サイトアイコン 小龍茶館

深いデザイン談義も!2010年にスティーブ・ジョブズはこんな車に興味を持っていた

去年からAppleのEV(電気自動車)、Apple Carの開発プロジェクトとされる【Project Titan】の話題がメディアで取りざたされている。Appleは既にiOSの車載版「CarPlay」をリリースしていることからもわかるように、自動車業界との関係は今後強くなっていくだろう。

そんな中、The Guardianの記事によると、Appleの共同創業者で前CEOの故スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)が、2010年にとある開発中の自動車に非常に興味を持っていたことがわかった。その自動車のプロジェクトは【V-Vehicle】。創業者のブライアン・トンプソン(Bryan Thompson)はジョブズがいるサンフランシスコまで飛行機に乗って会いに行き、その自動車の開発計画について討論したが、その時にジョブズが自身のデザインに対する考え方などを語ったという。

トンプソンが作ったV-Vehicleチームの目標は、廉価な材料を使って軽量でガソリン駆動の、ウルトラモダンなデザインの自動車を製造するというもので、そのプロトタイプが【V-Vehicle】と名付けられていた。彼らはそのV-Vehicleの売値単価を14000米ドル(現在のレートで約150万円)に設定していたという。ジョブズが彼らのプロジェクトV-Vehicleに興味を示した段階ではトンプソンとそのチームは既に開発に2年を費やしていた。そしてシリコンバレー(Silicon Valley)の投資家のKleiner Perkins、Caufield & Byers (KPCB)の投資を受けていたため、ジョブズが興味を持ったようだ。

ジョブズは更にトンプソンをパロアルトの自宅に招待して、トンプソンに直接そのV-Vehicleの車を見せてくれと頼んだという。そしてチームは5時にジョブズの家にたどり着いた。ジョブズの息子のリードが、家から出てきてiPhoneのプロトタイプがうまく動かないよ!とジョブズに話しかけたので、ジョブズはリードに家に入っていなさい、と諭したという。

そして少々長い時間じっくりと車を見つめたあと、ジョブズは運転席に乗り込んだ。トンプソンは助手席に座った。後部座席にも2人別のスタッフが乗り込んだが、ジョブズは後ろの2人にすぐ降りるように指示した。「ここには誰も他の人に入ってほしくないんだ

ジョブズは15分間トンプソンと共に、1対1で主に素材とデザインの話をしたという。トンプソンはデザイン学校時代と車工場での勤務時代にプラスチックの研究をしていたことがあり、そのことがジョブズの素材に対する考え方や、認識とデザインの直感と合致したという。

V-VehicleのデザイナーはTom Matano 氏とAnke Bodack氏で、トンプソンが車体に採用した材質はポリプロピレンとガラス繊維の合成材。この素材によって、V-Vehicleは一般の鋼材でできた自動車よりも40%軽くでき、コストも70%抑えることができるという。当時トンプソンがジョブズに見せた車にはクリーミーホワイトのハッチバックの部分は塗装しておらず、車体にはアップグレード可能なボディパネルと”スペースフレーム”と呼ばれるフレーム形式を採用。設計技術には通常フェラーリ360やアウディなどのハイクラスの自動車に用いられるものを導入したという。

ジョブズは更に、「素材はもっと純正であるべきだ」と語ったという。特にダッシュボードに使われていた素材はファイバーウッドと呼ばれる合成樹脂とウッドチップの合成材だったのだが、「もっと高精度なセンスを呼び起こすような」単一素材で作るべきだと意見を出したようだ。ちなみにこのアイデアはAppleのデザインのトップ、ジョニー・アイブ(Jony Ive)現CDOの考え方を反映したものだ。

ジョブズはまた、若いデザイナー達に勇気づけるように、内装デザインももっと表面的なテンション(緊張感)を加えるべきだと進言している。外装デザインで達成していたような、力強いラインのように。「引き締まった表面は、パワーに満ちあふれている感覚を覚えさせる。まるで動物が獲物を狙っているかのように。そしてそれが見る人に製品に対して高品質とか、信用に足る、という印象を潜在意識下で与えるんだ」とジョブズは語った、とトンプソンは振り返る。「ジョブズは解決策は示さなかった。それは私の役目だから。でもジョブズの感性とフィーリングは私と深く共鳴していた。あの時間は私に非常に強力な興奮をもたらしてくれて、それが内装に対する感性を与えてくれたんだ」

ジョブズは、トンプソン達がメジャーな自動車メーカー出身でもない小さなチームで、会社のリソースなしにこのような優れたシンプルなデザインの車を作り上げたことに興味を持ったとトンプソンに語ったという。しかもそのデザインには「感情が込められている」と熱心に褒めたという。

帰りの飛行機の中で、トンプソンは彼のアイデアをまるで熱でも出たかのように描き出したという。「スティーブ・ジョブズと1対1で交流を持ったことで、僕は床に突っ伏して束の間のデザインの喜びにぐっとつかまれるような感じを持ったよ」とトンプソンは語る。

V-Vehicleはジョブズの関心を集めるほどの潜在能力を秘めていたが、最終的にはVC(ベンチャーキャピタル)がその計画に対して自信を失ったため、予算に届かずプロジェクト自体が失敗に終わってしまったV-Vehicleの名称はその後Next Autoworksと改名され、トンプソンは2015年にその設計開発資産を95億円でキャピタルマネジメント会社のLCVに売却し、ペンシルバニアのファームがイタリアにその製造拠点を作ろうとしている。そして製造拠点にかかる資金はTony Bonidy率いる元のV-Vehicleへの投資会社でもあったKPCBも提供するという。ちなみに、Tony Bonidyはスティーブ・ジョブズのNeXTコンピュータでディレクターを務めていた人物だ。

 

画蛇添足 One more thing…

ジョブズがV-Vehicleに興味を持ったのは、車製品を開発しようと考えたのか、或いは単に投資先として考えたのかはよくわかっていない。

しかしデザインに関して熱っぽく語ったジョブズの言葉の1つ1つが、あまりに深くものごとの本質を突いていると感じないだろうか。こんな言葉を1対1でジョブズから聞かされたら、全てのメーカーや開発、そしてデザインに携わる人達は熱いパッションを注ぎこまれるだろう。やはりすさまじいセンスをもった希代の経営者だったのだろう。

ちなみに、ジョブズは自動車の開発に興味は持っていたが、iPhoneなどの重要な製品の開発に「選択と集中」したため、自動車の開発には手をつけられなかったことが知られている。元AppleのSVP(上級副社長)で、最近NestのCEOを辞任した”iPodの父”ことトニー・ファデル(Tony Fadell)が、ジョブズとの自動車開発に関してかつて語り合ったエピソードをメディアに語っている。詳細は当ブログ記事にて。

ちなみに、Appleと縁のあるデザイナーは、車のデザインもしている。

▼イギリスのデザイナー、マーク・ニューソン(Marc Newson)が1990年代末にフォードとの提携で作った車のデザインはこんな感じだ。マーク・ニューソンは同じイギリス出身のジョニー・アイブと仲が良く、Apple Watchなどのデザインに主に携わったとされ、2015年にAppleのデザインチームに加わってApple Carのデザインにも関わっているとされている。

Photograph: Marc Newson/The Ford Motor Company

▼”バブル・カー”と呼ばれるデザインで、公式にはCOAS(Car on a Stick)と名付けられた視界性に優れた4人乗りの車のデザイン。もしかしたらちょっと見たことがあるデザインだと感じないだろうか?実はこのデザインをしたRoss Lovegrove氏はAppleのデザインの歴史の一部でもある。彼はフロッグデザイン(Frog Design)で働いており、1980年代のApple製品のデザインはフロッグデザインが担当していたからだ。

Photograph: Ross Lovegrove

スティーブ・ジョブズが興味を持っていながら、最終的には実現できなかった自動車プロジェクト。現在完全に水面下で動いているのは間違いないようだが、実現したら上のような奇抜なデザインが採用されるのだろうか。

記事は以上。

(記事情報元:The Guardian

モバイルバージョンを終了