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iPhone5s 内部チップ詳細仕様(by ChipWorks)

9月20日に世界9カ国同時発売されたiPhone5s。
iPhone5と比べても、外観デザインの変化よりも、
今回のiPhone5sは内部のハードウェアのイノベーションに重点が置かれていると言える。
既に実機が手に入る今、
詳細に内部の技術がいかに優れているかを分析したいところ。
先日の記事でiFixitがiPhone5sの分解修理マニュアルを公開し、
当ブログ記事でも日本語で解説させていただいた。
今回はChipWorksがiFixitが触れなかった更に詳細な仕様にまで踏み込んでいるので、
以下に日本語で解説したい。
特にiFixitが発見できていなかった、
iPhone5sで追加されたM7チップも発見されているので注目だ。

■iPhone5s ロジックボード(メイン基板)全体の設計

A7チップと当時未知だった2種類のMEMS(マイクロ電子メカシステム)の他に、
ロジックボード上にはこれまで見慣れた部品・チップがある。
それ以外に、ドイツのDialog Semiconductor製の全く新しい電源管理回路と、
Cirrus Logic製の音声デコードチップとアンプ部品もあるのがわかる。
それ以外の一部の部品については今でも識別できていないものもある。

■M7コプロセッサ

M7はAppleの新しい方向性を象徴しているチップといえる。
バッテリーの消耗を少なくするために、
M7チップはアクセラレータ(加速計)や回転センサー、
コンパスなどのデータを収集し処理する役割を持つとAppleから公式に発表されている。
とは言ってもこのチップをロジックボード上で発見するのは非常に難しく、
一時はiPhone5sには実はM7コプロセッサなどは搭載されていないのではないかという噂も出たほどだ。
というのも、Appleが9月10日の新型iPhone発表イベントで、
上の写真の通りのM7チップの外観をプレゼンテーションで出していたことにより、
そのような外観のチップがあるような誤解をしてしまっていたようだ。

幸運にも、M7チップの正体は突き止められている。
M7コプロセッサとは、実際はNXPセミコンデンサー製による、
LPC18A1チップのことだった。
NXPのLPC1800シリーズの性能は非常に高く、
Cortex-M3のマイクロコントローラを元に作られている。
基板での位置は下の写真の通り。

これがM7チップだ!

M7コプロセッサの役割とは、
上述の通り、アクセラレータ(加速計)・回転センサー・コンパスの、
それぞれ独立したセンサーからの信号を変換・処理するというものだ。
Appleのこれまでの伝統からして、回転センサーとアクセラレータはSTMicroelectronics製と思われる。
またコンパスについてはAKM製のAK8963であることがわかっている。

■M7コプロセッサの子、三軸アクセラレータ、三軸回転センサーとデジタルコンパス

上述の以前は未知であった2つのMEMSは、
チップ上ではB361LPとB329の文字で分別されている。
前者のB361LPはBosch Sensortech製のBMA220三軸アクセラレータであることが確認されている。
AppleがBosch SensortechのMEMSを採用したのは初めてで、
これまではSTMicroelectronicsが独占していた。
ということで今回はBosch SensortechがSTMicroelectronicsの牙城を崩した形となる。

そして後者のB329という刻印のMEMSは、
STMicroelectronicsの三軸回転センサーであることが確実視されている。

デジタルコンパスに関しては、
上述の通りAKM製のAK8963が使われている。
AK8963の内部には方位磁石センサーが入っており、
これによってX軸・Y軸・Z軸を感知し、
それ以外にセンサー駆動回路、演算回路、そして電気信号増幅機能部がある。

■A7プロセッサ(CPU)

iPhone5sにはAppleの新しいCPU「A7チップ」が搭載されており、
このA7チップは64ビットのARM系プロセッサだ。
アナリスト達の分析によって、
早期からこのA7プロセッサはSamsung製であることがわかっている。
以下の写真でそのデザインや刻印等の詳細がわかる上に、
面白いのが最後の一枚は多結晶質シリコンの結晶粒だ。

■A7チップは間違いなくSamsung製

外観だけ見ると、A7チップは従来のA6チップ(iPhone5に搭載されているCPU)と殆ど同じに見える。
しかしやはり真相は内部に隠されている。
データでA6チップとの違いを見てみよう。
上の図はApple A6チップ(APL0598)を横から電子顕微鏡で見た、
一組のトランジスタの画像なのだが、
明らかにSamsungの32nmのHKMG(high-kおよびメタル・ゲート)プロセスで製造されている。
比較のために長さを測ってみたところ、
10個のトランジスタの長さの合計が1230nmなので、
1個のメタルゲートの距離は123nmということになる。

そこで今度はA7チップ(APL0698)を見てみよう。
上記と同じトランジスタのメタルゲートの距離を測ると114nmとなっており、
±5nmの測定誤差を入れたとしても、
A7チップのメタルゲートの距離がA6チップより確実に短くなっていることがわかる。
つまり、A7チップはSamsungのExynos 5410と同様、
28nm HKMGプロセスで製造されていることになる。
4nmと聞くとそれほど差がないように見えるが、
実質32nmから28nmプロセスになったことで削減されたのは大幅な面積で、
単純に直線の長さではないことに注目すべきだ。

実際の違いは
A7チップ:28nm × 28nm=784nm2
A6チップ:32nm × 32nm = 1,024nm2
となるが、つまりこれまでの77%の面積で同等の性能を発揮することができるのに、
A7チップのサイズは102mm x 102mmで、
A6チップのサイズは97mm x 97mmしかないため、
より多くの面積を使って更に高い性能と多くの機能を盛り込むことができたというわけだ。

■カメラ

更に高い画素数と、更に機敏なCMOSセンサー。
一体どちらがあった方がいいだろうか?
もちろん両方ともあった方がいいに決まっているが、
カメラシステムとチップの設計者は、
限られた条件の中では、
そのどちらかを選ばなくてはならない時がある。
Appleは画素数は800万画素から変えなかったが、
アクティブピクセルアレイの面積を15%増加し、
F2.2の絞りを搭載したことで、
iPhone5sのカメラシステムの感光性をiPhone5に比べて33%上昇させている。

iSightカメラの上に”DNL”という字体の刻印があるが、
これはレンズがSony(ソニー)のIMX 145であることを表しており、
これはiPhone4sとiPhone5と同じである。
レンズユニットの寸法は8.6mm x 7.8mm x 5.6mmで、
そのうち1つはiPhoneだけのために作られた1.5 µmのSonyExmor-RSスタックCMOSである。

上はX線で見たiSightカメラの側面図(画像)である。
これを見ると、ここの部分の設計はAppleの伝統的な設計理念に基づいて作られたものだということがわかる。
つまり1つのセラミックのチップホルダーの後ろ側に、
バックライト式CMOS画像センサーを搭載しているのである。
凹凸を利用した設計は、シグナル受とチップホルダーを連結させるためである。

また顕微鏡を使って見ると、
Exmor-RSセンサーの存在を確認できる。
まず見えるのがSonyのCMOSセンサーチップ(直通シリコンホール技術を採用している)。
このチップは富士通のパッド型デバイスに採用されている、
800万画素カメラのISX014センサーで採用されており、
その後Samsung Galaxy S4の1300万画素カメラのIMX135の中にも採用されている(フォトプロセッサ内に設置されている)。

■Wi-Fiチップ

このユニットにあるチップはBCM4334で、
iPhone5でもこれを見ることができた。つまり変わっていないということ。。
このチップの機能として、
IEEE 802.11 a/b/g/n single-stream MAC/baseband/radio、
Bluetooth 4.0 + HS、
そしてFM無線レシーバーも入っている。
このチップは2.4GHzと5GHzのユニットの前にセットで設置され、
後者はシグナル増幅器とT/Rコンバーターと低雑音増幅器機能を含む。

■Qualcomm 4G LTEモデム

次はQualcommのMDM9615M 4G LTEモデムだ。
このモデムはデュアルプロセッサによる処理を採用しており、
SamsungのDRAMに特定のキャリア情報を保存し、
またSamsung製のLTEベースバンドプロセッサを内包している。
最近はこういった設計が非常に流行となっており、
今年は多くのスマートフォンで似たような設計が採用されている。

■その他のチップ
これらについては既にiFixitにて既に紹介されているが、
おさらいしておこう。
・Broadcom BCM5976A0KUB2G タッチパネルコントローラ
・Qualcomm MDM9615M LTEモデム
・Qualcomm WTR1605L LTE/HSPA+/CDMA2K/TDSCDMA/EDGE/GPS受発信器
・Qualcomm PM8018 RF電源管理回路
・SKhynix H2JTDG8UD3MBR 128 Gb(16 GB)フラッシュメモリ
・TriQuint TQM6M6224
・Apple 338S1216
・Texas Instruments 37C64G1
・Skyworks 77810
・Skyworks 77355
・Avago A790720
・Avago A7900
・Apple 338S120L

さて、iPhone5sでは特にA7チップ(CPU)やM7コプロセッサ、
そしてカメラ関係のチップなどに一世代前のiPhone5よりも進化が見られているが、
それが購入の決断の後押しになるだろうか?
外観がそっくりなだけに、
内部の細かいイノベーションを気にするのはマニアだけかもしれないが、
いずれにせよiPhone5よりも快適に使えるのは間違いないと思われる。

ただ実際、今回iPhone5sの実機を触ってみて指紋認識センサー以外殆ど違いを感じなかった。
iPhone5sの進化を明らかに実感するのは非常に限られた状況だけになりそうな気もする。

記事は以上。

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