Apple関連のアナリストとして著名なMing-Chi Kuo(郭明錤)氏(TF International Securities、天風国際証券)は、Appleのティム・クック(Tim Cook)CEOがサプライチェーンを変更したため、米国が中国からの輸入品に対して新たに引き上げられる10%の関税が、Appleの米国国内価格や出荷に影響を与えることはないと考えているようです。
Apple、米国の対中関税引き上げ分の影響の一部を中国外の製造を増やすことで軽減か
Apple Insiderによって確認されたMing-Chi Kuo氏による分析では、市場はAppleが米国の輸入関税増加分を製品価格に転嫁することでApple製品の需要が縮小することを懸念しているとされています。ただしKuo氏は、「Appleはティム・クックCEO主導のもと、既にこの関税引き上げの準備をしており、もちろん(規則に従って)10%の関税を支払う必要があると考えています」と述べています。
Kuo氏は、Apple自身が関税引き上げによるコスト増加をそのまま肩代わりすれば利益に悪影響が出るとしながらも、その影響の一部は、インドでの生産拡大やベトナムでの生産開始など、Appleがサプライチェーンを中国以外の国に移すことで、時間の経過とともに軽減されていくと分析しています。
Kuo氏は、中国以外のiPhone、iPad、Apple Watchの製造が2020年までに米国市場の需要を満たすことができると考えています。ただしMacは別問題で、中国以外での生産では2021年までは米国の需要を満たすことができないとしています。
トランプ大統領の対中関税引き上げに関するTweetが話題に
去る8月1日の一連のTweetの中で、トランプ大統領は中国からの輸入品目において、おもちゃ、ゲーム、そして家電製品に10%の関税引き上げをすることを約束した。これのTweetは、中国が「大量の」米国の農業を購入するという約束を守らなかったことを受けて、米国の要求を強要するものとされています。
Our representatives have just returned from China where they had constructive talks having to do with a future Trade Deal. We thought we had a deal with China three months ago, but sadly, China decided to re-negotiate the deal prior to signing. More recently, China agreed to…
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) August 1, 2019
関税引き上げは一般的には消費者にそのしわ寄せが来るのが原則
関税率は大統領が5月に宣言した25%引き上げにはなりませんでしたが、10%になるのは間違いなさそうです。関税引き上げ分は一般的には、Apple・SONY・Microsoftなどのハイテク企業は自身では儲けの中で吸収しませんし、また製造元の中国企業によって支払われるものではありません。一般的に、ウォルマート(Wal-mart)を含むこれらの関税引き上げの影響を受ける企業は、これまではその引き上げ分を商品代金に上乗せして、米国の消費者にその費用の支払いを転嫁してきました。
日本でも消費税の引き上げがあると製品代が高くなるというのと同じ原理です。当然企業としてはそのように動くのが原則ともいえますが、商品の値上げによってものが売れなくなるのと、利益が一気に減るのとどちらがいいかという天秤にかけて判断するでしょう。
ティム・クックCEOは中国からの生産シフトについて肯定せず
Appleのティム・クックCEOは先日行われた2019Q3(会計年度)の決算発表後の電話会議でアナリストに対し、Appleが生産を中国からシフトしているという報告に頼らないよう、明確に伝えています。クックCEO自身がわざわざこの問題について言及しているのにもかかわらず、Kuo氏がなぜこのような予測・分析をしたのかについては定かでありません。クックCEOは恐らく現行のサプライチェーンや中国市場での反応に配慮して、上記のような発言をわざわざしたのではないかと考えられます。
その代わり、ティム・クックCEOは米国テキサス州でMac Proを製造し続けたい意向を示しています。現行の「ゴミ箱」型Mac Proは実際にテキサス州で製造されていますが、新しいMac ProはQuantaが受注したため、製造は中国国内で行われる予定です。Mac Proは単価が高いため、関税の引き上げの影響をもろに食らう機種でもあります(iPhone XS Maxも十分に価格が高いですが)。
正直米国では既に電子機器を製造できる作業員の質が足りなくなっていると聞きます。東南アジアなどでは同様の人材問題に加え、更に上流の部材を揃えるのが大変ということもあり、結局は中国以外でのものづくりはやはり難しいのが現状ではないかと思います。とはいえ実際に移管を担当するのは台湾企業ホンハイのフォックスコンだったり、同じく台湾のペガトロンやウィストロンであって、既に東南アジアや米国に生産拠点を拡大或いは移管の動きが報道されています。
米国での売上げ確保のためには価格の値上げは避けたいApple、生産シフトの効果はいかに?
いずれにせよ、なんだかんだでApple製品が一番売れているのはお膝元の米国です。米国で売れ行きが悪くなると、屋台骨を揺るがしかねません。Appleとしても既に価格が競合製品よりも全体的に高い製品を、更に値上げすることで消費者へ関税引き上げ分を負担させるのは難しいところでしょう。Appleの一部の生産を中国外へ移管することで、どれほど同社の利益率に影響があるか、それは今後の各四半期の決算で明らかになっていくことでしょう。
記事は以上です。
(記事情報元:Apple Insider)