appleのことなので、何らかの調整は入れてくると思うが。。ただ、中国ではアリペイとテンペイと戦うのは本当に厳しくなりそうだ。アリペイもテンペイも、指紋認証等生体認証による決済を導入しようと思えばいくらでもできるし、その端末はAppleのiPhoneに限らないからだ。
あとはプライバシー保護やセキュリティ面での戦いということになるが。。Appleは最近のFBIとの確執でそのプライバシーに対する姿勢を強調しているが、中国ではいったいどのようになっているかは正直わからないところではある。
記事は以上。